意地を張るのは十代の特権
ネトゲとラノベに浮気してました。
もうどんなノリでタイトル付けていたか忘れたよ!(血泪)
以前、誰かがこんなことを言っていた。
こんな世の中なんだ。努力したって仕方ない。もっとマシな環境になれば自分だって努力ぐらいする。動かないのは無駄だと分かってるから。
景気回復の兆しが見えない社会と数々のブラック企業。
一時の現実を忘れる為に私達は狭いコミュニティを築いた。他愛もないことで盛り上がって、幸せそうにしているカップルを見て爆発しろなんて言ったり、そうやって不平不満を吐き出すことで自分を保っていた。
けど、異世界ではそれが通用しない。
冒険者ギルドには中学生ぐらいの子がそれなりに多く通い詰めている。親は居るけど働くことを強要されているからだ。最上君の話だとこの街に住む、自分たちぐらいの年頃の子、特に男子は冒険者や港の開拓業、職人への弟子入り等で食い扶持を稼いでいるそうだ。
対する女子の仕事は、簡単に言うとインテリ系が多い。勿論、女性の冒険者もそこそこいるけど、大抵の女性は頭脳労働で生活してる。序でに言うと給金も肉体労働者よりいいそうだ。
それはまぁ、どうでもいい。いずれ日本へ帰る身としては定職に就くのは色々不味い。
だけど──
「……っ、ぁ……はぁ……っ」
何度目になるかも分からない、魔術の不発。このまま足手纏いになる訳にはいかない。せめて自衛手段ぐらい確立しなければと一念奮起してみたまでは良かった。けど一向に私の魔術が発現する気配がない。
(あのときは上手くいったのに、どうして……ッ)
あれを成功と呼べるかどうかはさておいて、奴隷商に傭われた傭兵と対峙したときは無我夢中だった。魔術を発動させたことは覚えているけど、どうやって発動させたのか。
そもそも、この訓練にどれだけの意味がある? 手応え一つ感じることのできない、この無意味な動作に。
「……はぁー…………」
思い出したように呼吸を再開する。そして全身が汗でぐっしょり濡れていることに気付く。気持ち悪い。すぐに替えの服を……と思ったけど荷物は防犯上の理由で最上君が預かっていることを思い出す。【無限収納】は本当に便利だ。私も収納系スキルを一つぐらい取っておけば良かった。
「あの、これ……」
「うん?」
不意に、目の前に清潔なタオルが差し出された。視線を少し落とせば私と同じ奴隷(どうしても卑猥な響きに聞こえるけどそういう関係ではない)のクローディアことクロちゃんがいた。
「うん。ありがとうクロちゃん」
「いえ。あ、お水も貰ってきましたけど、どうです?」
「じゃあ、貰おうかな」
日本に居た頃は喉の渇きとは無縁だったけど異世界ではそうはいかない。欲しい時に水を飲めるのがどれだけ恵まれた環境なのか、私はこの七ヶ月で嫌と言うほど思い知った。
そう言えば海外の一部地域では硬水が主流だと、英語の先生が言ってたっけ。硬水はそのまま摂取すればそれはもう悲惨な目に遭う。本当に異世界というのは不憫だ。主に女子高生に対して優しくない。
ゴクゴクと一気飲みする。温いけど喉の渇きを癒すには充分だった。
「魔術の練習、してたんですか?」
「あー……まぁそうかな?」
何故疑問系……と、思われても仕方ない。だけど私の魔術は普通の魔術と違う。
古代精霊魔術。精霊信仰が盛んだった頃はかなりメジャーだった魔術。現代の魔術師が使うそれはかなり劣化したものなので普通に魔術と呼ばれてる。
「…………」
「……」
「……あー、えっと…………」
き、気まずい……ッ。何か共通の話題を……あぁ、そう言えばクロちゃんとまともに話すのはこれが始めてかも知れない。同じ境遇であるにも関わらずコミュニケーションを取ってないというのはあまり関心できることじゃない。こんなところで自分のコミュ障が弊害になるなんて。
「ね、ねぇクロちゃん」
「はい」
「最上君とは、上手くいってる?」
なんだこれは。これじゃあまるで彼が幼女に手を出して私がそれを容認しているような言い方じゃないか。
「あ、はい。カオル様には大変良くして頂いてます。その、毛繕いをして下さったり同じ主人と同じご飯を食べさせて頂いたり新しいお洋服を買ってくれたり……本当に感謝してます」
うっ……ある程度予想できたけどクローディアちゃん、なんて健気なの……ッ!
