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⑦一雲八幡宮にて

2014年4月30日18時03分(49日のリミットまで、残り29日)

福岡県 福岡市 東区 志賀島 8XX

一雲八幡宮


 翌日。どんよりと曇った空。

一雲八幡宮は、志賀島の西の海岸近くに位置する神社である。

 志賀島は海の中道という橋で福岡本土と陸続きになっている島嶼であり、古くは元寇の時代、ここで吉野の坊主が戦勝祈願を行い、合戦に勝利したという。

 福岡市の中心部からは船であれ、車であれ、電車であれ一時間程度で到着できる場所であるが、辺りは閑散としている。

 野辺山大学からはおおよそ二時間弱という場所である。

 セイジ達は学校の授業の後、そのまま電車とバスを乗り継ぎ、午後の遅い時間に一雲八幡宮に到着した。

 セイジは左足骨折の車椅子姿で、それをリツが甲斐甲斐しく押していた。


「うっひゃー、大きな木!」

「そうなの? どれくらい大きい?」

「えーとですね。あの、超大きいです」

「……あのね……」

 リツはセイジが目を見えないことすら忘れた様に、一雲八幡宮の社殿前にそびえる楠の巨木に魅入っていた。

 確かに大きい。

 地面に近い幹周りは、小型自動車位はあり、そこから人の胴の倍以上の幹が、四つにも五つにも別れて、にょきにょきと空へ伸びている。

 しかし一番見事なのは、その先の枝々に付いた億万とも無数とも言えるほどの緑の葉葉である。その葉葉の量と密度は非常に濃く、少し海風が吹くと、ザアザアと、それは大きな音を立てるのである。

 リツは、これほど大量に葉の付いた樹を見るのは初めてであった。

「他にこの神社に変わった所はない?」

「ううん。別にないですよ。フツーの神社。敷地はかなり大きいですけど」

「まあ、詳しく言ってみてよ」

「えーとですね、鳥居があって、神社の周りは鎮守の森に囲まれています。それでかなり広い広場がその中にあって、その奥に大きなご神木が一本立っています。そのまたその奥に、コンビニくらいの大きさの神社があります」

