罠の仕掛け方講座
立花と黒崎がいたたまれない状況になっているとも知らずに浅間はかすかな怒りをにじませていた。ドアもどこか強引に開けた。沈黙の中に育っているのは思惑を探っているようでもあった。
「浅間さん、呼ばれたんですね。大変ですね。」
立花の棒読みに近いせりふを吐き出しているように思った。誰に呼ばれてどんな話をしたのかと聞くのは愚問なのだろう。大体考えれば思いつくものなのだ。
「一課長が怒ってはいたが、一概に立花君が言ったことは間違いないから協力すると。謝罪は後日キチンと行うから捜査協力を求めてきた。どうするんだ?」
「それは一課長が選ぶんでしょう。後日すると言うのは軽い口約束に過ぎないときは協力するつもりはありません。ここで行われていた話を聞く限り、以前から人を駒のように扱っていたのもわかったので浅間さんも同罪ですよ。いくら口先でいっても探れてばわかることなんて山ほどあるんですから。」
仮面をかぶっていたとしていずれ自らの手や他人の手で脱ぐときが来る。そのときの対応次第であるといっているようだった。
「黒崎のことは黒崎に任せる。お前が決めないといけないことは事件ぐらいじゃ終わらないということだ。」
彼に向けた言葉は重さを感じることができた。事件の忖度を行ってしまうのはいけないとかそんな話しじゃないことはわかった。出世とか今後かかわる決定を他人にすべて託すなどおかしいといっているのだろう。
「少し悩みます。それまでは手をつけなくてもかまいませんか?」
「悩むのに無駄な能力を使われるのは厄介だから当分休みにしてもらえ。」
「じゃあそういうことにしてもらえますか?」
「わかった。いつから休暇にしようか?」
とんとん拍子に進んでいくのは誰も問わない。流れに沿ってやるのがいいと思った黒崎の采配だった。立花は個人的な考えが含むと事件に追うのに邪魔になってしまうと考えなのだろう。
「明日からで。二日間でいいです。それくらいには結論を出します。出るかは確信できませんけど。」
「そうか。しっかり悩め。」
「いえた口じゃないですよ。」
棚に上げようとしたのが完全にばれたのだ。それからはコーヒーをすする音とパソコンをかき鳴らす音がいやというほど鳴っていた。立花の手にはこぶしを作っているだけでむける方向は決まっていないのだろうか。テーブルにたたきつけることはなかった。
「立花君はどうするんだね。」
「ここから休むやつが増えたって困るだけですし、俺は要らないです。二課からもうそろそろだいうことも聞いているので。」
「藤田が落ちるとなると製薬会社の仲間うちでは大打撃を食らうんじゃないか。」
「それくらいになれば上出来ですよ。そういくかなんてやってみないとわからないものです。」
柴田から藤田製薬会社を落とす準備はできているといっていた。同じ罠にはまることのないように用心していると聞いている。大企業が落ちるとなると喜んでマスコミはかかわってくるだろう。ただでさえデマと事実の区別ができずに乗り込んでくるのだから。




