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泣いた烏  作者: 実嵐
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偽りの捜査

「あんたがかかわった証拠なんて二課なんだ。っていうか、あるから呼んだんですよ。」

柴田はスーツの懐から折りたたんだ紙が出てきた。それを捨てるように机に置いた。黒崎は拾い上げた。藤田製薬会社の裏帳簿だ。名前がはっきり出ているのを見ているとわからないと思っていたのだろう。一課長は少し目を見開いた。

「これがなんだというのだ。何の口止めと思っているのだ。」

「なんだかんだ言う割には認めているってことでね。ぼろを出しておいて吐いた言葉は飲み込むのに苦しいだけですよ。しゃべってすっきりしたほうがいいんじゃないんですか?それとも過去の事件に未練だの言っているのがくだらないのですか?」

一課長に就く前は捜査一課の刑事であったのだ。藤田製薬会社のことを聞きつけすぐに行こうとしたが、上からの圧力で少しの間動くことができなかった。その上、他殺の所見を自殺にしろと上の命令が来たのだ。抗うことができず、従うしかなかった。ただ1人、抗った人間がいる。未解決事件捜査課の浅間課長だ。淡々と語っているように見えたが手の震えは消せなかった。

「浅間さんは抗った罰ということですか。従った順に課長の位についたと考えればいいですか?」

「いや、そうじゃない。あの事件の所為で自殺をした刑事がいる。絶望したといってね。誰だっていうさ。組織といえば都合があうのは間違いだってその死を見て思った。俺から話せるのは以上だ。」

椅子がガタンという音を立てていた。藤田製薬会社の事件はいろんな秩序を壊したのだ。自殺した刑事の遺族は警察に入った時は誇りだったであろうが、今は恨みしかないだろう。正義感が強すぎたとしか評価されないのなら・・・。柴田は迷宮入りにはできないと思った。黒崎も同様だろう。此処で聞かされた話はなかったことにすると通告を言われたらいったい何処に報われるのだろうか。一課長は語ったことは閉ざすことを選ぶだろう。人の死の痛みを知っているのだ。

「黒崎、もっかい同じ場所に行く。顔は出さないのは確実だ。」

調べたってネットの力を借りても人の心は読めない。そういうものなのだ。一課長の生きた姿を見たのは最期になるとは誰もこの時は思わなかっただろう。十字架を背負って生きてきたのにおろすときを教えてくれないのだから。逃げても逃げても現実に追われるだけだと知っているからだ。言い訳は嘘を示す。責任は立場があるほど逃れられないのだと。権力は誰も救わない。苦しめてもがくこともできないのだ。


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