ノートのピース
警視庁に戻り、柴田は二課の部屋にいた。成果を上げたことで浮かれているのだろう。騒がしい空気に切り詰めたものは一切なかった。鉄のテーブルの連なっている姿は滑稽に思えてくるだろうから。二課長も喜んでいると思うが、かすかに見えているものがあるだろう。格下げはある意味確定しているのだろう。
「柴田さん、立花さんのことは何処まで知っているんですか?」
立花と一緒に動いていた部下だった。親と同じ弁護士になることを選ばずに何故見捨てられたかを問わない警察だった。聞こえない小さな声で問うことをしてきた。
「俺が警察学校にいたころからだ。その時にあいつのことを聞いた。周りの奴は聞いても話さないからといってよく思ってなかったな。その話より中身だろ。」
彼の瞳は霞のない色をしていた。何処までも信じられるとは思ってないからだろう。縦にうなずいた。
「あいつは藤田製薬会社の主任研究者であった父親とパートをしていた母親。普通の家庭だった。それまでは・・・。父親が大きな研究に成功したのを会社に黙って特許を取った。それを恨んだのが会社だろうな。あいつの親父は特許で得られる金で家族経営の店をしようと考えていたのを知らなかったんだろうな。」
「それでどうなったんですか?」
「大概見えているだろう。警察は自殺として処理しているが、他殺の説のほうが濃厚だったんだ。親父を追っておふくろさんが自殺をしてあいつは養護施設で育ったんだ。」
向かい合っている奴の顔は赤く染まっていた。隠れた被害者がいたことを知ったのだ。無論、警察の掲げる正義は身内に使うろくなものじゃないことは承知の上だろう。いろんなことをもみ消しているのは都合なんて言う傲慢とおごりの塊が使うものなのだ。
「それじゃあ知っているんですか?独学で薬剤のことを知っているんですか?」
「知っているよ。親父のノートを使って覚えていたってな。遺品で受け取っている可能性があるだろうな。」
必要最低限の知識がそのノートに書いてあるとは思わない。混ぜたらどうなるとか書いているに違いない。浮かれ切っている奴の顔を見ているのが嫌になって来た。全てが解決したわけじゃない。どれに対しても向かないものがあるように思えた。中途半端にとどまっていることがあるばかりだ。自画自賛をしているろくでなしの社長を見ていると薄汚れた感情を表にしても打ち消そうとしているのはナンセンスなのだ。声を出すのは否定するだけだ。大きな声は出さない。




