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少年は物語を巡る

作者: 七瀬 碧月

 どこかの誰かが言った、

「人生は一つの物語であり、それは物語の作者自身の筆一つで素晴らしい名作にも、何てことの無い駄作にもなりえるものである」

 この言葉を目にした時から、僕にとっての人生観という物が変わった。

 それまで続けていた現状維持の妥協的な生き方をやめて、何事にも積極的に行動するようになった。


 始めは目まぐるしく変わって行く状況を見て、「あぁ、これが僕の物語の本当の形なんだ。常識の型にはまらなくても良いんだ」と本気で思っていた。

 だけどそれは中学生の間だけの儚い短編物語だったんだ…



 勉強やアルバイトや部活などに忙殺される日々を繰り返すだけの山も無ければ谷も無い、挙句の果てには物語の数ページ先すらも分からない。

 物語の盛り上がり所であるはずのページには一面に黒い文字で書き詰められた「辛い」がびっしりと書き詰められていた…



 そんなつまらない物語も3年が過ぎ、新しい章へ進む時が来た。

 僕は精いっぱい力強い文字で「変わりたい」と書きなぐって、次のページを開いて自らの手で物語を書き始める。

 最初はとても面白く書けていたんだ。仲間を集め、サークルを作り、好きな事をして…



 それがいつからだろう、他の誰かの手が伸びてきて僕のページの上に大きな文字で真っ黒の文字を書き始めたのは…

 段々とその手は増えて行って、最後にはページのほぼ全てが黒い文字に覆い尽くされてしまった。

 僕は窮屈になってしまったそのページの端に小さな文字で「現実」とだけ書いてその章を閉じる。



 それから僕の物語は駄作に成り下がってしまった。

 起きて仕事に行って疲れて帰って来て寝るだけの、ごく普通のありふれた物語。

「何でこうなってしまったんだろう、こんな筈じゃなかったのに」

 物語の僕がそう漏らすと、書き手の僕が尋ねる。

「何でこうなってしまったんだと思う?」

「…僕の努力が足りなかったからかな?」

「違う、そうじゃないよ。もっと簡単な事」

「分からない、もう何も分からないよ…」


 

「この物語は元々そういう運命(プロット)の上で描かれていたんだよ、だから登場人物である君がどう足掻いたところで、結末(おわり)の形は変わらない。そういう物語なんだよ」



 そうか、あの展開もあの伏線も全部無駄だったんだ、そうだったんだね。

「なら、こんな物語は終わらせてしまおう。」

 物語の僕はそう言って線路に身を放り出して、無理やりこの物語を終わらせた。


 

「この物語は面白くなかったな、次はもっと面白い物を書こう」

 そうしてまた新しい物語が生まれて、僕はもう何度目かも分からない物語を巡る…


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