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藤堂遙花

 楽しかった二泊三日のオリエンテーション。バスに揺られて学校前で降りた後、真っ直ぐ家に帰って買ったばかりの大作ゲームの続きをする筈だった。


 半年前。帰りのバスに乗っていた私達を襲った事件。関東地方へ向かう筈だったバスは進路を大きく外れて、車道から飛び出して富士の樹海へ突っ込む。そして唐突に告げられた異世界への片道ツアー。


『学生諸君、ご機嫌よう。私は人間界の管理を任されている者です』


 なんだ、このふざけたアナウンスは。

 私だけじゃない。その場にいた生徒と教師がそう思ったに違いない。当然、ざわめく車内。そして私達の様子などお構いなしに続く車内放送。


『会社でいうところの課長ポジションですね。えぇ、いわゆる中間管理職って奴です。まぁそんなことはどうでもいいですね。雑談とか結構好きなんですがザックリ状況を教えましょう。皆さんは樹海で行方不明者が多いことはご存知ですよね? ぶっちゃけ失踪の原因は神様が管理している異世界に転移してるからです。というか現在進行形で皆さん転移してる最中です。皆さんが転移する先はラスティアと言って、異世界の中では比較的新しい世界です。新しいと言っても入社半年目の期待の新人ぐらいの出来映えですけど。どんな場所かと言えば、オタク用語で言うところの剣と魔法のファンタジーと言えば想像しやすいでしょう。何故こんなことをするかという疑問ですが……迷惑な話でしょうがウチの上司の暇潰しですね。職権乱用も良いトコです。何でも人間界では異世界小説が流行ってるそうだし、じゃあリアルでやったらどうなるんだってことで今回の事件に繋がります。あぁ、私を恨んでも無駄ですよ。中間管理職の私に文句を言っても仕方ありませんから。まぁすぐに納得しろと言われても難しいでしょう。三分だけ時間あげますからその間に落ち着いて下さい。同じ説明を二度するほど私はお人好しじゃありませんから』


 当然のように不満が爆発する。だけど幸いなのは爆発する生徒よりも降って湧いた状況に混乱しながらも冷静にこの状況を見極めようとする教師と生徒が大勢いたこと。かく言う私は頭が混乱してそれどころじゃなかった。お陰で落ち着きまでに三分をフルに使い切ってしまった。


『はい、三分経ったので説明を再開します。聞き逃していい説明なんて一つもないし質問も受け付けませんので。先程も申し上げた通り、これから行く世界は剣と魔法の世界です。動物の代わりに魔物が蔓延り、人間や亜人が生活しています。で、ここからが超重要です。異世界な訳ですから当然、国は存在しますが結構な頻度で戦争してます。死んだらコンテニューとかヤバくなったリセットとか、そういうゲームみたいなやり直しもできません。死んだら即終了です。勿論、うちの上司も何の取り柄もない学生をそんな世界にいきなり放り込むほど冷酷ではありません。これもまぁライトノベル……て、言うんでしたっけ? 流行りの小説。その主人公って大抵チート能力持ってるじゃないですか。楽して凄い能力持つとかニートの憧れですね。今回はそれを採用します。こちらで用意したチート能力は全部で三百種類。大まかですが種類分けもしてます』


 いつの間にか、私達の膝元には手帳サイズのノートが置かれていた。催促されてページを開くと立体映像のように管理職の人が言ってたチート能力の一覧が現れた。


『どの能力をどのぐらい取るかは皆さんの自由です。お望みならば全部取るというのも一つの手段です。補足としてこちらで身に付けた技術……例えば元から料理が上手な人は【料理】スキルを習得しなくても始めから【料理】スキルの熟練度が高いです。【料理】スキルが最高レベルだった場合は五つ星レストラン並みの腕前です。【格闘技】や【容姿】などもこれに該当します。ま、生まれ持った才能を持つ人や日頃から努力している人は優遇されるってことです。あと、スキルを複数取るときは気をつけて下さい。習得したチート能力に応じて皆さんが転移される先の危険度は大きく変わります。かと言って戦闘技能を取らないのもお勧めしません。安全と言ってもあくまでラスティア基準で安全というだけです。因みに上司のお勧めは戦闘技能を一切取らないルートだそうですが日本へ帰りたいというのであれば絶対止めた方がいいです。隠しパラメーターとか隠しスキルもセットになるようですが死にたくなければ絶対避けて下さい。死んでもいいという人だけ試して下さい。あと、雑魚はともかく中級レベルの魔物になると特殊能力前提での戦闘になりますから』


