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第二十一話

※本日二回目更新となります。

 目の前には深い森が広がっていた。以前見たものとは異なり鬱蒼(うっそう)とした森林はその先がどこまで続いているのかを見通せない。

 現実であれば天然記念物にでもなりそうな巨木は蔦や宿木に覆われていた。その木肌も苔生(こけむ)していて、辺りを緑一色に染めていた。

 足元も水分が多く含まれているのか、羊歯(しだ)のような植物が多く、地面も苔に覆われふかふかとしてそうだった。

 その感触を想像し、佐久弥が期待を胸に一歩を踏み出そうとして……見えない壁に弾かれる。

(ん……?)

 視界の端で、今まで目にしたことがない光が点滅しているのに気付き指を滑らせると……それは初めての運営側からの通知だった。

「ここからは課金対象……か」

 ここでようやく、このゲームはある程度まではお試し扱いだった事を思い出す。あまりの濃い日々に忘れかけていたが、どうやらこの森から先がその対象だったらしい。

(…………続けるか)

 思っていたほどに他のプレイヤーと絡む事も無く、けっこう自分の好きなようにあれこれ行動できるのは気に入っていた。

 そして……ちょっと間違っている気もするが、この世界の妙な生態系に興味を持ってしまったのだ。

 次はどんなものが出てくるだろうと、楽しみにするようでは色々終わってる気がしなくもないが、怖いものみたさという言葉もあるように、好奇心を(くすぐ)られているのだ。

(ならその準備ついでに一旦ログアウトするかな)

 ある意味区切りも良いだろうと佐久弥がその場で落ちる。



 連休も、もう残りは明日一日を残すばかりだ。

 佐久弥はゆっくり起き上がると軽く体を動かして解すと、のんびりと残り少ない休日を思う。

(一度報告に行くか)

 買出しついでにあの店主へと感想を伝えに行こう。

 佐久弥は財布だけを()じ込むと部屋を後にした。


「じいさん元気か?」

 ひょい、と馴染みの店の扉を(くぐ)ると嬉しそうに目を細める姿があった。

「佐久弥のぼんか、どうだった?」

 まず何より先にそれを尋ねてくる店主に佐久弥も慣れたものでレジカウンターのすぐ脇にある椅子に腰掛ける。

「一言でいうと……変」

「なんじゃ、そりゃあ」

 呆れたような顔をする店主に、変わってるにしても限度があるだろうと続ける。

「出てくる生き物が毎回おかしいんだよ……んで今のところ一度も戦ってないままに二つ目の町から次へ移動しようとしてるとこ」

 戦わないゲームってのもよくやったけどそれとも何か違うんだよな~と、どう説明していいのかわからないあの世界に思いを巡らせる。

「ぼんが楽しけりゃそれでいい」

「ああ。丁度課金しようかと思ってついでに顔見せに来たんだよ」

 このまま始めたら連休終わっちまう。と佐久弥が続けるのに頷きながら店主が湯呑みに熱い茶を淹れ佐久弥の目の前に置く。

 店主もまた自分専用の湯飲みに注ぎ、熱い茶に息を吹きかけながらゆっくりと啜る。

「さぁ、話してくれるんだろう?」

 穏やかな口調で促しながらもその瞳は好奇心に輝いている。

 これだからこの店主の所に通ってしまうのだ。いくつになっても好奇心を忘れないこの老人は自分がやった事のないゲームの話を心底楽しそうに聞いてくれるし、お勧めの作品は熱く語る。

 互いの年齢など気にならないほどその時間は楽しいものなのだ。


「そりゃまあ……ずいぶん妙なゲームだのぉ」

 自分で薦めておいて言う台詞じゃないがなぁ、と続けながらも隠し要素とかあったか?と続けるあたり佐久弥の性分をよく知っている。

「あったあった。……お宝が見つかったためしはないけどな」

 花子はもはや佐久弥にはアイテム扱いされていない。

「そういうのは見つける事が楽しいもんよ」

 茶が温くなる頃には、だいぶ語り終えていた。隠し要素を見つけたことでついた妙な称号が一瞬頭を()ぎるがすぐに打ち消す。

「次はどんな町なのかのぉ……森となると、エルフあたりかの」

「どうだろうなぁ……獣人とかも居たしその可能性もあるけどな。あ~定番といえばやっぱアンデッド系とかもいるのかねぇ。……あの匂いまでリアルな世界でそれはきついと思うんだがな~」

 ふと想像して眉を(しか)める佐久弥だが、それもまた一興と笑う店主の姿に釣られて笑う。

「ま、それはそれでありか」

「その意気よ。性格の悪い仕掛けがあったりするゲームも終わってしまえばそういった部分の方が印象に残っておろう。それはそれで良い思い出になろうよ」

 その農園とやらには行きたくないがの、と続けられ二人して笑った。

「そろそろ戻るかな」

 完全に冷め切った茶を(あお)り、佐久弥は立ち上がる。

「おお、また遊びに来い」

 相変わらず商売など二の次な店主に茶の礼を告げ買い物に向かう。


 店主との会話で、あの世界の妙な部分もまた楽しむ気力を貰った佐久弥は残りの休日を楽しむための準備を整える。



 ――さあ、次はどんな世界が待っているだろう。


次の町のまえに一息入れてみたり(・ω・)

たまには平和な回があってもいいと思うんだ(by佐久弥)


※改稿部分 進めて→薦めて

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