最上君が奴隷である彼女を奴隷として扱わないのは単純にそういう文化に馴染みがないから自分の常識で接しているだけ。だけどクロちゃんを初めとする奴隷にはそれがとても奇異な物に見える。だからちょっとしたことでも大袈裟に感謝してしまう……そんなところかしら。
だけど──饒舌に話していたクロちゃんの表情に陰りが浮かぶ。
「でも、カオル様は私に手を出さないんです」
「へっ? なんで?」
言ってる意味が全然分からないんだけど?
クロちゃんだって女の子でしょ? 花も恥じらう乙女だよ? 年齢はともかく合意の上で致したならまだしも、そんなお金で買った女の子に無理矢理迫るのは許せることじゃない。もしそうなら私が絶対許さない。
「やっぱり私には魅力がないんでしょうか……。トウドー様と違って胸もないし……」
「いやいやそんなことないって! クロちゃんはとっても可愛いよ! ほら、耳とかふさふさした毛並みとかこのすっぽり腕の中に収まるサイズとか!」
「でも、男の人が女性の奴隷を買うのはそういうものだってお姉さんが言ってました」
「お姉さん? クロちゃんにはお姉さんが居たの?」
「あっ、いえ違います。同じ奴隷で年上の人が居たので……」
わたわたと手を振って否定する。
ここから先はクロちゃんから聞いた話だけど、奴隷というのは主人の役に立ってこそ存在価値のあるものらしい。躾けの為に軽い暴力を振るう程度は許されても国家の財産である以上、殺すことは許されない。今持っている奴隷に不都合が生じた場合は奴隷商に売ればいい。クロちゃんが奴隷となった経緯は省くけど、女の奴隷というのは奉仕以外ではあまり役に立たない場合が多い。高級奴隷のような技能を持つ人ならまだしも、男女を問わず奴隷となった人の出自の大半が農村部であるからだ。
クロちゃんは最上君がそういうことを目当てで買ったものだと思っている。だけど一向に手を出す気配がないのは売ることを考えてるから。純血なら高値で売れるし情も薄い。つまり、クロちゃんはいつ易しい御主人様に見捨てられるか不安で仕方ないのだ。だから戦闘も雑用も誰よりも率先して一生懸命頑張っている。
確かに異世界の奴隷達からすれば最上君は好物件だ。人当たりがいいし、怒鳴ることもない。ちょっとしたミスなら笑って許したりフォローも入れてくれる。何より対等の存在として扱ってくれる。それを思えばなるほど、確かに奴隷の価値観が染みついたクロちゃんからすれば易しくされるのが逆に不安に繋がるという訳だ。
「最上君は、クロちゃんを捨てたりしないよ」
私の言葉でどれだけ不安を拭えるか分からない。だけどここはキチンと言うべきだ。
「最上君はスキルのせいで強くなることが出来ないけど、クロちゃんは違うよね? それってつまり、クロちゃんは最上君にはない才能を持ってるってことだよ。それにクロちゃんの御主人様はクロちゃんを簡単に捨てるような酷い人?」
「そ、そんなことないですッ。御主人様は優しい人、ですけど……」
「だったら、クロちゃんが信じてあげなきゃ最上君が可哀相だよ。それに、ほら……」
言いながら、クロちゃんの後ろを指差す。いつの間にやって来たのか、向かい側の通路から気まずそうな顔を浮かべた彼がやって来た。
「えっと、もしかして僕お邪魔だった?」
「ううん。そんなことないよ。というより最上君、練習はいいの?」
