村でゆっくりした結果がこれだよ!
もっと改行増やした方が読者としては読みやすいのかなと思いつつ、気持ち少し改行を増やしてみた。
それとも地の文減らした方がいいのかな? そんな試行錯誤の中のお話。
その報せを聞いたのは村に戻った直後のことだった。
チャラカ峠にはぐれ飛竜を確認。現在、チャラカ峠は緊急封鎖。通行再開の目処は立ってない。驚異が立ち去るまで、チャラカ峠は全面封鎖する──と。
「はぐれ飛竜と言えばこの世に存在する魔物の中じゃトップクラスに強いッスよ」
「あぁ、そう言えばギルドの資料室にもそんなこと書いてあったね」
飛竜種の強みは何と言っても飛行能力にある。高高度から速度を付けての突進とブレスを織り交ぜた波状攻撃。高さの有利は語るまでもない。スピードの付いた突進は飛竜の質量と相まって大岩程度なら粉微塵にできるほどの衝撃を生み出す。
体内に備えられた火炎袋を活性化させて吐き出すブレス攻撃は広範囲に渡って大地に降り注ぐ。全ての種族と比べて地上の王者は吸血鬼に対して、空の王者は一考の余地もなく飛竜──即ちドラゴンに軍配が上がる。
学者達の間でもドラゴンと吸血鬼が真っ向からぶつかったらどっちが強いのか、未だに議論が続いているとか。
「はぐれ飛竜がチャラカに来たのは巣作りの為って言われてるみたい」
情報収集を担当していた藤堂さんが冷静に……と言うより自分を冷静にする為に淡々とした口調で答える。
「領主様と褐色族の見解は戦力を備えての討伐。だけど相応の戦力と平坦を確保しなきゃいけないみたい。領主様は最短で一ヶ月かかるって言ってた」
「最短で一ヶ月か……」
それなりに長いこと足止めを喰らうことになるけど今回の場合、偶然とは言え村で足を止めたのが幸いしたと前向きに捉えよう。予定通り出立していれば高い確率ではぐれ飛竜とかち合っていたに違いない。
……幸いにして僕のパーティーメンバーにはバトルマニアがいない。いいことだ。
取り敢えずその日は【無限収納】の中にあったシチューの残りを皆で分けてどうしようか答えの出ない議論を交わしてそのままお開きになった。
……と言っても僕とバルドは種馬としての仕事があるんだけどね。
「兄貴も役得だって割りきればいいんスよ」
「うーん……」
本番行為に至ってないからそこまで気持ちが沸いてこない……というか未だに抵抗があるんだよね。やっぱり心の何処かで未だに恐怖が根を張っているからかな?
克服の糸口が見えないまま、今夜も教会にお邪魔する。と言っても素直に種馬になる訳じゃない。
「こんばんわ、カオルさん」
今日はマリエッタさんの他にエリザベスさん、リンスリットさんも一緒にいる。ラノベやPCゲームなら即座にハーレム突入なんだろうなーと、何処か他人事のように考えながら【無限収納】から灯りの為に蝋燭と燭台を出す。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。……でも、カオルさんが歴史に興味を持つなんて意外です」
そう──今夜僕がここに訪れた理由は歴史の勉強の為。学校に通っていた頃も歴史の授業は真面目に聞いていたし、分からないところや知りたい事はネットを使って調べたりするぐらいには好きだ。
今夜は記念すべき第一回の講義──なんだけど……。
「あの、マリエッタさん?」
「はい。何でしょう」
「…………」
なんて指摘すればいいんだ?
別に下着姿とかそういうあからさまな格好ではない。ないが……マリエッタさんが着ている修道服が昨日に比べて小さい。
豊かな胸がぎゅう~っと押し上げられたそれは見事な乳袋を形成しているだけじゃない。谷間に目を向ければそれは見事なデルタゾーンが服の隙間から顔を覗かせている。
修道服が小さいということもあって、全体的に身体に張り付いている感じがある。そのせいでお尻のラインがくっきりと浮かび上がっている。程よく丸みを帯びたそれは生で見るよりもエロい。きっと服の上からだから想像力を刺激するんだ。
(て、駄目だ駄目だ、思考が逸れている……っ!)
