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誤字・脱字などありましたら申し訳ありません。
入学してから三週間が過ぎた。
近頃の私のヘアスタイルは、ゲームの補正力(笑)でツインテールで統一されてしまい、会長ファンクラブのメンバー達から「ジョセフ」という愛称で呼ばれるようになってしまった。
親しんでくれるのはいいんだけど、先生の前で呼ぶのはやめてほしい。最近担任にまで呼ばれるようになってしまった。複雑だ。
ちなみに、私のクラスの担任は四十代半ばのオッサ……げふぉっ……ダンディーな先生。
先生はいろはちゃんの苦手な数学を担当しているのだが、絶対に隠しキャラではないと断言できる。何故なら後頭部が……なんでもないですスミマセン。
また、怪しいと睨んでいた保健室の先生は、優しげでボンキュッボンな女の先生だった。隠しキャラは一体どこにいるのだろうか。
「ねえ……聞いてる?」
ふと我に返ると、作りの細かいスカイブルーの瞳が目の前にあった。色々考え事をしているうちにぼーっとしていたみたいだ。
ちなみに今はお昼を食べているところ。
今日は、いつもお昼を一緒に食べる琥珀様が体調不良で保健室にいらっしゃるため、私は孤独な便所メシ……という訳にもいかず……あ、言っておくけど別に寂しいとかではないよ?
そんな訳で、今日はいろはちゃんと、サポートキャラの瑠璃ちゃんの美少女コンビに混ぜてもらっている。え?私って悪役じゃないのかって?……気にしない気にしない。
いろはちゃんは瑠璃ちゃんにも自分が転生者であるということついて話したらしい。しかし、彼女も実は腐女子だったようで、謎の腐女子ワードについていけない私はいつも置いてかれた感に苛まれております。
そして、私がぼーっとしている間にも、また謎のBL夢小説の話が始まってしまったようだ。……居場所が無くなって来た今、奴を召喚するしかない。
「宇野くーん!」
私の隣で咲き乱れる薔薇を避けた私は、十数人の男子グループの端っこで気配を消しつつ食事を摂る地味男を呼んだ。
やっぱり、グループのメンバーに冷やかされながらも無視せずこっちへ来てくれる宇野君はチョロ……優しい。ちょっと心が温かくなったが、彼が食べているラーメンの蒸気でメガネが白く曇っているのを見て興ざめした。……ププッ。
秘密を共有する仲間が集結したところで、私の「イケメソとお友達計画」と、美少女二人の「イケメソBL計画」実現に向けての話し合いが始まった。
私の隣で、「側から見る分には目の保養なのに……会話が……」という悲しい現実が聞こえたが、あえてスルーでいきます。
私が、項垂れる宇野君を完全無視しながら今後のことについて話し始めた時、目の前のいろはちゃんは私の後ろに何かを見つけたようで、露骨に嫌そうな顔をした。
彼女の瞳孔が開くのを見つめながら首をかしげた丁度その時、どこからかイケボが聞こえた。しかもその声は猛スピードで近づいてくる。
「げっ……またアイツかよ……」
ダメだよいろはちゃん、ゲス顔でそんなこと言ったら――と笑いながら後ろを向くと、いろはちゃんの名前を叫びながらこちらを目指して全速力で走ってくる赤哉様が目に入った。ほんの一瞬だが、ご主人様に遊んでとねだる犬に見えた。
ふと会長の後ろに目をやると、そこには何故か他のルートのキャラ達までいた。 突然のイケメンの大量発生に食堂がざわつき始める。
抑えきれないニヤけと闘いながら一人一人色を確認するも、やはりそこには紫色のキャラだけいなかった。
「会長、私に何か用?」
そう言って腕を組む、なんだか不機嫌ないろはちゃん。
すると会長は、彼女に跪いてそれはそれは綺麗な顔で微笑んだ。
「いろは……約束は守ったんだから、早く俺だけのものになれ」
おえええええええええ!吐けます!今なら砂糖吐けますよ!おええええ(割愛)。
周りの生徒も呆然とする中、赤哉様がシナリオには無い台詞で愛を囁く。彼のファンからは黄色い声援が上がった。一部男の声も聞こえたが、それはいろはちゃんのファンだと信じたい。
しかし、いろはちゃんはそんな会長の手を振り払ってしまった。完全に嫌われてやんのー(笑)。
しかし、約束って何だろうねー、と隣で尋ねてくる宇野君に返事をしようとした私は、不意に薔薇を思い出してしまった。もしや約束って……。
「副会長、つまり青葉と恋愛すればいいんだろう?」
会長はそう言ってニヤリと笑うと、彼の後ろで佇んでいた攻略キャラの一人――柊青葉様を徐に抱き寄せた。周りの空気が揺れるとともに、私も興奮のあまり叫んでしまった。ヒョオオオオ!