「休憩中」
休憩ですね。分かります。
「ほら最上君、クロちゃんを安心させてあげなさい」
「いや、藤堂さん。話の流れが理解できないんだけど……」
「そこはほら、勢いでしょ。それに今のクロちゃん見てもそんなことが言える?」
クロちゃんは明らかに期待した眼差しで最上君を見てる。さて、最上君は何て言うだろう。今夜ベッドとかそういう下品なこと言ったら相手が恩人でもビンタの一つは入れても許されると思う。
「あーっと……クローディアちゃん?」
「はい、カオル様」
「君が、どういう風に思っているのか僕には分からないし、クローディアちゃんも僕がどういう風に考えてるか分からないだろうから、ハッキリ言うよ。……僕には果たさなきゃならないことがある。そしてそれを達成するのには君の力が必要なんだ。君はもう替えの効くような人材じゃない。僕が思わず一緒に居て欲しいとお願いするぐらい大切な仲間であって、家族でもあるんだ。だから、その…………あー、これからも、一緒に居てくれるとありがたい、かな?」
……惜しい! なんか最後の締めで色々台無し!
だけど、うん。最上君の気持ちはしっかり伝わったようでクロちゃんは目に大粒の涙を流しながら「はい……はい……ッ」と何度も言ってるし、最上君はそんなクロちゃんの泪をハンカチで拭っている。最上君、リア充の素質アリね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それで藤堂さん、結局ここで何してたの?」
クローディアちゃんが泣き止んだところを見計らって、僕は本題に入る。元々墨がここまでやって来たのはいつまでも帰ってこないクローディアちゃんを探す為だった。だけどいざここに来てみれば何やら秘密特訓のようなことをしている彼女が居た。
「えーっと、魔術の特訓?」
魔術……そう言えば藤堂さんが持つスキルの中に【古代精霊魔術】があったっけ。現代に普及している魔術よりも遥かに強力な魔術みたいだけど……。
「危なくないの? 聞いた話だとすごく強力な魔術だって言うし、指導者も付けないで練習するのはどうかと思うけど」
「…………」
えっ、なんで黙ってそっぽ向くの? 一番大事なところだよね?
「……だって、あれだけ大口叩いて今更頭下げるなんて都合良すぎるわよ…………」
「フィアッセさんのこと言ってるの?」
こくりと頷く。エキドナさんを初め、屋敷勤めの使用人たちは魔術が使えない。魔術を使える護衛の一人も傭ってないのかという疑問が湧いてくるけどこれは単純に魔術を使える人間の絶対数が少ないことと、そういう人間の殆どがカンドラの防衛組織にヘッドハンティングされたりエカテリーナさんみたいり自立するのが大半だ。全部受け売りだけど、この世界の魔術事情は概ねこんな感じ。
厳密に言えば男でも魔術を扱う素養はあるが残念なことに強い偏見と神殿の工作によってその事実が明るみに出ることはない。
(クラミツハ様が出て来たときは聞きそびれたけど、どうしてそんな面倒なことするんだろう?)
普通に考えて魔術師の人工が増えればその分国力が増すし、技術研究においても進歩の兆しが見える。だけど神殿は男の魔術師が出現するのを良しとしていない。
……思えば異世界は妙に男に対して風当たりが強いけど、その辺が起因しているのかな?