いくらトラウマ持ちとはいえ僕とて興味があるんだ。二人きりで、僕の事情をある程度汲み取っているマリエッタさん相手なら見て楽しむぐらいはするかも知れないけど、今はエリザベスさんとリンスリットさんが居る訳で──
「カオルさん、マリーのこと見過ぎです」
「やっぱりカオルさんも男なんですね」
はい、バッチリ見咎められました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
気を取り直して講義は始まった。
テーブルに四人で座り、燭台の灯りに照らされる三人の女性と僕。教師役のマリエッタさんは教科書代わりの資料を手に取りながら講義する。
「初代教祖様であられるジャンヌ様は、元々神殿で司教を務めていた御方でした」
講義の出だしから驚くような事実が出て来たけど反応して話を止めるのも悪いので神妙に頷くだけにする。
「教祖ジャンヌ……当時は司教ですが、そのジャンヌ様のライバルとも言うべき存在であられるアリーゼ司教とはどうにも馬が合わないようでした」
教祖のジャンヌ──フルネームはジャンヌ・フォン・ダルクと言うらしい。どっかで聞いた名前だ──とライバルのアリーゼ司教は当時、大陸中を跋扈していた魔族との全面戦争で最前線に立ち、勇敢に戦いついには魔族達を辺境の地へ追いやったという。
辺境の地。或いは魔境とも、最果ての地とも、終焉の地とも言われる未開の地域。草木が育たず、湧き水もなく、精霊の恩恵もない、文字通り不毛の大地。何処までも続く荒野と天まで聳え立つ大峰が連なった山脈。
辺境の地は地続きではあるものの、境界線は未だに過去の戦争の傷跡とも言うべきか、空間の一部が異界化しているせいでよほどの実力者でなければ立ち入ることができない。元より近づく物好きもいないので国も基本放置しているのが現状らしい。
「アリーゼ司教はどのような人物ですか?」
「過去の戦争においてジャンヌ様と同様、英雄であられると同時に神殿の創立者と言われています」
「そして、今日の世界観の原因となった人とも言われています」
彼女の過去に何があったのか──そこまで詳しいことは分からない。神殿の公式発表をそのまま鵜呑みにすれば尽力を注いで平和をもたらしたにも関わらず、男の傭兵、ないし冒険者達に手酷い仕打ちをされたからだと言う。
……うん、それ絶対嘘だね。でもそんな嘘でも信じちゃうんだ、神殿関係者の人は。
「勿論、私達は信じていませんけどね」
何処か不機嫌そうにアリーゼ司教を批判したのはリンスリットさん。思えばこの人達、僕が男だって知っても嫌悪感を出さなかったな。
「この教会に残されたジャンヌ様の手記から分析しますと、元々アリーゼは野心家だったことが窺えます。神殿の記録では男子は聖女を裏切った大罪人として語り継がれていますがジャンヌ様の手記にはアリーゼに利用されて、切り捨てられた挙げ句、仕事を奪うような圧政を敷いたのが原因で暴動を起こし、それを口実に彼等を迫害したと推測できます」
「人口問題はどうやって解決するつもりだったんだろう?」
僕としては純粋に感じたことをそのまま疑問として口にしただけに過ぎない。だけど三人とも、凄く不快な顔をして、唸るように言葉を絞り出した。
「地方に点在する農村、或いは侵略戦争を仕掛けて属国にした国の人間にノルマを課して行為を義務化させるんです……」
「………………」
これには流石の僕も絶句する。かなりオブラートに包んだ言い方をしているけど、そういうこと、なんだろう。
「カオルさんはご存知なかったのですか? 誰でも知っていることですよ?」
「うん。僕は小さな島国出身だから大陸の常識には疎いんだ」
……うん、嘘は吐いてない。大陸の人から見れば日本は小さな島国という認識だ。だから嘘じゃない。真実のみで誤魔化している。
そのことを考えると藤堂さん、よく奴隷落ちで済んだな。クローディアちゃんは多分、年齢的な意味で助かったんだと思うけど。
「そして、神殿創立者のアリーゼですが……」
意味ありげに一呼吸おき、マリエッタさんが口を開く。
「ジャンヌ様と同様、神族の血を引いてます。なので今も存命してます」
「えっ? 神族?」
何それ? ギルドの資料室にもそんな情報なかったけど。
「これは神殿でも極一部の人間しか知られていない事実です。私達は教会の人間ということでジャンヌ様が残した手記や資料を閲覧するのに事欠かなかったのでそういう事情にも精通しています」
「もっとも、過去の神殿とのいざこざで教会の力なんてないも同然ですけどね」
リンスリットさんが言うには現代における教会は草の根活動も同然らしい。教会……と言っても神様を信仰しているのではなく聖女ジャンヌが残した御書(当時の弟子や信徒相手に認めた手紙や指導を纏めた書物)を元に研鑽する日々。
