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泣いた烏  作者: 実嵐
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悔いなしは案外・・・

彼の心はいったい何が映っているのだろうかと問うものは数知れている。答えることはない。無論消えた言葉や行動は矛盾を生むのだと何度誰かが言っても聞く耳を持たないだろう。トライアングルなんてゆがんだものを好む人だっているんだ。プラスチックの前にいても何も心情は変わらない。

「久しぶりです。立花さん。」

「玲はどうだ?決まっているのか。死刑の日は。」

「勝手に決めて当日に知らされるだけですからね。それより大量の本有難うございます。紙袋パンパンだったじゃないですか。重くなかったですか?」

青柳は楽しそうに言った。飾らない姿を見ているとすがすがしい。彼の笑顔も同様だ。こんな姿、遺族が見ていたら怒り心頭だろうが人の命は変わらない。

「重かったさ。けどね、本というのは癒しをくれるんだ。特に、君の笑顔が見られるためにだったらするさ。借りも貸しのない世界だ。1つ言っておくがな。忘れたけどどれかの本に紙が挟んでいるから読んでくれ。」

「わかりました。」

季節も時代も変わるというのに変わらないものが目につくのだ。それは誰に問うても同じ答えだろうか。最初のころの声とは違いがあるほど弾んでいる。再審請求なんて馬鹿な事はしなかった。やったと認めているからだ。家族にも縁を切られても世間は知ったことじゃないのだ。何処かで冤罪で嘆いている人がいるかもしれないが、司法という組織団体は聞き入れないだろう。メンツをつぶしているのは誰かもわかっていないのだ。残念とか唖然とか以前に一人前に人を裁いた気になるなといいたいのだ。色眼鏡でしか見ていない人間がどうやって正しい判断できるだろうか。すでに無茶だと答えは出来上がっている。

「立花さん、事件調べているんですか?」

「未解決事件ってのは時間がたつと不利なんだ。加工されて出ていたりするからね。」

「それでも調べているんでしょう。正義だとか言っている人よりよほどいいです。尊敬します。」

死刑囚から尊敬されるのを嫌がる人もいるかもしれない。当たり前だろう。人を殺しているんだ。だけど、安易な判断もできぬものだというのだ。

「俺は刑事とかは嫌いだ。なったのはお前だけには告げておこう。あいつは知ってるから。」

「なんです?」

「復讐するためだけに生きてきた。警察は誤認逮捕すら自分たちの責任だといわなかった。その上、偽造に協力していた。真実はそんなものだ。俺はもう此処には来ない。最後だよ。玲、有難う。誰にも言うなよ。」

パイプ椅子から彼は立ち上がった。思い残すことはないというように立ち去ろうとした。

「待ってください。貴方はそれでよかったんですか?」

背中は何時も見ている背中とは違っている。大きかった頼もしかった背中は小さかった。

「それでよかった。俺の人生は終わりがある。誰にも伝わらなかった。親父もおふくろも警察に殺された。それが真実だ。」

ドアの乾いた音だけが残った。青柳は何も言えなかった。思うのはこの人もまた人生に悔いなしと言い切ってしまうところだ。


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