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 そんなある日、千早から、


「第二皇子から、このような物が贈られてきました」


と玲華に手渡されたものがある。美しい紫の正絹に包まれたそれは、一つの楽器であった。


「これは……」


 玲華はそれを受け取りながら、目を瞠る。

 楕円形の胴に四つの弦が張られた「魁」と呼ばれるその楽器は、この国ではなく隣国である暁の国の楽器である。この国で見るのは珍しい。


 玲華もその楽器を弾くことができるのだが、それは昔の友人の影響であった。女である自分から見ても大層美しい年上の少女で、魁の名手だった。珍しい楽器に興味を示す自分に、丁寧に手ほどきしてくれたものだ。


 玲華自身は、魁の腕は人並み程度であるが。


(思い出すわね)


 最後に弾き語りをしたのは、鎮魂歌だったように思う。

 目を閉じると、その日の光景が浮かんだ。





 玲華が暮らしていたのは、この翔の国が属する皇国ではなく、隣国の暁の国であった。皇国との境目の都市で、色町を中心として栄えてきた、やや退廃的な町だった。


 治安は決して良くないが、しかし、どんな素性の人間をも受け入れる寛容さも併せ持つ地域であり、住民は皆、何らかの事情を抱えつつ懸命に暮らしていた。


 そんな中、玲華は色町で働く母と二人で暮らしていた。

 女二人、かつかつとした生活だったが、母は自分を大事に育ててくれたし、同じような境遇の友人がいたため、寂しいと感じることはなかった。


 特に親しい友人は二人で、どちらも美しい少女だった。

 二人とも玲華より年上だったが、そのうち一人はいつの間にか姿を消し、もう一人は亡くなってしまったが。ただ、突然住民が姿を消すということも、この町ではよくあることだった。


 先に述べたとおり、いつの間にか姿を消した方の少女は少し年が離れており、このような物騒な場所で生活していて、よく人さらいに遭わずに済んでいるなと危ぶむほどに美しかったが、それ以上に玲華の心に残っているのは、彼女がとても上手に魁を奏でるということだった。


 そして、幼い頃から歌が好きだった玲華は、その調べに合わせてよく歌ったものだった。また、魁の弦をつま弾く指の動きを不思議そうに眺める玲華に、彼女は姉のように優しく、その弾き方を教えてくれた。


 そんな彼女は、その「魁」を住み処に置いたまま、忽然と姿を消してしまった。しかし、その音色が失われることを寂しく思った玲華は、それを受け継いだ。


 弾くことより歌うことの方が好きな玲華であったが、伴奏があると、より情感がこもるので、弾き語りをすることが多くなった。


 そうしてしばらく経ったある日、もう一人の年の近い方の友人が、亡くなった。


 ……誰かに殺されたのだ。

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