守りたいもの
立花はいつもと違う道を歩いていた。いずれ歩くかもしれないと思うことはなくなった。ある人物がいる拘置所に向かうのは代理人のつもりであるというだけで本心はどうにかなってもらえればいいと思うのだ。刑事だといえば惚れるなんて幻想はもともとない。事件と現実の区別ができないのに面はいい恰好をするんだ。偉くもない平凡な屑に過ぎない。中に入って名前を書いて待機していた。浮かばれる気持ちなんてそもそもない。呼ばれて面会室に行った。相手は驚くことはないだろう。パイプ椅子に体重をかけることはしなかった。
「久しぶりですね。立花さん。」
「こちらこそ、どうだ。元気か?」
決まりきったスエットを着てのびのびとしているのだ。もって来るべきものは特にないが構わないと思っているのだろう。ストレスを抱えているだろうが以前ほどではないだろう。会話できるだけありがたいと思っているはずだろうか。
「何もすることはないからな。俺も一応罪償っているんだし。それで話っていうのは?」
「君の探している人間を見つけたんだ。生きづらい生き方をしているわけじゃない。俺が保証するよ。」
「情報を感謝するよ。俺のために会ってくれるお人よしなんて一生いないと思っていたけど、いたんだな。」
彼のストレートの言葉で立花は笑った。つまらぬ世の中に頼って愚問を説いているよりよほど楽しいのだ。昔は1人で生きることに周知していたが今は何処か探しているのが嫌になるのだ。
「また、来てみようと思っているんだが、何かいるか?」
「許されるのは本くらいだからな。立花さんの好みで買ってきてよ。此処にいて苦情を言うなんて馬鹿な事はしない。暇で仕方ないんだ。」
対面して話すことがいいことなのだと思った。こんな会話を聞いたら怒りを面に出す人がいるだろうが、人生をつぶして償っているんだ。再出発の時を与えないで冷たい視線だけを浴びせているだけは寛容とは言わない。同感しているふりをして同じ行いを導いているのだ。
「玲はきっと元はいい奴なのはわかったさ。あいつも自分の行動を悔やんでいたよ。けど、しょうがないことだって。わかってくれよ。」
「理解できるよ。俺を忘れていないってことさ。出来損ないの友情をあらさがししていたわけじゃないんだって思ってほっとしただけさ。」
プラスチックでふさがれているのだ。暴れたりする奴もいるだろう。弁護士くらいしか来ないんだ。待っているなんて言う言葉は気休めに過ぎない。最初は思っていても待っていないだろうから、世間体に縛られている人間たちの集まりだから。




