権力に怯え、うぬぼれ
黒崎は新たな机の位置に違和感を感じていた。過去にないほどの心地の悪さを訴えるという行為をしたいのはやまやまなのだが、吐き出し口が用意されていないのだ。課長が部下に目を向けることはない。一度怒っているところを見たが出世ばかりの発言でうんざりするほどだ。未解決事件捜査課にいる時は嫌でも浅間が目配せをしていた。部下が沢山いるわけじゃない。たった2人だ。情報が入るのだ。それも扱いにくい人間が存在している。黒崎が廊下を歩いていると見覚えのある背中が通った。
「立花さん。」
「黒崎か。捜査一課に行っていい経験してるか。」
立ち止まった背中には来るなという言葉がでかでかと書かれているように感じた。立花が作り上げた沈黙に耐えられなかった。
「貴方ですよね。此処に異動にしたのは・・・。一課長に言い聞かせることができるのは貴方しかいないんです。」
「俺じゃないぜ。捜査一課に決めるのは課長自身なのかもしれない。手柄がないからと思っているかもしれないけど、そうでもないんだ。」
彼から漏れる言葉は遮断と思えるほどの力をもっている。廊下で大きな声を上げていることに嫌なのだろうか。立花は時間がたつにつれて苦い顔をするしかなくなっている。
「お前の人生だ。あとの業はお前自身が決めることだ。」
しんみりとした空気をさせるのだ。ドアが目の前にあるのに誰も開けない。立花はかつかつと音をさせて去って行った。黒崎の手にはつかんでもつかんでも消えてしまう雲や霧などが充満している。誰も見えないのに叫んでも聞こえないのに叫んでいる。すぐに一課長を探した。偉そうに窓を見つめていた。
「一課長、どうして立花さんの要求をのんだんですか?」
一課長は足を組んでいるのだ。窓を見つめて景色を眺めて上から見る勝手な優越感に浮かれているのだ。権力にうぬぼれているのにさえ気づかない。それは期限切れになった時にしかわからないものも含んでいるのだ。
「課長クラスの奴は立花の要求をのまないとならないんだ。上が見張っているからな。それに俺も失態をしていることで汚点がついている。逆らえる奴なんてな、警視庁にはいないんだよ。」
「それでも一言訴えることができたでしょう。何処まで冷たく残忍な人間が正義という仮面をかぶっているのはペテン師同然ですよ。」
言い過ぎたと思ったのだろうか、周りの奴らは大騒ぎし始めた。事件で大騒ぎすることはない。地位に関することなのだ。不格好でも正義を任せる覚悟はないのだ。




