裏切れない言葉
警視庁に足を向けて歩いた。団体の話を聞いて信憑性を疑うことにあるのだろう。けど、有無を問いだしたら警察や政治家の話を嘘を前提に聞いていることになるのだ。
「黒崎、俺ちょっと1人で行ってくるよ。あそこが開いていたらということがあるがな。調べものはいったんやめてもらっていいよ。」
「そうですか。じゃあ先に戻ってます。もう食事時ですからね。」
読み切った声にほっとしていた柴田はビルを見つめた。警視庁の近くに来ても何処か邪魔が入ってきているようにしか思わなかった。路地は昔と今が混在しているのにそれをレトロだの言っているのはいい言い方をすればとなっているのだろう。そんなことを思いながら歩いていたら暖簾がぶら下がっていた。空いているといっているのだ。ドアをゆっくりと開けた。
「いらっしゃい。・・・って柴田か?」
「久しぶりだな。菊岡。繁盛してるのか?」
「この状況でよく言うぜ。時々閑古鳥が鳴いているよ。客なんて来ないときだってあるんだ。それよりなんだ。別の話があるから来たんだろ。そうじゃないとランチ時に来ないよな。」
水を出しながら勘の鋭さに怯えてしまう。柴田はある意味環境が生んだ才能なのだろうと思った。望まぬ才能だと笑うのだろうか。何も言わずに料理を出してきた。ランチには料亭並みの料理を披露している。ホテルが欲しがるのは無理はない。
「立花は来ているのか?」
「最近は回数は減ったけど来ているよ。何時途切れるかひやひやしているのをそっちのけでな。」
菊岡は自分が食べるまかないを作っていた。夜じゃないから飲むわけにいかないっていうことはないだろう。何時閉じるかわからないといっているのだから。
「あいつの話か。」
「養護施設で何があった?白石のことが原因か?」
「園長が話したがらない話題だな。栄一は復讐に走った。それを一番近くで見ていたのは誰だと思う?」
沈んだ声は放つ静かな怒りをひしひしと感じていた。養護施設は事情があってきているのに世の中に出ても色眼鏡をかけられて見られる。
「信之だよ。あいつと仲が良かった。中学に上がって仲が良くなって遊んでいた。それから環境が似ていたことで盛り上がって、2人だけの秘密として出てきたのが栄一が起こした復讐だよ。それで栄一は死んだがそれを応用できるのではと考えた。リークがあってから人への信頼はなくしていたから。俺とでも暗号で交換日記をしていたほどだ。」
「それで妙な事を起こさなかったか?」
「それは俺は言えない。俺はあいつとの約束がある。此処に来なくなった困るんだとね。」
菊岡がホテルをやめてまで守りたいものを身近で感じられるのだろう。世の中での絶望を失いたくないのだろう。




