時計の針の止まり
養護施設を逃げるように去っていく姿をしみじみ見ていた。一瞬だけでもたまったものを吐き出したかった。
康江の心情など待ったなし青柳春香が殺される前に働いていたスナックに行った。繁華街であることは間違いないが、商店街はスナックなどの商売によってさびれているのを隠しているのだと感じてしまう。木の板の温かみを掌に閉じ込めた。ノックをして開けた。豪華そうに見えるがさほど投資ているように見えなかった。黒縁眼鏡をして賢そうに見えているがけだるいスウェットで出迎えた。
「此処まだ空いてないよ。来るなら夕方に来てくれる?」
不機嫌を表にしている。加工されたイメージに居座るのは嫌でしょうがなかったのだろう。面倒に立ち上がってハエを追い払うように手を動かした。
「俺は客じゃありません。警視庁未解決事件捜査課の立花といいます。あの・・・。」
警察手帳を黒のスーツから出して見せると飛びあげるように立ち上がった。不機嫌さが驚くほど抜けて嘘じゃないかと思うほどの笑顔だった。
「警察ってじゃあ亮君のことを調べてくれてるの。捜索願を出しても形だけで全然捜索してくれなくて、本当に警察なんて守るもの間違っているわよね。・・・って貴方に言ったらダメよね。私ったら何を言っているのかしら。」
全てを吐き出すように早口で言った。彼女の迫力に負けそうになる。無理やり話し込んだ。
「あのー青柳春香さんのことを教えてくれないですか?なんでもいいんです。」
「貴方だけで調べているのなんて不自然ね。まぁ、関係ないわね。はるちゃんは活発だったわよ。いくつものバイトやパートを掛け持ちしていたみたいね。亮君がいたから。亮君は離婚した夫の子供だって嫌がっていたわ。血がつながっているのは嫌だけど子供は愛してしまうものなのよ。大概の母親は。例外はテレビでうざいほど取り上げれているから。」
警察に快く語ってくれるのを感謝している。今までの行動を見て一見で嫌がる人だっているのだ。それに比べるの皮肉かと思ってしまう。
「シングルマザーだったから生活がかつかつだって言ってたわ。元夫が突然現れて幸せなんて言葉が消えていたわ。疲れていた。金を奪ってはギャンブルに大金をつぎ込むから逃げたのに・・・。それが運命って残酷ね。はるちゃんがいなくなって旦那は消えて、数日後に亮君もいなくなるんだから。亮君、生きていたらいいけど・・・。」
酒の瓶に埋もれているカウンターに小さな光を感じて信之は目をやった。そこには幸せに満ちた写真が飾られていた。
「俺にはなかった・・・。」




