変化の前触れかも・・・
広瀬はけだるそうに狭い檻に入ったままだった。立花はすがすがしいくらい晴れやかだ。未解決事件捜査課の一日は驚くほどつまらない。未解決事件を探ったところで何もないからだ。捜査一課ですら見捨てた事件があふれかえっている。
「今日という一日を大切にしないと此処にいてもただの荷物だぞ。」
浅間のまるで警告のように発せられる声が響かないのはたった一人である。
「此処の近くにある保管庫の資料は調べようが関係ないから調べても構わないですよね。」
「鑑識や科捜研を使うのは構わないが、捜査一課の邪魔はしないようにね。邪魔をした時点でやられるよ。」
彼に対する忠告だった。立花にとってはうざったいほどの言葉だった。捜査一課に敵対することは事件を解決するのに必要だとわかっていたから。地位だけを放り投げられたことに対してむなしさがあったのだ。捜査一課は選ばれしきものだけがなれるのだとしたらいったい何を目標とすればいいのだろうと立花は思った。
「そんなことしてあがいてももがいても状況は変わらないさ。いくら事件を解決したところでいいところだけを捜査一課が奪うのを幾度となく見てきたんだからな。」
「それでも時効という時計は止まっていないんですよ。被害者を思えずに事件を解決してたところで何も変わっていないんです。終わらないかもしれないですけど、俺だけでもやります。貴方たちには迷惑かけませんから。」
立花は冷たさから手を引っ込めそうになったが、見せないようにして出て行った。広瀬は首をかしげるしかなかった。
「あいつなんなんですか?捜査一課を敵にしても得するどころか損ばかりですよ。くだらないことに巻き込まれるのはごめんですよ。」
彼のあきれるほどの口調を浅間はうなずくこともせずただ聞いていた。どちらの主張も正しいのだから。事件に対する気持ちか自分の身のためかを選ぶのなんて究極だというしかないのだろう。
「君は立花君をどう思っているんだ?面倒な奴が来た程度にしか思ってないのだろうが、彼は組織に喝を入れようとしてやめ去られそうになった人間なんだ。正しいことをしても組織では悪行としか見られない。それが悔しいんだろうね。」
「それは個人の持論であって俺にも強制する必要なんてないですよね。俺は俺ですよ。浅間さんも下手に許可しないほうがいいですよ。要注意人物ですよ。」
広瀬の堅い決意にも似た言葉は氷のように冷たさを感じた。どうすれば変えられるのだろうか。