組織に染まらぬ
立花は柴田と別れた後、いつも通り何も変わることのない行動をした。ほろ酔いの状態は少し危険なのだ。隠し事を吐く人もいるほどだからだ。心の中で用心しなきゃなんて言うことを考えているのだ。P&Bは寂しげにあった。此処の存在はなくなったことはない。横に開けるドアは和を尊重するために選んだといっていた。開けるといつものかざりっけのない笑顔を見せていた。
「何時ものか?それともお任せか?それとも・・・。」
「新作ができているのか。それじゃあ新作を食べるさ。赤の少し高い奴が飲みたい。」
うなずいた店主はせっせと作り始めた。
「信之、今日機嫌がよくないね。何かあったか?」
「柴田と少し喧嘩した。」
「珍しいな。でも、最後は割り勘でしょ。何処まで決まり事を守っての。押し付けて構わないのに・・・。」
柴田に胸倉をつかまれるほどの喧嘩は初めてだった。認め合っている仲の喧嘩というよりは他人同士の小さな喧嘩に思えた。どちらが距離を置いている証拠であるような気がしたが、誰が問うても見かけと本当はかけ離れているものなのだから。
「達樹はいいのか。ホテルを行くこと。お前だって此処より安定した職だろう。前はいくら料理長が嫌いだったとしてもな。」
「関係ないよ。ホテルに行っても人の料理の称賛することはあっても特に材料なんだから。作り手の手間なんて作業の一部なんだ。」
ホテルをあの一件から嫌になったのだろう。いくら熱をこもっていても冷たいものを受け取るのだ。技術がすごいといわれるのはまれなのだ。上に行った人間にしか受けない。それか別の料理に映った時くらいだ。かすかな希望どころじゃない。
「柴田はいい奴だからな。あんまり喧嘩しすぎるとお前が困るぞ。俺だけじゃあ背負えないものがあるんだ。」
「いい奴なのは知っているさ。あいつはいつも勘に頼りすぎなんだ。そこまで通用するとも思えない。理論的じゃないしな。」
彼の言葉を伝えた分だけ料理が出来上がっていた。出来上がるごとに特に歓声を上げることはもうない。覚えた味は数知れないが、脅かすために作っている料理も含んでいることも知っているのだ。箸でつまんでいる。もてあそぶことはない。眺めるだけだ。きれいに盛り付けされているよりも味が大切なのだ。2人の空間になると異論を唱えるものはいないのだ。いたとしても邪魔になるだけだ。勝手に常連は察していなくなる。金はその時はつけであることはない。キチンと支払って帰る。律儀な人たちだ。




