12
凍てつくような眼光に晒され咄嗟に、逃げ出したい、と思ったが、足が縫い止められたように動かない。
答えなければ、この動けない呪縛は解けないような気がして、玲華は何とか声を絞り出した。
「あ……その、お参りに……」
そして敵意がないことを示すよう、手に持った花をそっと掲げた。
すると少年は、はっとしたように息を呑むと、
「そう、だな……悪い。ここは共同墓地だったな」
とやや警戒心を緩めたように感じられた。
どうやら、玲華がまだ子供であること、そして手に花を持っていることから、ある程度、こちらの言い分を認めてくれたらしい。
「俺のことは気にせず、故人に参るといい」
そう言われたものの、玲華の参る墓の前を少年が陣取っているため、難しい。困ったように首を傾げていると、少年にも察するところがあったのか、玲華と墓を見比べ、
「ここに来たのか?」
と尋ねてきた。玲華は素直に頷く。
「はい。私の友達なんです」
「……そう、か」
頷いたまま、再び沈黙した少年に、玲華はおずおずと口を開く。
「あなたは……?」
詮索して良いものか迷ったが、同じ人間を弔う者として、相手の素性を知っておきたいという気持ちが勝った。
少年は、じっと玲華を見やり、やがて、
「兄妹」
と、そう短く答えた。玲華は一つ、頷く。
「そう、ですか」
彼女に兄がいたという話を聞いたことはなかったが、この界隈では「実は兄弟がいた」ということは当たり前のようにあったので、玲華は素直に「そうだったのね」と納得した。恐らく親の違う兄妹だったのだろう。
そうして再び、二人の間に沈黙が落ちる。少年は決して雄弁なたちではないようだ。
玲華も、特に彼に話しかける理由もなかったので、摘んできた花を墓前にそっと添える。
そこには、既に少年が供えたらしき美しい花があり、それに比べると玲華の花は随分と貧相に見える。しかし、これが今の玲華にできる精一杯であるため、劣等感を抱くことはない。
少年も、
「ありがとう」
と礼の言葉を述べる。相変わらず顔はよく見えないものの、少しだけ口元が緩んだ気がしたので、もしかすると微笑んだのかもしれない。
そして玲華は、少年の横に並び、いつものように目を閉じて静かに黙祷を捧げた。
やがて黙祷を終えると、隣の少年にちらと視線を送る。彼の表情は窺い知れないが、しかしこれだけは分かる。彼が本心から家族の死を悼んでいることに。
もしかすると、何か後悔するところがあるのかもしれない。
……恐らく、内なる苦痛に静かに耐え忍んでいるのだろうその人を見て、玲華には一つ、思いつくことがあった。