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氷の王は、美しく啼く皇女という名の小鳥を飼う【連載版】  作者: しののめ


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 龍綺と別れて自室へ向かう途中、夜会の準備のために玲華を呼びに来た千早と出くわした。

 彼女は玲華を一目見るなり、心配げに表情を曇らせた。


「どうかなさいましたか?」


 どうやら自分は随分と困惑した顔をしていたらしい。

 ともあれ、千早の力を借りなくてはどうにもならない事態なので、先ほどの龍綺との遣り取りを掻い摘んで説明し、衣装を替える必要があることを告げると、


「大丈夫ですよ」


と千早は玲華を安心させるかのように柔らかく微笑んだ。

 衣装は、万が一に備えて、色々準備していますから、と言った千早が、塗籠に衣装を取りに行ったので、玲華は自室でそれを待つことにした。


 しばらくすると、千早が数名の女官を引き連れて戻ってきた。その女官たちの手には畳紙に包まれた衣装や化粧の道具などがあった。

 そして、


「どうぞ」


と広げられた衣装を見た瞬間、思わず玲華は千早を凝視した。そして、恐る恐る口を開く。


「その……本当にこれで良いの?」


 すると千早は自信たっぷりに頷いた。


「もちろんです。玲華様が纏うのに相応しいお召し物だと自信を持ってお勧めいたします」


と。




☆




 そんなふうに、急な衣装替えという想定外の出来事があり、その変更した衣装に少々不安を覚えたものの、夜会はつつがなく行われ、大きな失敗などもなく、ひとまずは成功裏に終わったといっても良い結果だった。


 なお、急な衣装替えを命じた当の本人は、玲華の姿を、何の感慨もなさそうな瞳でちらと見やっただけだったが。

 何か一言でもあって良いのでは、とも思ったが、これがいつもの龍綺なのだから仕方ないことなのだろう。

 ただ、夜会を終えた後、


「少し二人で話をしたいな」


と呉羽が玲華を誘った時には、少しだけ眉をひそめたが。


(何か私がお兄様に吹き込むとか思われているのかも)


と、そんなふうにも感じられる。しかし、そう思われているのであれば、流石に心外だった。

 どのような形であろうと、玲華は今、翔の国の王の妻である。翔の国の不利になるような言動は、常に慎んでいるつもりである。


(その辺くらいは信用して欲しいのだけれど)


と思うものの、やはり彼の立場的には無理なのだろう。




 玲華は、呉羽と共に庭へと出た。来賓をもてなすための正式な庭である。


「よく手入れされているね」


 そんな呉羽の賞賛の言葉どおり、在来種や外国の珍しい花を美しくしつらえた庭園は、流石、華やかさと美しさを兼ね備えており、賓客をもてなすのに相応しかった。


 ……女性の貴人は、花の名に対して博識であることが求められる。玲華は、庭に咲く主立った花々について説明しながら、呉羽を東屋へと導いた。


「こちらへ……」


 相手に、格調高い黒檀の椅子を勧め、彼が腰を下ろすのを確認した後、自分もその対面に座る。

 そうして、ここでの生活についてなど、当たり障りのないことを話し続けていた玲華だったが、ふと、呉羽の口数が随分と少ないことに気付いた。


 第二皇子といえば、弁舌巧みであることで有名だが、今日の彼は、何故かじっと玲華の姿をひたすらに見つめている。

 少しばかり居心地の悪い気持ちになった玲華が身じろぎをすると、不意に彼は、


「玲華」


と口を開くと、何を思ったのか唐突に、こう尋ねてきた。


「龍綺殿に無体を働かれたりしていないかい?」


 その思いもがけない問いかけに、一瞬玲華の脳裏に夜会前の遣り取りが頭を過ぎったが。


「まさか」


 玲華は一蹴した。

 夜会の前に押し倒された時も、結局のところ、特に差し迫った身の危険を感じたわけでもなかった。だから玲華は柔らかに微笑んで、


「とても紳士的な方です」


と付け加えた。

 その言葉を聞いた呉羽は一度大きく目を見開き……そしてくすり、と意味ありげに微笑んだ。


「そうだね。とても……彼は紳士的な人だ」


 何か含むものがあるような言い回しだったが、その後、彼は気を取り直すかのように一度咳払いをすると、


「言い忘れていたけれど」


と続ける。


 玲華を眺め、少し眩しげに目を細めるその様子からは、確かな親愛の情を感じた。彼にとって自分という存在は、駒であることが最大の意義だが、それでも多少は兄妹としての縁を感じてくれているのかもしれない。


 そんなことを考えながら、相手の次の言葉を待っていると、呉羽は思いのほか柔らかく微笑んで、こう言った。


「その服、とても君に似合うよ。千早に見繕ってもらったのかい?」

「はい。彼女には色々と助けてもらっています。本当に、ありがとうございます」


 千早は呉羽が付けてくれた侍女であると聞いている。彼女の存在は玲華にとって何よりも心強く、そして癒やしを与えてくれるものだった。

 玲華が感謝の意を伝えると、呉羽は鷹揚に笑って、そして言葉を重ねた。


「綺麗だよ」


 一度軽く目を閉じ、そして開いた。


「綺麗な碧。――翔の国の色だ」


 その声には、何故だろう、ほんの少しだけ「寂しさ」のような感傷が含まれているような気がした。

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