薬瓶の中の細工
藤田製薬会社は慌てていた。内部の人間が見破られてしまったことが噂のごとく広がったのだろう。立花は非常階段にいた。騒がしいのはこりごりである。調べるのは二課の仕事であると壁を立てていることもある。見張りという役割で見ていることをわかっているのだろうか。鉄のドアはガチャガチャとなっていた。
「立花、お手柄だね。日下部は全て吐いたみたいだよ。ボイスレコーダーの力って強いものだね。」
「そんなことないよ。お前に藤田を上げてもらわないと困るんだよ。浅間さんなら俺のこともあって偽りを言うのは勝手にこりているだろう。」
空の色は重さを感じてしまうものだった。持ち上げるにはと問うものはいないだろう。感情と天気が一致することが多いだけなのだ。
「二課長は重く受け止めているみたいだ。今回のことが繰り返されしまっているのが伝わるだろうから落ちるだろうね。」
「お前はそれでいいのか?仲間同士で蹴落としているように映らないのか。」
彼の重苦しい顔が作り笑顔を見せた。強がるのはいつものことだ。柴田は小さなため息と少しの深呼吸をした。
「蹴落としているようには見えていたよ。最初に来た時から・・・ね。くだらない争いを好んでするものなんだよ。人間って。」
「俺の親父も巻き込まれたのかもな。藤田製薬は最期のあがきをしてもがいてつぶれるよ。此処のヒーロー気取りは終わるね。」
立花の顔は決意の表情に見えた。柴田は問いたかった。何を決意し、覚悟を作り上げているのか。予言なのかどうかと。廊下は靴のかつかつという音のノイズに耳をふさぎたかった。ふさいだところで何も変わることはない。気取ったビルには人の闇も欲望も飲み込んでしまうのだろう。二課の奴が通りかかったので声をかけた。
「薬剤の研究室に連れて行ってくれ。」
「わかりました。」
足を止めさせたにも拘わらず愚痴を言わない姿は輝いて見えた。吹き抜けになっているところにガラスがはまっているが機能していなかった。
「断ってもよかったんだぞ。」
「こうやって藤田製薬会社を調べるようになったのは貴方が捜査一課に入ってからです。噂は流れてましたから・・・。それに此処の会社の所為で人が沢山死んでいるんですよ。裁判で認めなくて遺族がかわいそうでしたよ。その時の弁護士の子供なので、携われるだけで何処かで報われるのではないかと思ってしまっているんです。」
「薬で大量に死んだのか?」
立花にはなかった知識だった。飲み込まれているのだろうか。混ざっている途中だろうか。




