異動届
未解決事件捜査課に戻ってきても何処かいづらかった。喧嘩腰のように映ってしまったせいかもしれないと黒崎はぐるぐると駆け回っている。
「俺を軽蔑するならして構わないぞ。」
浅間は一課長に呼ばれたのか何かでいなかった。敵を作り上げていくのは身勝手に出てきたのだろうか。此処にいる意味は邪魔だったということを知って一概にいけないことだとつぶやくのは可笑しいと思ってしまった。
「しませんよ。それよりいつからわかっていたんですか?」
「簡単な話だ。いくら楠が俺を嫌がったとしてもしょせん足軽や捨て駒になるようなコマに過ぎない。それの言うことを聞くのは可笑しいというか組織として崩れるのがわかったからな。一番了解を得ることができるのは・・・。」
言わなくてもわかった。立花は暇なのか資料を読み込んでいた。ペラペラという愉快な音か不愉快な音と思うかは心持次第なのだとまじまじと感じた。
「今ならお前くらいなら捜査一課に戻ることができるだろうな。」
「どうしてですか?」
「俺に弱みを握られているからだよ。まさか当事者に読み取られているとか思ってもみなかったらしいからな。藤田製薬会社が終わるまでこの事件を調べるのもいいかなって。」
彼の言い方は悪気のなさが明らかだった。すがすがしい表情ということは言い難いとしか思えなかった。今から対立をしても困るだけなのだ。
「戻りたいか?捜査一課なら大概のことは保証済みだ。いつでも事件を追うことができる。気兼ねなく調べものができるし、俺から刑事としてキチンと靴の底を減らすようなことをさせろと言えばさせるだろうな。」
立花が利点を畳みかけるようにうらやましそうに聞こえない声を何となく聴いていた。彼は捜査一課にいても認められなかったのだ。組織よりもまだ大切なものがあると思っているからではないだろうか。
「戻ったところで俺はやっていけるとは思わないんですよ。出世が一番で遺族とかが二の次になっていたら意味がないと思わないんですか。」
「それでもお前は捜査一課に行くのがいいだろうな。短期間だけでも根本を教えることができたからな。安定したところから抜けたんだ。嫌だったに違いないだろう。」
黒い液体をプラスチックのコーヒーカップに入れた。ミルクを注いで色が変わっていくのだ。それと何が違うのだろうか。飲まれてしまってロボットのように生きていくのが何の糧になるのだ。
「残ります。」
「茨の道を望んで選ぶなんてお前は不思議な奴だ。」