聖女ジャンヌもまた、神族の血をひいた存在ではあったものの、アリーゼ派との権力争いに敗れてその力を大きく弱体化させてしまい、何処とも分からぬ地に封印されたとか。
そこまで仲が悪かったなら殺されても不思議ではないけど、創立者の力を持ってしても封印に持っていくのが精一杯だったらしい。
「神族は、神の血をその身に宿しているから神族って言うんですか?」
「はい。正確に言えば神と人、或いは亜人の合いの子のことを指します。現在も少数ならが神族の子は存在しますが血が薄まっている影響か、本家ほどの力はないと言われてます」
なるほど。純粋に神の血だけを引いているなら普通に神様って呼べばいいけど、神の血に少しだけ不純物が混じっているから差別化を図って神族と呼んでいるのか。
「聖女ジャンヌとアリーゼが対立した原因は?」
「魔術が原因です」
魔術が原因……その言葉で僕は本能的に次に飛び出てくる言葉を理解した。
「神殿の……それは熱心な活動のせいで魔術は女性のみが使える神聖な御業とされていますが、それは根も葉もない嘘という訳でもありません」
「女性しか使えないのは神から直接加護を授かることで会得できる【古代精霊魔術】だけよ」
エリザベスさんがそう教えてくれる。神様から貰った力……ということは藤堂さんが持っている【古代精霊魔術】は勿論、僕の【無限収納】のような、所謂チート能力ってやっぱり文字通り、神様からの恩恵なんだろう。
「現在、普及している魔術はジャンヌ様が【古代精霊魔術】を使いやすいように改良したものです。【古代精霊魔術】はともかく、普通の魔術を習得するのに性別は関係ありません」
「大勢の人間が力を持つのは危険だ。特に権力欲・自己顕示欲の強い男が魔術を覚えればその欲望が肥大化して大変なのことになる。それを危惧して当時の人達はこんな嘘を吐いたのでしょう」
リンスリットさんの言葉に僕は無言で頷く。どの世界でも考えることってやっぱり同じなんだね。
単純に効率面から考えれば能力主義にして性別や身分に囚われない絶対評価で判断するシステムを導入すればいい。だけど既存のやり方を壊して新しいやり方を取り入れるのは簡単な話じゃない。例えそれが優れているやり方であったとしても。
(ワンマン経営みたいなものかな。比べるのがちょっとあれだけど)
自分の力で会社を興して社長として指揮を執る人間に良く見られる傾向だ。国全体にそういう考え方が広がっているから悪い見本のワンマンとは違うけど……敢えて言うなら因習かな。人間らしいと言えばらしいけど。
その後の講義は現状を含めて今の教会に至るまでの歴史をつらつらと説明された。
神殿との軋轢。
その過程で起きた教徒狩り。
国家権力を後ろ盾にして更に教会の活動を制限。
結果、今のような草の根活動に落ち着いている。
カンドラでは見られなかったけど、王都のスラム街では教会関係者が炊き出しをしたり格安で治癒魔術を施している。暴動の抑止力に繋がっているという理由で黙認はされているものの、神殿の目が光っているので余計なことは出来ない。
「何て言うか、人間って権力持つと本当駄目になるね」
講義終了後、マリエッタさんの寝室でベッドに腰掛けながら今日のことを振り返る。エリザベスさんとリンスリットさんは精神的な面で遠慮した。女の子相手に空気を読めるほど器用じゃないから【心理学】を使って判断したけどね。
僕の呟きにマリエッタさんはそっと微笑み、白魚のような指をごく自然に絡めてくる。
……やっぱり、修道女にしては男慣れしている。いくら外から種を受け入れる為とはいえ、普通は最低限の誘惑しかしないんじゃないだろうか?
「カオルさんはこれからどうするおつもりですか?」
「これから……」
そう。僕達は事実上、この村に長期滞在しなければならない。路銀も無限にある訳じゃない。食料だって何処かで補充しなければならない。自給自足が当然の村の財政状況を考えれば負担を強いることは心が痛む。
「最短で一ヶ月と言われてますが、私は軍隊が派遣されるまで相応の時間が掛かると思っております」
「どうして? だってチャラカ峠は流通ルートではないんですか?」
「通行税の面で言えば、チャラカ峠を通るのは理に適っています。あそこは人の手では簡単に整備できない地質に加えて高低差の激しい地形、馬車一台が辛うじて通れる細い道がある上に凶暴な魔物が多数生息してます。そういった理由で通過するだけなら税金は取られないのです。……ですが、常闇の森を通過するのであれば話は別です」
常闇の森。それはチャラカ峠を通過せずに王都を目指すことの出来る唯一の道。但しそこは褐色族の縄張りとなっている。そしてエルビスト王国が保持する国軍で褐色族に勝つのはかなり難しいそうだ。
