宴の終わり
立花は警視庁の浮かれ具合とはと心の中を言う必要はない。浅間は静かにコーヒーを飲んでいた。一息ついたのか声をかけてきた。
「お手柄だったみたいだな。警視庁の上も大喜びだ。お前の昇進は以前から決まったことだが、さらに上になるだろうな。うれしいだろう?」
「そんなの持ったって誰も守れやしないんですよ。権力も驕りにいる心も・・・。組織にいてもかなわない願いを言っているみたいでくだらないですよ。俺はただ刑事として動いていれば構わないんです。捜査一課にもろくな駒はいないし、動きの遅いパソコンしかないですからな。」
プラスチックのカップはカチカチという音だけを鳴らしている。浅間は壁に掲げてある時計を見た。二課は飲み会をするという話が上がっているのだろう。窓を見ていた。闇に飲まれた光は届かないものを探っているのだろう。
「立花君、君には大切な人はいないのか。守りたいと願うほどの人間が・・・。」
「いないですよ。俺には道しるべをもっているわけじゃないんですよ。俺は過去に失うべくして沢山失ったんですよ。ただ、みじめな目で俺を見る人間に埋もれて正義という嘘で包み隠すのが正論とする組織のトップになったって失うだけです。身内に軽い錘しか持てないのなら国民を守るだなんて大きな嘘を掲げるのを恥ずかしいとは思わないものなんですかね。俺はその組織に巻き込まれている人間になっていたいんでね。」
浅間の目はにらみつけていた。声には出さないのだろう。立花はスーツのしわを手軽に直していた。此処ではない何があると。
「これで青柳亮の事件について調べることができます。人の厄介って大変ですね。人に喧嘩を売っている暇があったら1つくらい事件を上げてくださいよ。此処に来てから1つもあげてないじゃないですか?そんな人を正義の仮面をかぶったヒーロー気取りの泥棒っていうんですよ。誰かが言ってましたよ。ささやかな希望すら見捨てて冤罪をたくさん作って関係ない人を巻き込んで迷宮入りの事件を闇に葬ればいいんですよ。警察という権限でね。俺は窓際でたたかれるけど、逃げることは許されるんですから。」
嫌味にしか聞こえない言葉は恨みや憎しみをもっていた。浅間は顔を上げることはできなかった。ドアが閉まる音がした。空調しか聞こえない。変えるくらいの権限を持つつもりはないのだろう。それはあくまでも邪魔な行為の一部であることに過ぎないのだろう。
「救えないやつ・・・。」
浅間は小さな独り言を言った。




