親友の月
「その役所の職員の名前はわかるか?」
「名札とか見たことあるけどさ。詳しく見ないから・・・。そうだ、確か・・・。田中とか言ってました。よくある苗字だなと。田中晴彦。」
黒崎は几帳面に手帳を広げて必死に書いている。無視をするほうがあっさりと情報を得ることができるのだ。
「此処に入るほどのことをする人物なのか?青柳亮という男は。」
問いつけているというかどう答えていいのかわからない質問を投げかけているとしか思えないのだ。2人の伝わっているのか否かわからない空気に任せるしかなかった。
「あいつは物静かで大ごとをするような奴じゃないからな。おふくろさんに迷惑かかるだろう。だから、中学の時、部活をせずにバイトをしていたよ。けなげな感じがひきつけたんじゃないのか。母子家庭でろくにわかってもいない中級階級が勝手な噂話を大きくしているんだ。引き金は誰が引いているものなんだよ。寄ってたかってでしかできない卑怯者がね。」
何故、アパートの近くの住人が口をつむるのかがよく分かった。けど、明らかに自分たちの所為じゃないとか思いたいだけなのだろう。事件があってもなかったことにすることで自分たちの贖罪すら何もしないのだろう。嫌なことを打ち消すことができないようにする手札が増えた。その仲間が住宅会社にいるのだ。へこへこと腰を低くして受け入れたのだろう。
「あそこの住宅街は金持ちとかいないのか?」
「いた。いたよ。あの事件があって忌まわしいところに住んでいられないとか言って出て行ったって。黒幕であるといっているのも同然だったよ。無駄な労力だと思わないか?」
「時間と労力を使っているんだ。大切なものを失っても。それは君にも言えることだろう。人殺しをすべきじゃなかったと。」
青柳玲は新聞やニュースに取り上げられるほどの殺人事件を起こした。無差別でありながらどこか計画性が見え隠れする事件だった。玲は軽い口をたたくことができないのか下を向いた。
「今日、君に聞きたいのはそれだけだよ。反省をしているのは確かだし、遺族は許さないだろうが、こんなところにいるんだ。もう十分だろう。謝罪の手紙は書いたのか?」
「親以上のことを聞きますね。下手ながら書きましたよ。出てこれないんだからな。時間を過ぎるのを待つか死が来るかの匙加減を見るしかない。」
面会室には沈黙があった。立花が納得したのか立ち上がった。
「いつでも会いに来てください。亮のことの疑問を解いてあいつに会いたいんです。」
それが本音なのだろう。