「広場の大きさはどのくらい?」

「サッカーコート半面くらいかな?」

「コートは砂地? それともグラス?」

「砂ですけど、ぶっちゃけ雑草がひどいです。作業着来た人が草取りしてますよ」

「他に人は?」

「サッカーしてる小学生くらいですね。あ、それから集会所みたいな建物ががあります」

 目の見えないセイジはリツの説明から大体の神社の位置を把握しようとした。

 広さとご神木を除けば普通の神社であるが、熊野と名乗った男は、一雲八幡宮で全員殺す、とはっきり言っていた、

 とすれば、ここが奴らにとって大切な場所の可能性もあり、この忌まわしい事件への手がかりがつかめるかもしれない。

 一人でそんな思案をしている時、不意にセイジとリツは声を掛けられた。

「ありゃ? セイジ君じゃん。どうしたの車椅子になんか乗っちゃって」

 その声を聞いた瞬間、セイジは固まった。

 聞き間違えるはずは無かった。あの葬儀の夜に聞いた、熊野の声だった。

「呼子さん! そいつは熊野だ!」

「え? は? え?」

 セイジはまさかこれほど速く、相手と邂逅出来るとは思わず、狼狽しながら鋭く叫びかけるが、何故かリツの反応は鈍かった。

「まあまあまあ、落ち着きなよ。まだ四十九日経ってないでしょ? お前らに会いに行くのはまだ先だけど、どうしたのこんなところに」

「黙れ! 俺の目を奪いやがって!」

「? あー、ちょっと誤解があるみたいだねえ」

「何が誤解だ! お前は敵だ!」

「いやだから俺らは守護霊だって……」

「黙れ! 一体ここで何をしている!」

「何って……掃除?」

「?! 呼子さん! あいつは何をしている!」

「え? いやあの、掃除されてますけど」

「??!! 邪霊が掃除?!」

 確かに熊野は掃除をしていた。

 と言うよりも、リツにしてみれば、先程から作業着を来て草むしりをしている人が、顔を上げて話しかけてきたという状況である。

 作業着姿に、ニットキャップだけはくまモンのままで、軍手をした熊野がそこにいた。

 微妙な沈黙が三人の間に流れる。

 セイジは事の顛末に興奮と混乱していて、熊野はそんなセイジにどう声をかけるか迷い、リツはといえば二十代を超えて、くまモンのニットキャップをかぶる男にかける言葉に迷っている。

 しばし続いた沈黙に、終止符を打ったのはリツだった。

「初めまして。呼子リツと申します」

「あ、どうもご丁寧に。熊野と言います」

「朝倉くんから、その、あの、聞いたんですけど」

「ああ、吉浦家の守護霊やってるよ」

「は、はあ。そうなんですか? それでなんで守護霊さんが掃除なんかしてるんですか?」

 リツは守護霊に対しても、あくまで礼儀正しかった。

「いや、掃除は大事だよ。掃除しないと要らないものが一杯たまっていくでしょ? そしたら落ち着いて考え事も出来なくなるよ」

「……そうなんですけどそうじゃなくて……」

 場違いな挨拶と、それに続いた常識的な応答に、困惑の度合いは深まっていく。

「んー、ちょっと色々誤解があるみたいだからさ、上がっていって話しない? お茶ぐらい出すよ」

 熊野はそう言って、神社の境内の集会所を指で指した。

 セイジは身構えた。

「……何を考えている? この場で殺すんじゃないのか?」

「前に会った時に言ったじゃん。四十九日が済んでからって。だからそれまでは逆に手を出せないから安心してよ」

「……本当か?」

「呪術にもルールがちゃんとあるんだよ。七時に頼んだデリバリーピザが、三時に届いたら契約違反だろ? それと同じさ。じゃなけりゃ、声をかける前に殴ってるって」

「朝倉君。私、この人、邪霊には見えないんだけど?」

 リツがセイジの耳に顔を寄せて、こしょこしょと耳打ちした。

「呼子さん。こいつの外見に騙されちゃ駄目だ」

「……ま、まあさ、たとえ悪霊だったとしても、何か誤解とか勘違いがあるのかもよ。実際の所、私達何も知らないわけだし、お話するくらいはいいんじゃないの?」

「……分かった。でも危険な事だ。もう呼子さんは帰ってよ」

「いやいや! ここまで来たら最後まで聞かせてくださいよー」

 目の見えないセイジにも、リツの声の調子が弾んでいるのがわかった。

「? 何かノリノリじゃない? 霊感少女じゃ無いんじゃないの?」

「霊感はないけど、オカルトは大好きなんです」

 リツは、顔を近づけ、セイジの耳に吐息をかけながら、興奮気味に言った。

「……危険そうだったらすぐ逃げてくれよ」

 セイジはそういうのが精一杯だった。


 熊野は二人を、神社の集会所の応接間のテーブルに通した。

 セイジは車椅子のままで、リツがその隣に座る。

 遅れて熊野が三人分のお茶と菓子を持って来て、二人の反対のテーブルに着く。

 苦り切った顔のセイジに対して、リツは好奇心いっぱいに瞳を輝かせている。

「さて、何から話したらいいか……」

「あのー熊野さん! 熊野さんは本当に守護霊なんですか?!」

 まるで場違いなハイテンションでリツが熊野に話しかける。

「……おお、そうだよ。というか君はあれかな? 君も吉浦家の血族なわけ?」

「いやこの人は……」

「はい! そうなんです! セイジくんのいとこの呼子リツって言います!」

 セイジは思わず見えない目を見開き、否定の言葉を発しようとしたが、リツは畳み掛けるように言葉を続けた。

「それよりセイジくんに聞いたんですけど! 本当に、熊野さんは守護霊なんですか?!」

「……あんまり吉浦家の臭いは感じないけど……まあいいか」

 そう言うと、熊野は右腕の裾を捲った。

 少し毛深い右腕。

 熊野は深く息を吸い、そして吐いた。吐く息と同時に、熊野の右手が、一気に熊の腕に変わっていった。灰色に近い太い毛、巨大な五本の爪は、おのおのが独立したアーミーナイフの様相をしている。

