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泣いた烏  作者: 実嵐
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再出発

空の瓶がカウンターに無造作に置かれていた。そこにはどこか人並みから忘れされたような空気を漂わせていた。

「あんまり飲みすぎるなよ。この前来た時と違うんだから。喜んで飲んでいるときは酔いづらいけどやけ酒は酔いやすいのは知っているんだからさ。」

「大丈夫だって。俺は事件を解決して親父の特許を取り返すんだ。組織にいても誰もが後悔するようにしてやるんだ。」

大声で叫ぶ姿は見えない闇に向けたもののようにしか思えなかった。グラスは変わることはないかもしれないが、入っている酒は違ってくるように・・・。達樹も何処か遠慮のない行動が見えた。信之を思うばかりだろうか。

「藤田製薬会社に行くのか?」

「行くさ。二課が組織の隙間を狙った行動を見抜いたんだ。これが終わる前にいずれあいつは未解決事件捜査課から離れさすのが一番の方法なんだよ。」

信之の嘘を吐いたことが表情が見て取れた。何処か悪気のない顔をさせているのだ。誰も幼い時に異論を唱えなかった故の致命傷だった。

「お前は偽りを言って読み取れなかったら何を言ってもいいと思っているのか。それは違うぞ。」

「今更正論を唱えたところで変わることはできないんだよ。嘘を嘘に染めないと生きていけなかったことをお前はわかっているだろう。どれが本当かも識別できない人間が偉そうにぼやくんだからな。」

「穢れた海に染まったのか。信之は・・・。」

達樹の声の小ささは寂しさと見えない孤独に対しての共感が含まれれていた。ご時世だとか所為にすることはさんざんと散らばっているものなのだ。店のぬくもりはかすかに冷え切ってしまっているように思えるのは一般人だけだと思った。他人の異論は断片的なかけらを吐き出しているのだろうから。

「過去を嘆くのはこれで最後だ。達樹、いつもと違うワインを出してきてくれ。それも俺がすきそうな奴をな。」

乱暴な言い方をしているのは吹っ切れている証拠だ。今を忘れるくらいに飲んで飲まれて改めてほしいと思っていたから。自分の思い通りになることばかりを望んだところで全てが満たされるという幻想を信之は望んでいない。全ては架空の世界ででっち上げられたもので救いを求めても駆けつけてはくれないだろうから。誰かを傷つけてもいずれは破綻の道を選ぶのだ。そこにたまった水が漏れ始めたときには・・・。

「これはいつもより少し高い奴だ。それも白だ。」

「そうか。配慮有難う。」

酔った口調でヘロヘロの感謝だった。それでもかまわない前に進める時間と足があるときに動かないのはもったいないと。


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