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 玲華の予想に違わず、初夜の翌日以降、龍綺の訪れはぴたりと止んでしまった。

 そもそも彼には、玲華と結婚する少し前から、妻ではないが寵愛している娘がいるらしく、それで事足りているのだろう。


 だからといって、玲華と龍綺は、互いに全く顔を合わせないわけではない。


 形式上、二人は間違いなく夫婦だ。そのため、晩餐会などの対外的な催しは、二人連れだって参加するものであり、会場ではお互いに「白々しい」と内心げんなりながらも、それなりに上手くいっている夫婦を演じている。


 催し事への出席はとても疲れるが、しかし、それ以上に玲華が疲労を感じるのは、何事もない日々の生活であった。

 身の回りのことは、全て周囲の者が行うため、玲華は結婚早々、することがなく手持ち無沙汰となっていた。


(どうやって時間を過ごしたら良いのかしら……)


 今までは母の看病を含め、ある程度、自分たちのことは自分たちで行ってきたせいか、正妃としての生活は、時間を持て余してしまう。

 そう、皇女として、この地に来た玲華に対し、兄である第二王子は調度品等だけではなく、身の回りの世話をする者も十分につけてくれていた。


 しかし、困ったことが一つ。

 皆、悪い人ではないが、年が離れており共通の話題がないうえに、玲華を皇女として、うやうやしく扱ってくれるため、なかなか気軽に話ができるような雰囲気ではないのである。


 せめて話し相手がほしい、と願うものの、自分の身の上を考えれば贅沢なことなのだろうと半ば諦めていた玲華であった。







 そんなある日、玲華は侍従頭に一人の少女を紹介された。

 快活そうな目をした少女は、


「千早、と申します」


と名乗り、深々と頭を下げた。丁度玲華と同じくらいか、少し上といった年頃の娘である。


「もともと、第二皇子のお屋敷で召使いとして働いていましたが、私、翔の国出身なんです。そこで風土や習慣に詳しいだろうとのことで、玲華様のお世話を仰せつかりました」


 そう言った彼女は、人好きのする笑みを浮かべて、こう続けた。


「何なりとお申し付けください」


 第一印象としては、さっぱりとしていて付き合いやすそうな性格であるように思われた。是非とも仲良くしたい、との想いを込めて、玲華もまた丁寧に頭を下げた。


「よろしくお願いしますね」


 すると千早は、嬉しそうににこりと微笑む。

 元気に入室してきた彼女だったが、やはり緊張はしていたのだろう。その硬い空気がほぐれ、その場の雰囲気も一気に和らいだ。


 そうして二人は、もう少し詳しい互いの自己紹介などを交えながら、今後のことなどを話し込む。


 やがて、千早の仕事の大部分について理解したところで、それまでは歯切れ良く、はきはきと話していた彼女が、少しだけ言い淀んだ。


「それと、その……」


 何か言いにくい仕事内容が他にあるのだろうか、と思いつつ首を傾げ、話の続きを待っていると、やがて千早は意を決したように、こう告げた。


「とても恐れ多いことなのですが、私、玲華様と年が近いので、是非話し相手に、とも仰せつかっておりまして」


 その台詞は、やや口ごもっていたのだが、それも一瞬のことだった。

 千早による玲華への第一印象もまた良好だったようで、彼女はすぐに打ち解けた様子で、言葉を続けた。


「ですから、あまりかしこまらず、もっと気安い感じでお話していただけると、とっても嬉しいです」


 その言葉に対して、私にも気安く話しかけてほしい、と言いたいところだったが、それはぐっと堪えた。

 今の玲華の立場は降嫁した皇女であり、気安く話しかけてほしい、と言ってもただ相手を困らせるだけだ。だから玲華はにっこりと微笑んで、


「千早が話し相手になってくれるのなら、とても嬉しい。これからよろしくお願いね」


と彼女の望みに応じた。

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