告げる 知るものの存在
テーブルのがたがたと風で揺れたかのような音で立花は顔を上げた。記憶がないが、片づけられた椅子の寂しさを見て店にいるのだと思った。
「あっ。起こしたか?」
「別に構わないけど、飲みすぎたのか。」
正解という代わりに水の入ったグラスを出した。乱暴に受け取って飲み干した。急いで立ち上がろうとしていると落ち着いた柔らかな声で言った。
「慌てる必要ないよ。一緒に来ていた人が事件を解決にそこまで急がなくてもいいって。まぁ、二日酔いで行くのはどうかと思うけどな。」
「いいさ。事件が新たな事件を生む可能性は消えていないんだ。解決しないとダメなんだよ。未解決だからとか言い訳を重ねても癒えることはないのは知ってるだろう。遺族でラポールに来ていた奴がぐれて死んだこととか・・・。」
「そうだな。じゃあ行ってこい。たいていかどうかわからないけどあいているからな。」
引き戸のからからという音で出かけて行った。警視庁に向かうとニヤニヤと笑っている2人がいた。
「全く常連の人が会計してもらったんだ。お礼を言っておいてくれないか。その場では言ったけどどうも足りないような気がしてならないから。」
「わかりました。出かけてきます。黒崎、行くぞ。」
廊下では楠のにらみつけた目は何処か弱弱しく感じた。それを無視をするかのようにずしずしと歩いて行った。黒崎の表情はいたたまれない感じが否めないがどうしょうもないのだ。警視庁を車で出たときの最初の信号の時に聞いてきた。
「楠さんは言われたのでしょうか。」
「だろうな。事件とかで忙しくて構ってられないから捜査一課も告げたんだ。どや顔だけで何もしないお荷物はいらないってな。前から無断欠勤とかしていた時期とかあったけど権力でものを言わせていたけど効力が切れたんだろう。そこまで長続きはしないよ。」
ラジオのとぎれとぎれの電波の悪さがわかるくらいだ。マスコミの取り上げる不穏な音を聞き入ることはできなかった。
「それで何処に行くんですか?」
「拘置所。それも死刑囚だ。」
彼の抵抗のない言葉を受け入れられなかった。拘置所に行く理由も死刑囚に会う理由も見えてこないからだ。身内で起きた殺人で犯人が逮捕されていないのに・・・。
「つながりがあるんだ。点と点をつなげると線になるようにな。関係ないとか割り切ったら大切なことを見落とすこともざらだから。慎重すぎるのは特別悪いことじゃないんだよ。」
立花はつぶやくように独り言のように言った。




