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 玲華の部屋の様子を堪能した呉羽を、一旦他の者に任せた玲華と龍綺は、連れだって応接室へと向かった。

……呉羽の目がある以上、用事が済んだ途端に、よそよそしく別れるわけにはいかなかったからだ。


 部屋に入った龍綺は人払いをすると、言葉もなく、どかっと乱暴な動きでソファに身を沈める。眉間に深い皺が寄っているのは、相当疲れているか苛ついているかのどちらか……否、両方だろう。


 あの、飄々として掴み所のない呉羽を相手にしたのであれば、仕方のないことだと思うため、


(私がいると、余計に疲れが増してしまうのかも)


と、流石に龍綺を思いやる。


 また、皇国の血筋の接待は、それはそれは気の張る仕事である。そのせいか、準備を任されて忙しなく走り回る屋敷の者たちの中には意識的ではないにせよ、


「妹姫に応対を任せておけば、ある程度無難にこなせるはずだ」


という雰囲気が漂っており、そんな疲れ切った彼らの哀願の念を無視することもできなかった玲華は、隙間時間などの呉羽の相手を請け負っていたのである。


 そのため玲華は長居を避けようと、


「では、私は次に備えようと思いますので、一旦失礼……」


いたします、そう続けて場を辞そうとした。


 が、


「お前の兄の相手は疲れるな」


と不意に声をかけられ、玲華は思わず途中で口を噤んだ。まさか、向こうから話しかけてくるとは思わなかったからだ。


 龍綺を見やれば、彼は深く目を瞑ったまま、こちらを見ているわけではない。つまりそれは、


(……話しかけた、というよりは、苦情を言ってみたということかしら)


ということだろうか。


 しかし、何にしても彼から話しかけてきたのだ。玲華はその機を逃さず、自分の中に芽吹いていた懸念を口にした。


「大丈夫だったと思いますか?」

「……何がだ」

「私たちが仮面夫婦であることを、見破られはしなかったでしょうか」


 いつも公の場では、それなりにそつなく「良い夫」を演じている龍綺であるが、今日は何となく苦々しい表情が勝っていたような気がする。

 ……呉羽のことが苦手だということもあるのだろうが。


 しかし。


「くだらない」


 龍綺は玲華の憂慮を一蹴した。彼は額に手の甲を当てた億劫げな姿勢をしつつ薄く目を開くと、


「余計な心配せずとも、第二皇子の目は、十分に欺けた」


と言い切る。

 その、妙な確信を不思議に思うものの、


(そういう話になっていたのかも)


とも思う。

 この婚姻を決めたのは、結局のところ呉羽と龍綺だろう。否、正確に表現するならば「呉羽の申し出を龍綺が渋々受け入れた」という形だろうが。

 その際、彼らの間で「政略結婚という性質上、玲華に対しては、これだけのことをしておけば良い」という暗黙の取り決めを交わしているのかもしれない。


 何にせよ、


(私には窺い知れないことね)


と割り切った玲華は、今度こそ、部屋を退室しようと試みた。


 が。


「待て」


と再び龍綺に呼び止められたため、もう一度足を止めざるを得なくなり、


「はい」


と応じ、彼に向き直った。

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