 この時点で既に何人かの生徒が使えそうなスキルと数を吟味していた。当然、私もその中に含まれている。車内放送に耳を傾けることも忘れずに。


『説明が最後になりましたがラスティアから脱出する手段はキチンと用意してありますのでご安心を。脱出条件はズバリ、最果ての地で静かに眠るフェンリルを倒すこと。ネトゲーやったことある人なら想像付くでしょうけどボスモンスターをソロ攻略とか結構無理ゲーなんでチーム組んで下さい。因みに帰還できるのは実際に戦闘に参加した人だけです。他の人が倒しても一日経てば何事もなかったかのように復活しますんでその辺はご安心を。ついでにフェンリルを倒した生徒には報酬として現金で二億円が用意されます。他にもご都合主義的な力で過ごした分の時間は巻き戻されて何事もなかったかのように自宅に帰っていたってことになるんでリアルの心配とかしなくていいです』


 ふざけるのも大概にして欲しい。何が安心だ。気紛れで巻き込まれるこっちのことを考えろと叫んでやりたかった。


『まぁゼロサムゲームな世界を生きるのも嫌だって人もいるでしょうし、そういう人は社会の負け犬みたいにスッパリ諦めて努力もしないで貰ったチートスキル使って第二の人生でも送って下さい。それにほら、上手く立ち回れば日本では平凡だった自分でも異世界では英雄になれるチャンスでもあるんですよ? どうです。少しはやる気が出たんじゃないですか。目的意識もない癖に社会の歯車の一つとして人生終えたくないとか吼えてる人とか特に』


 このときの私は周りに目を向ける余裕はなかったけど、今にして思うとこの時点で仲間を増やしておくべきだった。もっとも、私も友達も他の娘も、自己保身で手一杯な状況だったし、後知恵でしかない。


『以上で説明は終了です。あ、本当に最後ですがスキル習得時間は三十分ですよ。終わった者から順番にバスを降りて下さい。更に先着二十名まで装備一式と一ヶ月分の路銀が進呈されます。時間内に決められなかった生徒は……残念ながらうちの上司が気紛れでスキルを与えて送還されます。では皆さん、月並みな言葉ですが健闘を祈ってます』


 こうして私達は強制的に異世界・ラスティアへ放り込まれた。比較的決断が早かったのは男子たち。女子は仲良しグループで固まって焦りながらもスキル習得について相談。自己強化することに必死だった私はぽっちのまま、男子の後に続いてバスを降りる。


 危険とチートスキルを天秤に賭けながら色々吟味した結果、私が選んだチートスキルは以下の通り。




・古代精霊魔術

精霊信仰が最盛期だった頃のラスティアで用いられていた魔術。現代の精霊魔術より威力が高い。女子限定。

・無限の魔力

名前の通りどれだけ魔力を使っても魔力が枯渇しない。

・エナジードレイン

攻撃時、相手の生命力を奪って自身の生命力を回復するパッシブスキル。対象との距離が近いほど、効果が高い。




 本当ならもっと沢山取りたかったけれど、私じゃこの辺が限界だった。これ以上は怖かった。


 そしてこれは私だけじゃなくて、多くの人が失念していたことだと思う。魔物が蔓延る世界なら当然、魔物との戦闘がある。


 私は完全になめていた、魔物という存在を──

 私だってオタクだ。異世界に転移したらとか、そういう妄想をしなかったと言えば嘘になる。だけど実際に体験すると本当に頭がパニックになる。


 一軒家ほどの大きさはあろう巨大な虫型の魔物に囲まれて追いかけられ、或いは醜悪な顔をした鬼の血走った目。吐き気を催すような臭い。そして若い身体を目当てに襲ってくる筋骨隆々の盗賊たち。


