願い入れ
「P&Bってつけたからさ。店見つけて入ってくるなり、俺はかかわってないぞってさ。その時いた客は茫然としていたよね。どうにかなだめたんだ。大変だったんだぜ。あいつは来るたびに同じ場所に座るから常連も開けてあるんだ。」
「お決まりの席ね。ってか、飲みすぎないでよ。」
缶ビールの中身のない缶が机の上に載っていた。よって饒舌になっているのだ。それは信之のことを聞いたことがあるのだろうと優しく毛布をかぶせた。
「大丈夫ですか?私、聞いてはいけないことを聞いてしまったんでしょうか?」
羽田の全てを受け入れてしまう笑顔を見せた。南の無駄な心配というかのようにビールを飲んだ。
「逆よ、逆。信之のことを聞く人なんていないからうれしかったのよ。此処に研修に来た人はいたけど、現実に見えない社会に飲まれてこなくなったりして、その上にあの2人になじまないといけないのよ。それで途中でやめてしまう人が多かったの。別のところに行きますと後から手紙を出してくる人もいた。」
「そうですか。」
勝手にみじめだとかかわいそうだとか他人が思い込んでいたのだろうか。羽田は空を見るために窓に近づいた。住宅街でも星は見えないのだろうか。雲に隠れたり町の雑踏にかき消されてしまっているだけなのだろうか。
「私ね、貴方に重要な役目を経験してほしいと思っているの。」
南はビールを飲むのはおこがましいと思ってお茶を飲んでいたが、知らぬうちに緊張で乾いてしまって空のペットボトルを置いていたが新たな乾きに耐えられるかわからない。羽田は沈黙を保っているのは不可能だった。
「なんですか?」
「もうそろそろ自分がなぜここにいるのかを伝えなくてはならない子がいるの。その子に伝えてあげてほしいの。本人があっさりとした態度をしていたとしてものちの行動を見ておかないといけない。なだめると逆効果になる子もいるけど、最悪達樹に頼んで落ち着かせるから貴方らしく伝えて。」
南の肩に重すぎる岩を乗っけられてしまったようだ。簡単にあがいてももがいても出口にないのだ。羽田の屈託のない笑顔が不安を取り除く。寝息を立てて事情を知らない達樹の寝顔があまりにも穏やかだった。
「嘘を教えるのはね。性に合わないの。テレビで話題になっているようなことはしないでね。いずれ受け入れないとダメなことなの。孤独を感じることもあっても1人じゃないと教える機会にもなっているの。お願い。2人いるからあっけらかんとしている子にするから。」