森を焼き払うのは論外。森から流れてくる川そのものがカンドラでは貴重な水源となっている。何より悪戯に水を汚れば水精霊の怒りを買ってしまう。
純粋に魔術のみで戦うならば長耳族に一日の長があるが、それでも他種族と比較すれば上位に食い込めるおどの実力者揃いに加えて長耳族にはない強靱な肉体を持つ。
高水準の魔術と強い肉体を持った彼等は独自の剣術・魔剣技を編み出した。サブカルチャー慣れしている僕からすれば某大作RPGに登場する魔法剣士を真っ先に思い浮かべるぐらい王道だけど、魔術なら魔術師、剣術なら剣士といった風に職業別に分けるのが異世界の常識だ。
「普通に武芸と魔術、両方習った方がいいと思うけど」
「高貴な者は下々の人間ように泥臭いことはしない。そうした考えが普通です」
なら、その褐色族は賢いな。口には出さず僕は心の中だけでかの種族を評価した。
「それで、常闇の森の通行についてですが……」
そうだった。つい雑談が楽しくて本題から逸れてしまった。
「なにぶん、森自体が広く、特殊な魔術が広域に掛かっているので褐色族の案内を受けて通行しなければなりません。チャラカ峠を経由するよりも二日ほど余分に時間が掛かりますが、魔物に襲われることのない快適な旅路が約束されます。もっとも、常闇の森を通過するとなると褐色族側からの認可書と高い通行税が必要になりますが……」
うん……分かってた。話の流れでそういう事情なんじゃないかなって予想できた。
僕達の路銀は決して多いとは言えない。順調に旅が進めば少し余裕が残る程度の資金しかない。考えるまでもなく、常闇の森を通るのは却下。
残る案は危険を承知でチャラカ峠を通過するか、足止めされることを甘んじて受けるか。現実的に考えれば後者しか道は残されていないけど、うーん……。
「何とかならないかなぁ……」
「何とかなりますよ」
「えっ?」
僕としては他意のない、完全な独り言のつもりで言った言葉だったんだけど、まさか拾われるとは思ってもみなかった訳で……。
「何とかって……本当に何とかなるの?」
「はい。と言いましても、カオルさん次第……ということになりますけど」
何処か悪戯っぽい笑みを浮かべてマリエッタさんは僕を見つめる。まるで──そう、全部分かってますよと──そう言わんばかりの、少し子供っぽい笑顔。
「如何に教会の力が落ちたとは言っても、これでも魔術師、精霊憑きの端くれですカオルさんが魔術を使える人だってことぐらい分かってましたよ」
「分かっていて黙っていたんですか?」
僕の問いかけに、マリエッタさんは微笑みを返して応える。
なんで……と、思ったけど彼女には僕を貶める理由がない。脅迫して協力者の機嫌を損ねれば元も子もない、というのもあるかも知れない。真実は分からない。
「僕の力が必要なんですか?」
「はい。カオルさんが一番適任だと思います。……但し、その道は多くの人にとっては少々、非効率である上に出現場所も不特定。一度侵入したら最後、攻略するか死ぬか、そのどちらかによってのみ外へ出ることは叶いません」
「それって……」
歪曲な言い回しだけど、ピンと来た。地球にはそんな物、ある筈がない。
だけど異世界なら……いや、こんな世界ならそういうものがあっても不思議じゃない、ファンタジーの代名詞とも言える存在。
「この村から北東へ街道沿いに歩いて行ったところにある炭鉱跡。現在は悪戯好きな妖精によって様変わりしています。私達はそれを、妖精の迷宮と呼んでいます」
迷宮。
富と名声を一度に手に出来る一攫千金の代名詞。ギルドの資料室によれば基本、迷宮にハズレはない。
そんな迷宮は確認されている限り、二種類に分けられる。
一つは試練の迷宮。
こっちは魔器(魔剣とか魔導甲冑とかそういう感じの装備品)が己を使うのに相応しい主を探す為に作られた代物。魔器の強さ・能力によって迷宮の難易度は大きく変わるが、魔器ともなれば末端価格で金貨一○○枚は下らない。当然、魔物も居るので命懸けだ。
もう一つは妖精の迷宮。
魔剣の迷宮と違い、こっちは妖精の暇潰しで作られる物。妖精は精霊と同じ、基本的に寿命という概念がないので暇を持て余している。だから力を持った妖精が迷宮を人が集まりそうな場所、時には街中に作ったりする。はた迷惑な話だ。
魔器の迷宮のように明確な恩賞がある訳ではない。その代わり、攻略者には迷宮の主に直接謁見する権利を得られ、望みを叶えて貰える──と、言われている。
何故断定ではなく、疑問系なのか。その答えはマリエッタさんが教えてくれた。
「カオルさんに聞かれたのでお答えしましたが正直、お薦めはしかねます。なにせ妖精の迷宮は最後に攻略されてから五○○余年、攻略者が一人もいないという現実です」
「………………」
現実はいつだってハードモードだ。
いつか何かの本で読んだフレーズが頭の中に浮かんだ。