 怖かった。ただただ怖くて怖くて、折角貰ったチート能力の一割も引き出せずに怯えることしかできなかった私。だから助けてもらったとき、この人に守ってもらう為に、自らを戦いの場から遠ざける為に使用人の申し出を買って出た。


 束の間の平穏が訪れた。私が飛ばされたベルガン帝国は戦時中ではあったけど、戦場から遠く離れた辺境の地だったこともあって平和だった。そして私はそのぬるま湯にどっぷり浸かって、甘えてしまった。自己鍛錬をする機会など幾らでもあったのに、その時間を無駄に使ってしまった……。


 屈強な兵士に囲まれてながら魔術を唱える女騎士。応戦する自警団は悉く焼かれる。あまりの惨劇に発狂しながら応戦するも、チート能力しか取り柄のなかった私は容易く抑えられ、奴隷として売り飛ばされた。


(本当、私ってバカだ……)


 自分が嫌いになる。後悔は山ほどある。

 自警団に助けられたとき、私も強くなろうと決意していれば……いや、そもそも半年前に勇気を出して近くのグループに入れて貰えれば……。


 あれもできて、これもできた。全ては後の祭り。

 私はこれから風呂にも入ってない、汚らわしい男に買われて、死ぬまで道具のように扱われるに違いない。そんな失意の中、私の目に飛び込んだのは、もう二度と会うことはないだろうと思っていたクラスメイト。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「最上、くん……? 最上君よね!?」

「えつ?」


 いきなり名字を呼ばれてびっくりした。驚き、声のした方を振り向くと見覚えのある娘が檻の中に入っていた。


 日本人特有の黒髪と黒い瞳。まともな食事を与えられていないのか、疲労と栄養失調の気配を感じられるがそれでも彼女の美を損なうことはない。むしろ身体を拘束する手枷や鎖でさえ、彼女の美しさを引き立てる衣装のように思える。


「藤堂さん?! どうしてここに!?」


 果たして、予期せぬ形で再会した相手はクラスメイトの藤堂遙花だった。

 誰もが認める高峯の花であり、父親は誰もが夢中になっている某有名動画を運営する会社の社長。ごく一部の、奇特な趣味を持つ人達は僕と藤堂さんで危険な妄想をしているが、それはさておき……。


「藤堂さん、なんで……」

「私は……助けてもらった恩を返す為に屋敷で配給の仕事をしていたの。だけど、戦火が押し寄せてきて、それで……」


 戦火……とすると、藤堂さんはつい最近まで戦争をしていたベルガン帝国に居たということか。だとすれば、藤堂さんはそのゴタゴタに巻き込まれて運悪く人身売買の人に目を付けられたのかな。


「どうだい、お兄さん。この商品は見た目通りこの娘はなかなかの器量で初物さ。ただ、こいつを捉えるのに結構な被害が出てね、見た目に寄らずえげつない威力を持つ魔術をバンバン撃ってくる商品さ。まぁそれをさっ引いてもこれはなかなか優良商品さ。隷属の首輪を最大限に活用して心をぶっ壊してから戦闘奴隷を兼任させるのも手だよ。他にもじっくり時間を掛けてお兄さん好みに仕込むのもまた乙ってヤツさ。それ以外の使い道は……そうだね、悪魔召喚の為の苗床としても申し分ないさ。男の冒険者の中には悪魔と契約して絶対的な力を得ているヤツがいるぐらいだからね。悪魔は税金も手も関わらない有能な奴隷みたいなモンだが、主人の死後は魂を貪るって話だよ」


 聞いているだけで気分が悪くなる。苦虫を噛んだような表情を浮かべながら藤堂さんの首に掛けられている木札に目をやる。


 金貨三十枚。それが最低価格か。珍しい能力に加えて怪我した捕獲隊の治療費も入っているんだろうか?


