昔話の宴
「栄一は復讐を練っていたことは知らないからな。あいつは何処かで真犯人がいると思って自分の家族について話しているのをたまたま聞いただけに過ぎなかったとしか言えないよ。」
「警察もまさか見つけるとも思ってなかったんじゃないか。被害者遺族っていうくくりをつけて解決していたらもう一回掘り返されるのが嫌なんだろうが、態度が悪かったもんな。」
今でも覚えているのだ。謝罪するつもりなのかそれとも自己保身の解釈を言いたいだけなのかと思ってしまうほど杜撰な会見だった。テレビ画面に向かってつばが飛び出るほど顔を真っ赤にした園長がいた。いくら生んだ親が死んでいたとしても育てているのだから情は入っていると考えなかったのだろう。謝りにも来なかった。感情を表に出して全てをあだにする奴は何処でもいるのだ。テレビだろうが関係ないとでも思っているのだろう。菊岡の注いだワインの音で目が覚めた。
「信之、これで終わるというのはいいね。お前だって後悔はないし、俺も後悔ない。すっきりした気持ちだ。」
「それに俺にとっていいのは上司が無関心なところさ。何をしていようと関係ない。加えて、兼任で負担が増えた。俺の親父の事件で落とされた人間だった。自殺じゃないといっていたらしい。調べたら相棒を自殺で失っている。」
「運命ってものか。お前の親父の事件で絶望したんだな。組織っていうのはかばうことはあまりしないことに。事実を嘘で隠せると思ったんだろうが、あの事件週刊誌の記者がたまたま全てを見ていたこともあって嘘を暴こうとして殺されたんだ。どんな組織だよ。」
立花は菊岡の本音に多くは言わない。警察に入ったことを知って菊岡は悟っていたから止めなかった。理由を消しているほうがいいからだ。
「テレビでもいるじゃないか。自分の発言で貶められる奴。何処までもさかのぼってなかったことにすることなど不可能っていうのにな。」
「俺たちもあざ笑っていればいいんだよ。狂っているってな。」
ワインの香りを楽しんでいるのは最初だけだ。うまいかは値段じゃない。流し込めば一緒なのだと気づくことはないのだ。立花は知らぬ間に乾いた笑顔が出た。計画は何処も怠っていないことはわかっている。
「共犯も訳ありか。」
「そうだ。園長が気にしていた記事があっただろ。青柳亮だ。生きていた。それがわかれば過去に何があったかはわかるからな。俺が黙っていれば公に出ることなく、普通の生活が保障されている。」
「さすが、警視庁のエリート刑事。捜査一課にいたころ、そういわれていたよな。」




