準備期間
皆様のおかげで総合評価が100ポイント越えました! 数ある作品の中から拙作を読んで頂き本当にありがとう御座います!
そして今回からちょっと改行多くしてみました。色んな作品見ていくと改行多い方が読みやすいって印象があるけどその辺どうなんでしょうね? これで問題なければ今後はこういう形で行きたいと思います。
妖精の迷宮。冒険者をしていれば一度は耳にする言葉。
攻略者が圧倒的に少なく、挑戦し、失敗した者は記憶を消去された上で近郊の地へ放り出される。
故に情報源は攻略パーティーの証言のみ。
但し、その内容は攻略パーティーによって異なる為、参考にならない。
共通ルールとしては滅多に荒事にはならない事、創造者たる妖精が楽しむことを主眼と置かれている事。
公式記録で確認されている妖精の迷宮は国内で三つ。
国外を含めれば桁が増える。
そして、その全てがマリエッタの言うように数百年間の間、一人として攻略者が出ていない。
だが、攻略者が出ないからと言って素直に諦めるような冒険者は少ない。
命の危険が限りなくゼロに近い上に一攫千金が狙える上に、日頃女たちに虐げられている男冒険者たちは特にそうだ。
妖精の迷宮攻略譚で尤も有名なのが妖幻の迷宮譚。
迷宮内が一つの島であり、大自然でもあったその迷宮の攻略条件はお祭りをして楽しませろ、という何とも奇妙なもの。
他の迷宮でも妖精と平和的手段で競走したり、時には御前試合をさせたりと、とにかく世間一般の人達が考えるような、魔物が蔓延り、常に死が隣り合わせの、薄暗い迷宮とは根本的に違う。
ととのところつまり、攻略には頭を使うものが多いのだ。
そして男の冒険者というのは大半がまともな教育を受けていない。
そして貴族出身の女連中は総じて冒険者としての向上心が低い。
冒険者活動はあくまで武者修行の一環。
ほどほどのところで切り上げて、貴族としての勤めを果たす。迷宮なんてものはナンセンス。
こうした背景と相まって、妖精の迷宮の攻略者は現れていない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「でも、ローリスクハイリターンなのは魅力的だし挑戦する価値はあるよね」
「あなた、本気で言っているの?」
僕の本気を冗談と思ったエリザベスさんが意外な顔をして見てくる。
僕としては寧ろその反応の方が意外だ。
冒険者でなくても旅をするなら危険は付きもの。
数日程度の足止めならまだしも、僕は年単位で歩みを止めていられるほど気の長い人間ではない。
そもそも、妖精の迷宮は聞けば聞くほどリターンの方が大きい場所に思える。
威力偵察や情報収集の類が出来ないのは仕方ないが、同時に試金石にもなると思っている。
欲しい情報が、必ず手に入るとは限らない世の中で、不確定要素に囲まれた中、どれだけ最善手を打って行動を起こせるか。
リスクの少ない環境でそれを試せるのはそう何度もあるものじゃない。
「カオルさんって、可愛い顔して意外と野心家なんだ……」
「力に憧れを抱いているのは否定しないよ。でも、過分な権力に手を出そうとは思わない」
身の丈に合う権限──例えば小グループ内の序列で一番とか、小売店の店長とか、そのぐらいならなってもいいかな、ぐらいには思うし魅力を感じる。
だけどそれ以上になると手が止まる。
貴族ともなればこっちから願い下げだ。
僕の最終目的はあくまで故郷の地を踏むこと。
足枷になりそうなものは情が移る前に捨てなきゃ決断が鈍ってしまう。
「それで、マリエッタさん。僕の力が必要と言ってましたが具体的には──」
「カオルさん」
ピシャリと、マリエッタさんが僕の台詞を遮った。
「この世界に魔術を使える男はいません。先程はつい、戯れで|世界の常識を否定する可能性を口走ってしまいました」
「…………」
「力は、毒にも薬にもなります。薬も用法を誤れば忽ち身体を蝕む毒となります」
「……そうですね。済みません、僕の失言でした」
遠回しに釘を刺されたので素直に頭を下げる。
僕の力が露見すれば世間を揺るがす大事件となる。
軽挙な発言は控えなさいと、言われたのだ。
(マリエッタさんの言う通り、僕はこの力を使いこなせていない)
尤も、毒を毒のままにしておくつもりは毛頭無い。
フェンリル討伐を視野に入れるなら、必ずこの力は必要になる。
だから今は、爪を研ぐ時期だ。
「御免なさい。雑談があまりに楽しかったのでお喋りが過ぎてしまいました」
「こちらこそ。……それより、やはりカオルさんは挑戦するのですね」
「挑戦しない理由がありませんから」
デメリットを上げるとすれば部分的な記憶の欠落ぐらいかな。
迷宮にどれだけ閉じ込められているかとか、外に出た時点でどのぐらい時間が経過するかとか、異世界特有の事情もあるかも知れないけどそんなこと心配してたらきりが無い。