 正直、藤堂さんとは親しい関係ではない。とはいえ、オリエンテーションでは同じ班だったし、多少なりとも世間話をした仲だ。何より自分の知り合いが自分の目の届く範囲で酷い目に遭うというのは僕としてはとても耐え難い現実だ。


 できることなら助けてあげたい。だけど今の僕には金貨三十枚は厳しい。いや、そもそも藤堂さんを始め、彼女たちはオークションで競り落とされるんだ。確実に落とすなら最低でも金貨九十枚は欲しい。


(しかも、期限はたったの一週間しかない。僕とバルドが不眠不休で働いても絶対手に入らない金額だ)


 現実的に考えれば藤堂さんのことは諦めるしかない。ましてや僕達は誰かを養うほど余裕なんてない。気の毒だとは思うけど、良い買い手が見つかることを祈って見て見ぬ振りをするのが一番。


 だけど──


「最上君……」


 潤んだ瞳で藤堂さんは僕を見つめてくる。それは無言の懇願。藤堂さんは頭も良いし、空気を読むのが上手いから僕の苦悩なんて見透かしているに違いない。それでも無言で助けを求めるのは当然のこと。


(あぁ、これは駄目かも知れないな)


 彼女に見つめられた瞬間、不思議と僕は彼女を助けてあげようという気持ちが芽生えていた。


 なんてことはない。助けを求めても、誰も救いの手を差し伸べないあの絶望感を、僕は良く知っている。


 あの時の僕と藤堂さんの違いがあるとすれば、救いの主となり得る人間がこの場に居るかどうか。


「兄貴……」


 ぽんっと、バルドが僕の肩を叩く。衝動買いも同然の勢いで藤堂さんを購入しようとする僕を戒めようとしたのだろうと思って振り向くと、微笑を浮かべるバルドの顔が飛び込んだ。


「自分は、兄貴の判断に従うのみッス。遠慮なんかしたら、兄貴と言えどぶっ飛ばしますよ?」

「…………うん。ありがとう」


 バルドにまで背中を押されたとあっては、僕と言えどやらない訳にはいかない。


「商人さん、この娘は一週間後に競りに出されるんですよね?」

「お? お兄さん、この娘が気に入ったのかい?」

「えぇ。それで相談──いえ、交渉と言うべきですね。私はどうしてもこの娘を買い取りたい。それこそ、オークションなんてまどろっこしいやり方じゃなくて確実にあなたから買い取りたいと言ったらどうします?」

「…………」


 僕の言葉を脳内で咀嚼して、計算する商人。単純な直感だけど、オークションに出品されたら間違いなく落札は不可能だろう。参加者の中には間違いなく貴族もいる筈だ。


 つまり、僕が購入できるチャンスは今この場で商人と直接交渉するより他ない。


「百枚だ」

『なっ……!?』


 バルドと藤堂さんの声が重なった。

 金貨百枚。オークションを経由せずにモノにしたければ一千万ゴールド用意しろと、この商人は言ってきた。それがどれほど途方もない金額なのか、バルドはもとより藤堂さんも理解したようだ。


「こっちも商売だからね、簡単には負けないよ。オークションに出せばそれ以上は固いさ。長いことこの商売やってるアタシの勘がそう告げている。それを知った上で本気で欲しいなら一週間以内で金貨百枚用意してみな。そうすりゃ特別にアンタに売ってやろうじゃないか。……まっ、見たとこアンタ等は駆け出し冒険者、ましてや特別な力を持ってるようにも見えない。金貨百枚なんて大金、用意するなんて無理だろうけどね」

「絶対ですか?」

「言っただろう、長いことこの商売やってるって。アンタからは稼げる冒険者が持つ特有の気概やオーラがない。賭けてもいいさ。アンタじゃどうしたって手が届かない金額さ」

「じゃあその無理を押し通したら追加でサービスしてくれますか?」

「……アンタ、正気かい?」

「お姉さんは本気と冗談の区別の付かない人ですか?」

「………………」


 女商人は腰を屈めて覗き込むようにジッと僕の顔を見る。威圧しているのが分かる。だけど引く訳にはいかない。睨まれても怯むな。にらみ返せ。ヤクザがガン飛ばす勢いで睨めつけるんだ……ッ!


