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⑰その後の事

2014年6月1日11時03分

福岡県 福岡市 城南区 片江3-XX-XX

ガスト・片江店



「全く、天下の福岡県警も落ちたものですね。女子高生を留置所に入れてすべての罪を着せるつもりですか? 新聞を読みましたよ。パトカー全損十一台。百十三発発砲。それが何? 熊が出た? 蛇が出た? そんな痕跡一つ無いって新聞もテレビも呆れてますよ。東京のレポーターが言っていましたよ、どうやら福岡県警は豚骨スープに頭をやられたんじゃないかってね。いい恥さらしですね。は? うちの生徒が、馬に乗って駆けまわったのは別の話ですか、そうですか。それを言うならあんたらがおこしたパトカー全損十一台と前代未聞の発砲事件について、ウチの生徒は無関係でしょ? 無邪気な女子高生が、手綱を誤って暴れ馬から落ちないように捕まって市内を駆けただけじゃないですか。それでどんな実害がありました? せいぜい信号無視で起こった渋滞だけでしょ。アンタの所はパトカー、一台300万円として十一台で3,300万円ですか、そうですか。誰かに腹を切らすか、外部のせいにしないと収まらないと。だからといってさすがに女子高生一人に擦り付けられる量の損害ではありませんよ。そっちの事情は同情しますが、さっさと呼子リツを開放しなさい。それがあなた方のためです。彼女の父は参議院議員ですよ。あんたらは参議院議員の子女をとりこにしているのですよ。来年の交付金について、そろそろ知事から本部長に直々の相談があるかもしれませんね。まああの子達の事は諦めなさい。そして別の言い訳を考えなさい。天下の福岡県警でしょ?」


 あの日、斬り倒したタマは息を引き取ると、子猫に戻っていた。

 二人はタマの死骸を、燻ぶる大樹の下に埋めてやった所で、ようやく到着した福岡県警に連行された。

 だが葛飾の懸命な情状と、呼子家の権威により、リツは即日、大樹を燃やしたセイジも三日後には開放された。


「呪いはきれいサッパリ解けたみたいだよ」

 熊野と蛇沼、セイジとリツが再びガストで相まみえた。

 皆、変わらぬ姿と言いたいところだが、何故か熊野と蛇沼は、いつものヒップホップとヲタのファッションはなく、スーツ姿である。

 リツとセイジは『あ、バカップル』とひと目で分かるほど、密着して座っていた。

「はあ、それならばあなた達はどうしてここにいるのですか」

「ははは、いやあ手厳しいなあ。どうやら俺たちは只の人間になったみたいだ」

「本当ですか?」

「ああ、間違い無さそうだから嫌になるよ」

 リツが不思議そうに尋ねる。

「何故、普通の人間になったって分かるんですか」

「あはははははははははは……彼女が妊娠した」

 リツは熊野に、巷でよく言われる『屠殺場に運ばれていく豚を見る目』を向けた。

「まじありえねえよ、五百年間無かったのに一発だぜ一発! マジでありえねえって」

「サイッテーですね」

「も、もしかしてそのスーツ姿は」

「ああ、就職活動だよ。もー最悪。熊にも戻れないみたいだしさあ」

 どうやら、二人の望みを叶え、タマのみを殺害するという、中途半端な呪いの解き方をしたせいで、熊野と蛇沼はそのまま人間になってしまったらしい。

「しかし熊野氏、履歴書はどうするでござる?」

「ぶっちゃけさあ、嘘つかずに五百年分書いてみても面白いかなって思ってるんだけどねえ」

「絶対、止めたほうがいいですよ」

「拙者もそろそろ、本当に働かないといけないでござる」

 熊野と蛇沼は笑っていたが、目は泣いていた。

 もう汗ばむくらいの土曜日の事だった。

 正午の太陽にあぶられた空気が、一番いい頃合いになる午後二時頃、四人は揃って店を出た。

 店員は、泣いたり笑ったりと不気味で共通性の見いだせない客が出て行くことに、ホッとしているようだった。

 多分、四人でもう一度この店に来ることは無いだろう。

 歩道に出て、それじゃあと別れを告げるセイジとリツに、熊野は何気なく声を掛けた。

「おーい、お前らはどうすんだよこれから」

「デートですよデート」

 仲良くセイジと手を繋いだリツがそう言った。

「ふーん」

「どこにいくのでござるか?」

「保健所」

「えっ」

「タマって猫を、探しに行くの」

 リツはそう言って、とても優しく笑ってみせる。

 その笑顔は、セイジが夢で見た清太郎にとてもよく似ていた。


 終わり。

おしまいです。

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