連絡通信
黒崎は立花の追い返しにはこたえようとはしなかった。ベンチのそばでただ立っているだけなのだ。
「そこで突っ立っていても状況は変わりえない。そんなものだ。」
立花の独り言に近い言葉を聞き逃しているのだろうかというほどの無視なのだ。黒崎の目は悲しみを帯びていない。それが正解だろう。何もあってないのだから。誰かが屋上に向かう階段を駆け上がっている音が近づく。ドアが勢い開いた。
「黒崎、此処にいたのか。」
「どうかしましたか?」
「どうかしたといっている暇はないんだよ。藤田製薬会社が爆破したということがニュースで上がって来た。会社を再開した初日に狙われたんだ。捜査一課は焦っている。早く戻ってホシを探さないとならない。」
上司らしき人間が言葉を出すのにあたふたとして足を動かしている。他の刑事も想定外のことで慌てふためくということしかできないのだろう。その言葉を聞いた黒崎の顔は顔面蒼白だった。立花がいることすら忘れてしまっているように出て行った。1人になった彼は何処からこみあげたものを制御するものがなかった。人知れずただあざ笑うかのように高らかに笑った。止めることができないものをくれたようだ。笑いつかれた彼は息を整えながらネオンを見た。つまらなくなったのか立花は屋上から降りた。警視庁にいても資料を覗いて見えるものを探すだけなら時間が過ぎるだけなのだ。地下鉄に乗って気分転換をしに行った。理由もない駅の利用客の多い駅のホームから降りた。今や公衆電話はなくなっているが探せばあるのだ。駅にあることが多いから見つけた。金を入れ受話器を取って番号を入れた。かかっているのか受話器の中でかけ鳴らしていた。
「もしもし。」
「計画は進んでいるようだ。ターゲットを増やせ。そのほうがいい。起動方法は変わらず。」
冷たくも温かい言葉を立花から発していた。相手はとやかく言わないだろう。大切な伝達相手くらいわかっているのだろうから。
「了解。」
「ベストのままでしていろ。無駄な動きが命取りになる。」
ただ一方的のしゃべりにどうこう言うつもりもないのだろうから。得難い知識を使っているのだろうとは一切思わない。
「偽善者のふりをしていろよ。政治家も同じだ。嘘をついても許されるのだからな。」
「気にしてませんよ。俺はしょせん駒なんですから。もともと点々としているのだから。そっちもそうでしょうから。」
話すべきことを話して切った。気にしなければ防犯カメラの映像など消される。たった数か月の出来事でも・・・。警察は映す前の脅しは合法なのだから使えることは使わないと損だ。ターゲットはいったいどこにあるのだろうか。