「えええ? え?」

「な」

 ちょっとドヤ顔の熊野。

「え? え? え? 本当に熊さん? セイジ君。熊野さんの手が、くまさんの手になったよ!!」

「いや、見えないんですけどね……やはりそういうことか」

「そうだよ。俺は元々熊なんだよ。蛇沼はヘビでタマはネコだよ」

「えええええ! そ、そうなんですか!!」

 熊野は、熊に変わった右腕を一振りした。すると熊の腕は、すぐに人間の手に戻った。

 リツの目はまるでケーキ屋に来た小学生の様にキラキラと輝いている。

「それよりセイジ君、どうしたのその足……」

「実は私が馬で引いちゃって……」

「……何かアクティブだね……四十九日まではちゃんと生きられるのに……」

「熊野さん。実は私達は、今日はその件で来たんですけど……」

「その件?」

「その、実はですね。吉浦家の本家の人は、もうひとりも残っていませんで、私達には状況が全くわからないんです」

 リツがそう言うと、熊野は顔を曇らせ、

「んー、何となく葬儀の時の、セイジ君の対応から、そんな気がしていたけど……うーん。どうして吉浦家は残される人達に俺達の事を伝えなかったのかなあ……」

 と、半ばぼやくように言った。

「じゃあ、お前らは、本当に吉浦家の守護霊だったっていうのか?」

「そうだよ、そう言ってんじゃん」

 噛み付くように言うセイジに対して、熊野は何を今更、と言った体で答える。

「俺からすれば、いきなり葬式に来て皆殺しを宣言されて、目を潰されて。全くお前らが死神にしかみえないんだよ!」

 セイジは怒気を孕んだ口調で反駁した。慌ててリツがセイジをなだめる。

「セイジ君落ち着いて」

「んー、誤解があるね。まず、君が失明したのは俺達のせいじゃないよ」

「何?!」

「俺達は、邪霊から吉浦家を守護するために、捕らえられて呪法の供物になった哀れな生贄でございます」

 熊野は、さも当然といった風にそう言った。

「もしかして、邪霊からの守護ということは……当時吉浦家は邪霊に取り憑かれていたのですか?」

「正解」

 リツの返答に二重丸を付けそうな勢いで熊野が答える。

 しばし沈思していたセイジが、顔を上げて口を開く。

「……もしかして、俺が失明したのはお前らじゃなくて、あの大太刀が関係している?」

「良い線行ってるよ」

「……実はここ数日、刀で子供を殺す夢をみるんですが……」

 セイジの荒れた言葉遣いが、ついに敬語に変わった。

 熊野はにやりと笑った。


 答え合わせの内容は、おおよそ以下の通りになった。

 五百年前、セイジが見た夢の通り、吉浦の祖先は敵の子供、臼杵清太郎を殺した。

 それのお陰か、吉浦は原田家の中で出世し、正式な家臣として吉浦家の初代当主になったそうだ。

 そして臼杵家は、そんな吉浦と吉浦家を深く恨んだ。そして清太郎の怨念を触媒にして、清太郎の首を落とした大太刀に呪いを掛けたらしい。

 吉浦の葬儀で、棺の上に置かれた守刀は、やはり清太郎を斬った朱色鞘の大太刀で、吉浦の血族がそれを少しでも抜くと、身体に重大な障害がおこり、全て抜いた場合、最悪死に至る。また血族でない者が抜いた場合でも、吉浦家程ではないが、病に陥る事になる。

