虚栄心の亀裂
店主のテキパキとした動きを眺めていた。浅間は何処か落ち着かない感じがした。
「とりあえず、2人は何を飲みますか?日本酒からワインまであるんです。カクテルもね。」
「じゃあ普通に生を2つで。」
「達樹だってさ。」
包丁を握っていたので動けないためにうなずいた。和洋折衷を意のままにしたような店なのだと黒崎は思った。客がいっぱいかと思われるほどの人数を1人でさばいているのは大してものだと感心をしてしまう。
「とりあえずできたのからね。信之、つけてもらっているんだからって豪華にはしないからな。」
「そうだろうと思ったよ。いいじゃねぇか。歓迎会なんだぜ。今日。」
彼の顔はうれしさがにじみ出ているが、ハイハイというように首を縦に動かしていた。それを聞いた周りは騒いでいる。世間話や愚痴をぼやいていたのが止まっていた瞬間だった。勝手に盛り上がっているのを放っておくことにした。
「そういえばだね。青柳の事件は進んでいるのか?」
「進んでません。アパートの管理人なんていないし、担当していた住宅メーカーは関係ないと思っているのかあまり協力的じゃないです。掘り起こしても大した情報はもらえないと踏んでいます。」
「そうか。15年だもんな。そこにいた人間は変わっているから情報はないだろう。それでどうするんだ。」
2人は生ビールを飲んでいる。立花は赤ワインをちびちびと飲んでいる。
「明日は青柳亮を知る人間に会いに行こうかと思ってます。その人物なら多く語ってくれるのはと思っているところです。」
「けど、それは前提の話だろう。その前提が覆されたらどうするつもりだ。」
「彼なら話しますよ。前提よりも肯定に近い状態です。少なからず新聞に書かれているのに毛が生えたくらいが聞ければ上出来です。」
全てを1人に聞くことなんてできないと思っての言葉であろう。常連しか来ないのか遠慮のない言葉しか飛び交っていない。それに異議を唱えるものはいない。それが此処の秩序なのだろう。此処で全てを流して新たな気持ちで行くのだろう。テレビでの芸能人の話や流行、はやし立てるようにしている話題の話ばかりだ。わけのわからない言い訳を言って自分の虚栄心を必死に守ろうとしているが・・・。無断欠勤をしている部下がいる。それも理由のない欠勤なのだ。自分の地位のために関係を悪化をして人殺しをする奴もいる。不祥事を起こしたのに図に乗ったのだろうか。俺がやるべきと勘違いを起こしたのだろうか。