「カオルさんの決意は分かりました。止めることはしません。ただ、私達も迷宮へと連れていっては貰えないでしょうか?」
「マリー? どういう風の吹き回し?」
「どういう……そうですね、私は自分で思っていた以上に情の深い女だった、と言ったところでしょうか」
「絆されたの!?」
リンスリットさんの質問にさらりと答えて、その回答にエリザベスさんが驚く。
前から思っていたけどこの三人は本当に仲がいい。
うちのパーティーって基本一方通行な関係だから余計そう思う。
「カオルさんはエリーとリリーが思っているような人ではありませんよ」
「マリーにそこまで言わせるなんて……」
エリザベスさんが僕を見る。
まるで始めて僕の存在を認めたように。
好奇心丸出しの視線で値踏みするように。
獲物を見つけた中年親父のように。
……最後は僕の被害妄想だ。
「……マリー、私もこの人と寝るの?」
エリザベスさんの質問に、チラッとマリエッタさんがアイコンタクトを送る。
話してもいいかという、無言の訴え。開き直れるほど図太い人間じゃない僕は軽く首を振って応じる。
「カオルさんは少々、気弱な方ですから、エリーの相手をするには少し相性が悪いと思うわ」
「でも、マリーだけに負担を強いる訳にはいかないわ」
「特別、負担になるようなことはしてませんよ。ただちょっと、就寝前にお喋りして一緒に寝るだけですから。それにエリー、あなたは男性に対して少し威圧的に出てしまう節があるから、そういう意味では私とリリーの方が適任よ」
「……じゃあ、私は何をすればいい?」
「カオルさん達は村長との約束であと数日は村に滞在しなければなりませんが、その期間を過ぎれば王都を目指します。なので、エリーにはお連れ女性……トウドーさんとクローディアちゃん、でしたよね?」
「そうです」
「そのお二人の指南をお願いします。カオルさんも、二人が戦力なることは喜ばしいことでしょう」
それは……確かにそうだけど、エリザベスさんは指導が出来るほど熟達した人なのかな?
「私、これでも昔は神殿騎士団に居たのよ。昔より生活は貧困になったけど悪くないわ」
僕の疑問を機微に感じ取ったのか、エリザベスさんは少し胸を張って誇らしく言って見せた。
ついでに証拠とばかりにステータスを開示してくれた。
名前:エリザベス
職業:神官戦士
レベル:64
称号:剣術指南教授
特殊:鼓舞
・アクティブスキル
─非公開─
・パッシブスキル
─非公開─
流石にスキル関係は非公開設定しての開示だけど、驚いた。エリザベスさんのレベルが六四だってことに。
これはギルドランクに置き換えればBランク相当の実力者であることを意味している。
ウルゲンさんでさえ、最終ランクはCだったことを考えると彼女は凄腕と言ってもいい。
「この、神官戦士というのは?」
「魔術と剣術、その二つを一定水準まで納めた人が名乗ることを許される職業よ」
「へぇ。エリザベスさんは天才なんですね」
「ふふん……」
天才と言う言葉に明らかに機嫌を良くする。
彼女は煽てていけばどんどん機嫌が良くなるタイプか。
「ただ、うちの仲間で一人、トラウマ持ちが居ますのでクローディアちゃん……妖狐族の女の子を中心に鍛えてくれれば」
「? トウドーっていう人はいいの?」
「戦いの舞台にすら立てませんから」
「そう。まぁ一応やってみるわ」
初対面のときはツンデレキャラかと思ったけど、エリザベスさんって意外と面倒見がいい人かも知れない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて。僕は僕で訓練をしなければならない。
最初は指導員なしで訓練をしなければならないかと危惧していたけど、事情を知って尚、態度を変えないマリエッタさんが教師役を買って出てくれた。
訓練内容は平たく言えば魔力の制御。
具体的なやり方は器に満たされた水を魔力で掻き回したり、一定量の魔力を一定時間、均一に放出し続ける訓練が主流だ。
クローディアちゃんの訓練は近辺の魔物を掃討する、実戦を兼ねた訓練になるので僕が付いて行く必要はない。
じゃあ魔力制御の訓練は僕とマリエッタさんの二人きりかと言えば、そうではない。
「ですから、キチンと自分の内側と向き合って下さい。魔力を自覚できなければ何も始まりません」
「そう言っても、魔力なんて分からないわ。もっと簡単な方法ってないの?」
「薬を飲ませる方法がありますが生きるか死ぬかの二択になります。昔は当たり前のように取られていた方法みたいですけど今は逆に珍しいですよ。一応その薬、教会にありますけど飲んでみます?」
「…………安全な方法でお願いします」
藤堂さんにはリンスリットさんが付いた。
僕達は完全にマンツーマンの指導だ。
(藤堂さんって、一度は魔術使えた筈だけど……やっぱりまぐれ?)