「──く、クククク……」


 前触れもなく、彼女はクツクツと笑いを漏らし、ついには僕を見下ろしながら声を張り上げて哄笑する。その目に侮蔑の色を混ぜながら。


「クククク、アーッハッハッハッハッハッハッ! こりゃ驚いた。本気の目ぇしてるよアンタ! 面白い、アンタホント面白いよ。この鬼の女衒と恐れられるアタシが出した難題に挑んだヤツがどうなったか知ってるか? 奴隷さ! 賭けに負けたヤツはアタシの商品になるんだ! それでもやるってのかい、お兄さん? 笑かしてくれた礼に今なら戯言として聞き流してやってもいいんだがね?」

「友達が助けを求めているんだ。僕にとってはそれだけで充分だ」

「アハハハッ、アンタ善人──いや、究極のお人好しだね。地平線バカでもこんな無謀なことはしないよ。ックク、いやここまで笑ったのは何年振りだい? ……いいさ、できないだろうけど金貨百枚用意できたらアタシも腹決めてサービスしてやろうじゃないか。……だけどお兄さん、一つ大事なことを忘れてないかい? 言ってしまえばこいつは賭けだ。ウチが勝った場合のメリットを提示しなけりゃ承諾はできねぇぜ」

「それについてはこれを」


 言いながら、袖口の裏に隠れたモノを取り外してそっと手渡す。

 僕の世界では珍しくもない、けれどこの世界では存在しないかも知れないモノ。だけどそれを見ればそれが何なのかはすぐに分かる。


 案の定、奴隷商人はすぐに目の色を変えた。


「はっ、これはまたとんでもないものが出て来たね! こんなにも小さな時計は始めて見たよ。見たところ素材は純正の銀ってとこか。アタシの記憶が確かならこのサイズの時計はまず存在しないね。多分王族でも持ってない代物だ」

「腕時計です。担保としてあなたに預けます。勿論、僕が金貨百枚用意できたら返して貰いますけどね。それで、どうします?」

「まだ足りないよ。確かにこいつは珍しいが金貨百枚出すほどの価値があるとも思えない。残りはどうするんだい? こいつは金貨百枚という大金が掛かった賭けだ。アンタが負けた場合、掛け金に見合うものを出すのがスジってモンだろ?」

「その時は身体で払います。奴隷でも何でもお好きにどうぞ」

「見た目に寄らずぶっ飛んでいるよアンタ。……いいぜ、契約成立だ」


 その後、その場で誓約魔術が封じられた羊皮紙に細かい取り決めを記入してサインを書く。担保として腕時計を出したけど、仮に金貨百枚を稼ぎきれなくても腕時計を足せば届く場合はその場限りではない、という追加事項も付け加えて。

 要約するとこんな感じだ。




・一週間以内に金貨百枚用意できた場合、藤堂遙花を最上薰に売る。

・期日内に藤堂遙花を購入できた場合、副賞として追加で一人奴隷を貰う。

・人頭税は商人持ち。

・期日内に用意できなかった場合、腕時計と自身の身柄と引き替えに藤堂遙花を解放。

・腕時計の担保金は金貨十枚とする。




 ……うん。我ながら勢いだけで決めた感じが否めない。


「最上君……」


 一方的に取り決められた取り引きを黙って見ることしか出来ない藤堂さん。僕は彼女を安心させるべく、優しく頭を撫でる。


「大丈夫。必ず助けてみせるから。だから、少しの間だけ待っててね」


 こうして、僕はその場の勢いに任せてかつてのクラスメイト・藤堂遙花を購入すべく、金貨百枚という途方もない大金を稼ぐことになった。

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