昔話の連れ
立花を考えていることを探るにしても情報がないと苦悩するばかりだと自問しても答えは出るはずはないと苦笑いするしかなかった柴田は二課の部屋にこもっていることが億劫になった。今や政府のねつ造を認めたも同然の言い方をしていてもなお言い訳を探しているのだから見苦しい。それか探られないと思ってねつ造をしたまま、押し通そうなんて無駄な考えはいらない。右往左往するのは政治家とか官僚、公務員という一応肩書が一流のものだったというだけなのだ。
「誰か対応してくれませんか?」
「どうかしたんですか?」
受付をしている人が藤田製薬会社について話しておきたいといってきたのだという。捜査一課がすればいいのだが、忙しいというだけで対応してくれなかったので二課に回って来たのだ。
「俺が話を聞きます。課長、いいですよね。」
確認に顔色をうかがうとうなずいていたので安心して応接室という名がついているだけの区切りのついた部屋らしきところに行った。話したいといってきた男性はジャケットを着てキチンとしていてこちらが構えてしまうほどのオーラを出していた。お茶が出てくるまで待っていると鞄を椅子の下に置いていた。お茶が出てきたのを確認してしゃべりだした。
「それで藤田製薬会社について話したいことというのは・・・。」
「俺も今いない会社のことを語るのいかがのものかと幾分悩みました。今はライバル会社に当たるわけですから。」
たどたどしく語りだした男性は何処か思い出したくないことを思い出そうと懸命にしているように思えた。お茶のすする音だけが沈黙を破るばかりだ。
「俺が忘れならないのは立花という同僚を失ったことで全てが壊れたんです。立花は研究員として優秀でした。その時いた周りの研究員をしのぐほどの人だったんです。俺も尊敬してました。勉強熱心ということもあっておごらないいい人でした。」
昔話を始めた彼の目は暗く輝いていた。立花という研究員はやくざとかかわりがあるのを何処かで知ったのだろうか。
「何時だったか突然やめるといっていました。家族の存在は会社に公にすることはなかったです。表はきっと特許を取るために走って、裏はきっと自分たちが作った薬が悪用されていることを探っていたんだと思います。彼を自殺と判断した警察が憎らしかった。嫌いでした。のちに聞いた話ですが、奥さん、自殺したそうです。立花の葬式に行ったときに息子がいたような気がします。」
藤田製薬を狙っているのは訴訟をした人達だけではないことを言っているのだろう。藤田製薬は裏の顔をもっていたのは知っていたがそれ以上のことしていたのだ。家族の存在を隠すほどいてはいけないと忠告するように死んでしまったのだ。それを警察がお粗末な捜査で家族を奪ったといっているのだ。
「息子さんの名前わかりますか?」
「昔のことですから・・・。そういえば、葬式の時にノブちゃんといっていたような気がします。」
気が動転していないのが幸いなくらいとんでもない話を聞かされた。