(そういう拘りに縛られている場合じゃないと思うけど……)
ズバッと言いたいけど、それで機嫌を悪くして面倒なことになればそれはそれで大変だ。年頃の女の子との付き合い方なんて全然分からない僕では最適解を導き出すことが出来ない。だから僕はこの件については今まで通り、彼女を戦力外として扱うことにした。
「失敗して迷惑掛けるぐらいならしない方がいいよ。僕達は居候に過ぎないし」
「うっ……じゃあどうすればいいの?」
「大人しくするのが一番だと思うよ」
そう答えるとやはりというか当然というか、藤堂さんは不満そうに僕を見る。これが男だったらもっと気楽に、それこそ言いたいことをハッキリ言えるんだけど……僕って女の子が相手だと甘い……んだろうなぁ。自覚がないだけで。この点についてはバルドにも指摘されてるから。
「そ、そんなことより最上君の方は大丈夫なの? 失敗できないんでしょ?」
「あっ、うん。僕の方はどうにかなりそうだよ。楽譜読んで通しで何度か練習してみたけどそんなに難しい曲じゃなかった。後は曲に対するイメージと解釈を深めたり本番で失敗しないよう練習するぐらいかな」
僕みたいな中途半端に上手いだけの人間にやらせるのもどうかと思うけど、それについてはもう考えないことにした。代役を引き受けると決めた以上、詮無い事を言っても仕方ないしね。
クローディアちゃんも無事見つかったということで僕達は並んで演習場所まで戻る。さっきの一件でクローディアちゃんとの距離が縮まったのか、遠慮がちだけど手を繋ごうとしている。
「遠慮なんかしなくていいよ。ほら」
「あ……」
小さな掌を包み込むような握り方になったけど、それは仕方ない。だけどクローディアちゃんはそれにしっかり答えてくれて、離さないようにギュッと握ってくれる。手を繋いで気付いたことだけどクローディアちゃんの手は……有り体に言えば女の子らしさがない。藤堂さんの手を苦労知らずのお嬢様と称するなら、クローディアちゃんは過酷な運命と闘ってきた手と言うべきか。
いや、別に藤堂さんが苦労知らずという訳ではない。あくまで比喩表現としてだ。
「カオル様の手、優しいですね?」
「そう? 自分だとよく分からないけど」
何だかんだで僕の手も素振りで出来た剣ダコやあかぎれ、戦いの中で出来た擦り傷に切り傷ですっかり冒険者らしい手になった。それでも不思議とこういう手を見せても誰も何も違和感を覚えないのはきっと世の女の子の中にもこういう手を持った娘がそれなりに居るってことなんだろう。
大部屋に戻るとバルドが退屈そうに待っていて、エキドナさんは僕達を一瞥してすぐ視線を外す。
「羽目を外しすぎないように。失敗は許されないんだから」
「はい」
その後、三時間ほど練習してエキドナさんから解散のお許しが出た。ステータス画面に表示された時計は午後六時過ぎ。この世界にも時計はあるが大雑把な時間しか分からないのでこういう機能は本当にありがたい。
「はぁ~……疲れた」
ばふんっ、と音を立てて用意された部屋のベッドに身体を投げ出す。慣れてないから長時間のレッスンは厳しい。このまま意識を手放して朝まで……いや、こんな時間に寝ても中途半端な時間に起きてしまう。そうなればお風呂に入れない。だけど一日ぐらい身体を洗わない日があっても男なら特に気にすることじゃないけど、女の子もいるからその辺は気をつけなきゃいけないし、うーん……。
(使用人にお湯だけ用意してもらってタオルで拭こうかなぁ……)
正直言うと今の僕は眠気が勝りつつある。うん、もうそれでいいかも知れない。さぁ寝よう今すぐ寝よう──と、決意を固めた矢先のことだ。ノック音が聞こえたのは。
空気を読まないのは誰だ……と、やや攻撃的な思いを胸に抱きながら重たい身体を起こしてドアを開けるとフィアッセさんが立っていた。
「…………着替えて」
「着替え? ……あぁこの格好?」
どうしていきなり顔を赤らめて視線を逸らしたのか。理由は僕の服装にあった。