長い抱擁から解放された青葉様は、面倒臭そうにため息をつくとスタイリッシュにメガネをクイッとした。ズッキューン!
「う、う、宇野君!今の見た?」
「え?副会長がメガネを上げたやつ?」
私がぶんぶんと首を振って頷くと、宇野君は苦笑しながら何か呟いた。おい、聞こえないけど多分バカにしてるだろ!
頬を膨らませた私が視線を会長に戻そうとした時、急に食堂の入り口から物凄い音がした。
音のした方を振り返ると、そこには保健室で休んでいるはずの琥珀様がいらっしゃった。
「……何をしているのですか」
私が聞いたこともないくらい低い彼女の声に、ドMの本能が再び目覚めたのか、いろはちゃんだけが目を輝かせた。ヤバい、これはまさかの修羅場part2なパターン!?
突然の修羅場フラグに、周りの生徒は空気を読んで声を殺す。
……あれ?こんなイベントあったっけ?と内心思いながらいろはちゃんの方を向けば、恐怖のあまり子猫のように震え……ているはずもなく、思いもよらぬ鞭フラグに頰を赤らめていた。
静まり返った食堂の中、こちらに歩みを進める琥珀様の足音だけがただただ響く。
しかし、空気の読めないバ会長は、いろはちゃんを守ろうと彼女の前で両手を広げた。もちろんいろはちゃんにとっては余計なお世話なのである。
その姿を見た琥珀様は、少し驚いたように目を見開いてから深くため息を吐いた。大丈夫です!私が貴女の味方ですから!
そんな琥珀様の目にはやはり怒りが籠っていた。二度も想い人とのいちゃこらを見せつけられたのだから、琥珀様が怒るのも無理はない。
ふと、琥珀様が白い腕を振り上げる。いろはちゃんが唾を飲む音が、後ろの私にまで聞こえた。よ、ヨカッタネ。
「琥珀、お前まだ懲りないのか!いろはは俺のも……ぐはっ」
「「えっ…………」」
予想外の展開に、一瞬だけ時が止まった気がした。……こここ、琥珀様が、愛しの(バ)会長を打った!?いや殴った!?
食堂にいた他の生徒たちも困惑している。そして一番困惑しているのは、誰でもない会長であった。
自分を見ると頬を赤く染めていた彼女から、いきなり殴られるなんて信じられない、といった顔をしている。ざまぁとしか言い様がない。
シナリオから大分外れたざまぁな展開に私がニヤついていると、隣の地味男にドン引きされた。こ、こっち見んな。
そして、再び鞭を逃して落ち込むいろはちゃんに、琥珀様は優しく手を差し伸べた。
「夢野さん……私、自分が間違っていたことに気づいたの」
「お姉様……」
ちょ、いろはちゃんお姉様とか言っちゃってるよ!しかも今シャッター音が聞こえた……って瑠璃ちゃんかい!
「赤哉様のことは今でもお慕いしておりますわ。でも、彼と貴女の恋を邪魔するだなんて真似は致しません」
「お姉様!私はこんなバ会長のことなんて全く……」
「――ありがとな、琥珀。俺は絶対コイツを幸せにするから」
いろはちゃんを無視して、周りの空気がどんどん甘くなっていく。おえー、リア充去れ!
泣き出しそうな琥珀様と握手を交わしたバ会長は、立ち尽くすいろはちゃんに再び跪き、白く小さい彼女の手に口付けを落とした。あ、またシャッター音が。
会長乙、絶対いろはちゃん嫌がってる(笑)と吹き出しそうになるのを堪えて目線をいろはちゃんに向けた――――が、なんと彼女の頰はゆでダコのように赤く染まっていた。え、ちょ、ちょっと待てやコラー!
「なっ、なっ、こんなの嬉しくないんだから!」
そう言って会長の手を振り払ったいろはちゃんは、食堂の外へと駆けて行った。 そこで「誰かを愛しいと感じる日が来るなんてな……」と呟く会長キメェ!鳥肌立つわ!……別に妬んでなんかないぜ。
ふと隣を見ると、宇野君がこちらを生暖かい目で見ていた。なんだよ!お前も非リア充側だろ!
私が宇野君を睨みつけていると、急に、取り巻きAである向日葵さんの悲鳴が聞こえた。
なんだなんだ!?と振り返れば、まだ本調子でなかった琥珀様がふらついてしまい、会長に支えられていた。
会長触んな!と危うく叫びそうになったところで、副会長である青葉様が琥珀様をお姫様抱っこした。キャー!青葉様格好良い!
ふと我に返った私は、取り巻きAの向日葵さんに目配せをすると、すぐに二人の後を追った。
青葉様を追いかけながら、会長の後ろに攻略キャラ達がいたことを思い出し、一人首を傾げた。
色々なことが立て続けに起こったその日の食堂は、いつもより騒がしかった。
お読みいただきありがとうございました!