格闘ゲームに例えるなら適当にレバガチャしたらたまたま凄い必殺技が出た感じのあれだろうか。
僕は比較的すんなりと魔力を自覚できた。
精霊とのやり取りについては言うことがないと、先生からのお墨付きを貰っているので自然と訓練は制御に集中する。
「高速回転と低速回転、乱回転をそれぞれ一分ずつやってみて下さい」
鍋いっぱいに満たされた水に魔力を流し込んで、回転のイメージを加える。
ただの魔力だけだと物理的な干渉をするのはとても難しいそうだが──
「……意外とすんなり出来てますね」
そうなのだ。
自分でもビックリするぐらいこの訓練は簡単過ぎる。
むしろこの訓練、本当に意味があるのかと疑ってしまうぐらいには。
僕達の様子に気付いたリンスリットさんが中断して僕の前に置かれた鍋をしばらく観察する。やがて、何かに気付いたようにぽつりと呟く。
「魔力の質が違うかも知れません」
「魔力の質、ですか?」
「えぇ。もしかしたらカオルさんの魔力は私達の魔力より密度が濃いかも知れません」
「密度が濃い……」
つまり、こういうことだろうか。
僕と魔術師が同じ魔力量を消費して全く同じ魔術を使ったとする。
もしここに物理法則が絡めばこの条件で威力の優劣が決まるのは速度と重量になる。
魔力に重量という概念があるか分からない。
だけど速さがそのまま威力に繋がるのは間違いないと思う。
そしてリンスリットさんの話から推理するところ、魔力には魔力としての重量があるのだろう。
それが物理法則に縛られたものとは限らないけど。
(僕が異世界人だから? それとも【水精霊王の加護】持ちだから?)
……分からない。
元々頭を使うのは得意じゃない僕だ。
どれだけ考えても正解に辿り付けない。
だけど、正解に辿り付けないならそれはそれでいい。
チート主人公みたいにオールラウンダー型じゃない僕は出来ることを伸ばして足りないところは誰かに補ってもらうやり方を取ればいい。
そんな感じで午前中はひたすら魔力制御の訓練を積み重ねて、午後は弓の練習と夕飯の獲物を狩りに森へ。
何処かの狩猟生活じゃないけど、随分と板に付いてきた。
狩りのやり方は実に単純だ。クローディアちゃんが獲物を探して僕が弓で射る。
そして体力・瞬発力にモノを言わせてクローディアちゃんが手傷を負った獲物を追い詰める。
バルドと二人で冒険していた頃と比べればずっと楽だ。
エリザベスさんとの訓練の成果もあって、一番成長を見せているのは間違いなくクローディアちゃんだ。
だからこそ、藤堂さんがネガティブ思考の螺旋にどっぷり嵌まって色々面倒なことにならないか心配だけど、これはどうすることもできない。
女子高生のカウンセリングを、普通の男の子にできる道理はないから。
そんな感じで数日が過ぎていき──
僕達は妖精の迷宮と化した廃坑へやって来た。