 呪いをかけられた事に気付かずに、初代の吉浦は刀を抜き、とてもひどい有様になった。

 残りの吉浦家は、初代当主の過酷な様相に恐れを成したが、何が呪いの引き金になるか分からず、獣を贄として捧げる呪法を、この一雲八幡宮の境内で行った。三匹の獣を守護霊として、邪霊から吉浦家を守るために。

 当主が亡くなった時には、葬式に現れる三人を盛大にもてなすことを対価として……。

「守護霊と召喚されて、いきなりビビったよ、召喚した次代の当主が、死ぬほど強力な呪いのアイテムを腰に釣ってるんだからね。すぐに注意して、しまってもらったよ」

 熊野は茶菓子をつまみながら、のんびりと説明した。

「何故、刀を捨ててしまわなかったんですか?」

「呪いのアイテムってのはね、捨てたり潰したりすれば呪いが解けるもんでもないんだよ。逆にそんな事したら呪いが強まることもあるくらいだ。戦国の気風もあってさあ。なんてったって敵の嫡男を斬った武功の刀だからね。割とノリで家宝とか守刀にすることもあるんだよ」

 熊野はさらに続ける。

「もし、あの葬儀の晩に、ちゃんと俺達のもてなしの用意が出来ていたら、お前が失明することも無かったんだ。三獣の呪いが有効なら、抜こうとした瞬間に、俺らが現れて、押しとどめるって寸法だったのさ」

「……」

「それから、お前が夢を見たのは、多分当主が危篤状態に陥ったからだろうな。そういうことは結構あるもんだよ。血筋が教えるってやつかもね」

 熊野はスラスラと言い、それに対してリツが尋ねる。

「でもなんでこんなにペナルティが大きいんですか? あんまりですよ一族郎党皆殺しなんて」

「それはね……この俺達を守護霊にした呪術が、ぶっちゃけ呪いだからだよ」

 熊野は剣呑な雰囲気を醸しだしていた。

「この呪術は通称『三獣の呪い』(さんじゅうののろい)って呼ばれてる。要は呪いなんだ。俺達はそのための生贄なんだよ」

「つまり、呪いには呪いを使って、対抗した……ということですか?」

 リツがポツリという。

「そう、そしてその呪いを完成させるために、さっき言ったように、俺達はお前らの祖先に、殺されたってことさ。しかも邪法の作法で、言うのも憚られる程にひどいやり方でね」

 熊野の視線は、徐々に熱、というよりも殺気を帯びていった。

 目の見えないセイジにもそれが感じられた。

「要は、俺達は邪霊に対抗するために作られた邪霊なんだ。呼子さんの言うとおり、目には目を、呪いには呪いをってことなのさ。実際、あの日にお前らの祖先にされたことを考えると、今でも全身が総毛立つんだぜ。その怨念を鎮めるためには多大なる犠牲が必要なんだ」

 話すに連れて、熊野の目と瞳孔と虹彩が大きく見開かれ、二人をまるで視線で殺そうとしているかのようだった。


「ごめんなさい」

 その時、唐突にリツが頭を下げた。

「本当に申し訳ありませんでした。私達の祖先がひどいことをしました」

「す、すみません。俺も謝ります。申し訳ありませんでした」

 まるでリツに促されるようにセイジも慌てて頭を下げた。

 熊野は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした後、少し笑った。

「フフフ。いやごめんごめん。悪いのは君達じゃなくて君達の祖先さ。君達を憎むのはお門違いだってことくらい、僕でも分かるさ。でもあの時の事を思い出すと、自然と怖い顔になっちゃうんだ。こっちこそ変な目で見てごめんね」

