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治安の悪い地域のため、人が死ぬことは日常茶飯事だった。
しかし、身近な人間の死に初めて直面した玲華は、まず呆然とし、その後はとにかく泣き腫らした。
(どうして?)
誰かの恨みを買うような性格ではなく、殺されるなど、思いも寄らないことだった。
彼女の遺体の状況については、大人たちは子供である玲華に聞かせないよう努力していたようだが、それでも漏れ聞こえるものがあった。とても無残な殺され方だったと。
……そして、玲華が彼女の遺体を見ることはなかった。
彼女の遺体は、町の共同墓地にひっそりと葬られた。
玲華の知る限り、彼女には身寄りがなかったので、弔いに訪れる者は、彼女の近隣住民くらいで……つまり、哀しいほどに少なかった。
だからこそ、玲華はしばらく、毎日彼女の墓地を訪れ、花を添えた。
貧しかった玲華が用意できる花は、道端に咲く「日の香」という花くらいだったが、無機質な墓標が並ぶその中で、優しい色合いを持つその花は、亡き人の魂を慰めてくれるような気がした。また、時には魁を携え、鎮魂歌を歌った。
そんなある日。
それは、今にも雨が降り出しそうな曇天の黄昏時だったように思う。
(あれ……?)
いつものように手には花、使い古した鞄に魁を入れて友人の墓参りに訪れた玲華は、目の前に広がる光景が普段と違うことに気がついた。
いつもは誰もいない墓地に、珍しく玲華以外の弔い客がいたのである。
人目を忍ぶかのような、真っ黒な服装で、更にフードを目深に被っている。一見怪しげに見えるが、訳ありの人間が集うこの界隈では決して珍しくもない格好だ。
その人は、玲華の友人の墓の前で、打ちひしがれたように立ちすくんでいた。
フードで顔が隠れているのではっきりとは視認できないが、雰囲気や体格からは、大人ではなく少年のように感じられた。少し自分より年上くらいではないだろうか。
近寄り難い雰囲気があり、玲華は邪魔をしてはいけないような気がした。だから、今日のところは来た道を引き返し、明日にでも出直そうときびすを返した。
しかし。
パキリ、と枯れ枝を踏む音が、静まりかえった墓地に妙に大きく響いた。
途端。
「誰だ!?」
厳しい誰何の声が響き渡り、少年が勢いよく振り返る。
辺りが薄暗いため、やはり顔は明瞭ではなかったが、何故だろう、ひどく眼光が鋭いことだけは感じ取ることができた。