13
玲華は一つ、宝物を持っていた。それは母から譲り受け、片時も離さず身につけている、綺麗な青い石のついた首飾りだった。
涙のような形をしていて、母が、
「これはね、辛い時、哀しい時、代わりに少しだけ、その気持ちを吸い取ってくれるのよ」
と何度も繰り返し、そう教えてくれた。
だから、
「あのね、これ、持ってみて」
と玲華はそれを首から外し、少年に差し出した。
唐突な玲華の行動に、少年は少しばかり面食らったようである。
「……?」
不思議そうに首を傾ける少年に、玲華は自分の行動の意図を説明した。
「お母さんが言ってました。哀しい気持ちを、少しだけ吸い取ってくれるって」
とてもつたない説明だったが、玲華の思いは少年に伝わったようだった。彼は玲華の手から首飾りを受け取ると、それを眺め、そして、
「これは……」
と声を漏らした。吸い込まれるような青い石を凝視した後、彼は玲華と石を交互に見比べる。そして、首飾りを玲華の掌に返し、握らせる。そして真剣な瞳で、こう言った。
「これは、そんなに簡単に人に渡しては駄目だ」
「え?」
予想外の反応に、玲華は困惑する。しかし、少年の真摯な様子に引き込まれ、やがて一つ大きく頷いた。すると少年もまた頷いて、
「大事に持っておくといい。それはきっと、君をあるべき場所へ導いてくれるだろう」
と、そんな仰々しい台詞を紡ぎ、そして……ふと気が付いたように、玲華の鞄を見やった。魁が入った袋で、寸が足らず、少しだけ魁の頭が飛び出している。
少年はそれを見ながら、問いかけてきた。
「それは楽器か?」
魁は、暁の国では特に珍しい楽器ではない。だから、これを知らないということは、彼は隣国である皇国出身なのだろうか。そんなことを考えながら、玲華は頷いた。
「はい」
答えると、少年は更に、こう問うた。
「弾けるのか?」
「少しだけ。でも、どちらかと言うと楽器を弾くより、歌うことの方が好きなんです。だから、いつもここで死者を慰める歌を歌っています」
決して楽器は得手ではない、ということは伝わったようで、少年は「そうか……」と静かに相槌を打つと、一度大きく空を見上げた後、ゆっくりと口を開いた。
「もし良かったら、君の歌う鎮魂歌を聞かせてくれないか。きっと妹も喜ぶ」
と。
顔は見えないけれど、もし見えたのならば、きっと彼は柔らかな表情をしていたのではないだろうか。そう思えるような穏やかな声に、玲華もまた素直に頷いていた。
「はい」
そう答えて、魁を鞄から取り出し、構える。左手で楽器を抱え、右手の爪で弦をかき鳴らす。その伴奏に合わせ、鎮魂の歌を静かに紡いでいく。
高く、低く。
祈りを捧げるその歌を、少年は微動だにせず聞いていた。