「それでも、皆殺しは何とかなりませんか?」

 リツはすかさず顔を上げると、熊野に畳み掛けるように喋る。

「いやですね、私達の祖先がした事も、約束破りをしたことも悪いとは思います。でもでも一族郎党皆殺しっていうのは、絶対釣り合わないと思うんですよ」

「まあ、おれもそう思うんだけどさ、マニュアルみたいなもんなんだよ。『万引き犯を捕まえたら、親、警察、学校に通報します』ってのと同じだよ。自ら作った霊との約束を違えれば一族郎党皆殺しってさ」

「いや、絶対に助からないなんてことはないはずです。何か解決策があるはずです! どう考えても可笑しいですよ! 先祖がひどいことをしたのは分かりますし、今まで守っていただいた恩もありますけど、それでもやっぱりペナルティが重すぎます!」

 あっけにとられるセイジを置いたまま、一気にまくし立てるリツ。

「君は本当に吉浦家なのかな? あんまり吉浦家にはいないタイプの子だなあ」

「え? い、いや私はセイジ君のイトコですよ!」

 慌てて答えるリツの瞳を、熊野は微かな微笑みをたたえながらじいっと覗き込み、しばし何かを考え込んでいた。

 熊野の眼。

 先程まで殺気を放っていた目は、まだ鋭くギラギラ光っていて中々に迫力がある。リツはそれを臆すること無く、そして怨みを宿すこともない目で見返していた。

 先程された謝罪と言い、この物おじしない心意気と言い、やはり吉浦家にはあまりいないタイプだ。

 そして嫌なタイプじゃない。

 熊野はそう考えていた。

「……あのね、まあ……これは言っても解決方法にならないから、黙ってたんだけどねえ。三獣の呪いを解く手順は一応あるんだよ」

「え?!」

「ほ、本当か?!」

 リツとセイジが同時に身を乗り出した。

「これは期待させるだけかもしれないから、言いたくないんだけど……」

「いえいえいえ、少しでも可能性があるのならば全ッ然オッケーです」

「そ、そうだ。方法があるなら言ってください!」

 二人は必死にそう言う。

「いやね、簡単な話でね。約束が破られた時、供物にされた守護霊の三人、つまり俺と、蛇沼とタマの、それぞれの望みを叶えれば呪いは解けるんだ」

「そ、そうなんですか? なんだか勿体ぶられた割には、正攻法みたいな気もしますが……」

 セイジは、思わず言った。

 思っていた以上に低そうなハードルに、内心は拍子抜けしていたのだ。

「いや、その望みを叶えることが難しいんだよ。俺はいいんだけどねえ」

「解決策があるならそれに賭けます!」

「いや、そうじゃなくて……」

「ちなみに熊野さんの望みってなんなんですか?」

「んーー。でもなあ、俺の望みを叶えても、蛇沼とタマの望みが叶えられなかったら駄目なんだよ。だから……」

「いやいや! ここまで話してくれたんです。まずは熊野さんの望みを叶えてみせます」

「あ、そう? でもなあ……」

「言って下さいよ。私達のご先祖様が熊野さんにやったことの償いにもなります」

「そうか? でも高校生の君達に……」

「お願いします!!」

 必死にそう言って二人は頭を下げた。

 熊野はそんな二人を見て、ため息をつきながら言った。

「……実は俺の親戚が檻に入れられて困ってるんだ」

「? 刑務所にいるってことですか?」

「いや、福岡市動物園にね」

「は?」

「ニホンツキノワグマ舎のペンタ君」

「はいぃッ?!」

 思わずセイジとリツの二人が叫び声を上げた。

「まだ生まれたばかりなんだけどさー、どうしても外の世界を見たいって言って両親を困らせてるのよ」

「は、はあ……」

「東京に憧れる地方の若者みたいなもんでね。両親としてもさー、出来れば我が子の願いを叶えてやりたいんだけど、どうしようもないでしょう」

「……そ、それで熊野さんの望みっていうのはもしかして……」

「ペンタ君を福岡市動物園から脱走させてくれたら、俺は自分の分の呪いを解くよ」

 そう言うと、熊野はにっこり笑った。

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