寝る前だったということで僕はかなりラフな格好をしてる。タンクトップにトランクス一枚。寝間着は長袖タイプなので着てない。寒くなったら着るかも知れないけどこの時期は寝間着がなくても普通に過ごせる。序でに言うと異世界では寝間着は貴族が身につけるものだという認識が強い。だから平民は男女問わずかなり際どい格好で寝ることが多い。バルドに至ってはパンツ一丁だし。
仕方なくフィアッセさんの言う通り着替えて改めて中へ招き入れる。あのままの格好で良かったのにと思ったけど、異性と真面目な話(?)をするなら服装には気を遣うべきだ。正直、面倒臭いとは思うけど仕方ない。
椅子を勧めて【無限収納】からお茶会セットを用意する。指をちょちょいと動かすとあら不思議。一瞬で湯気の立つ紅茶と暇を見つけて作った手作りクッキーが出て来た。
因みにティーセットも食器もお菓子の材料も全てお嬢様からの提供。おまけの報酬ということでそのまま貰って以来、就寝前のお茶会を楽しむ。懐に少し余裕がある時はブランデーを入れて楽しむ。
……日本で生活してた頃は絶対考えられないほど優雅な一時だ。もっとも、娯楽らしい娯楽がないこんな世界じゃ趣味なんて自然と限られてくる。
「……【アイテムボックス】が使えるのね」
「そんなところ。お酒少し入ってるけど大丈夫?」
「平気」
短く答えて、フィアッセさんは一口啜る。美味しいとも、不味いとも言わない。何を言うべきか考えている。そんな印象を受ける。
僕も適当にお茶を啜りながらフィアッセさんを観察する。そして改めて思う。外見に関しては本当に似ているということを。
髪の色、長さ、双眸異色、身体の線、凹凸のない胸──いや、何も言うまい。一瞬目を光らせて僕を睨み付けられた……ような気がした。気がしただけで、僕の被害妄想かも知れない。
「…………ねぇ、なんでこんなこと受けたの?」
ぽつりと、前触れもなくフィアッセさんが呟く。自分の気持ちを吐露するかのように。
「あなたがこんなこと受ける必要なんてない。危ない橋渡った挙げ句に悪戯に混乱を招くだけ。私の方がずっと適任よ」
……あぁ、なるほど。そういうことね。
エカテリーナさんにくってかかっていた時、何となくそうじゃないかと思ってたけど彼女は嫉妬しているんだ。確かにこんな、訳も分からない人間がいきなり現れて主役の座を引き摺り落とされたら聞き分けの良い子でも納得できない。
しかもフィアッセさんは僕と同じ歳か、年下だ。多感な年頃の女子にこの仕打ちは納得できない。例えそこに正当な理由があっても、理路整然と話しても、正々堂々正面から正論を唱えて諭しても、嫉妬に振り回された状態では焼け石に水、火に油を注ぐようなものだ。
(エキドナさんやエカテリーナさんじゃ話にならないから僕に文句を言いに来たのか)
さて。どうしたものか。フィアッセさんは関係者だから事情を話せばエキドナさんは……多分納得してくれる。エキドナさんが納得するだけで彼女は納得しない。堂々巡りだ。
相手の考えは……多分だけど僕が説得されてやっぱり無理ですと言えば向こうが折れる。筋書きはこんなところかな。思春期真っ直中(?)の女子らしいと言えばらしいけど、だからと言って僕に当たるのはどうだろう。言わないけどさ。
と、なると次は巫女としての格を見せる。だけど僕は精霊を使役したりすることができない。受信は出来ても送信ができないメールボックスだ。スキルを見せれば違う反応が見られるかも知れない、けど……。
(僕ぐらいの歳の女の子ってすぐ癇癪起こすからなぁ……)
全ての女子がそうとは言わない。だけど、今ぐらいの女の子って良くも悪くも感情が露わになりやすい。楽しいことを全力で表現したり、嬉しいことには思い切り笑う。だけど理不尽なことには身体全体を使って怒って相手の話を聞いてるフリをして自分の気持ちをぶつける。僕が思い描く年頃の女子は概ねそんな感じだ。
藤堂さんみたいな娘もいるから全てがそうとは言わない。だけど、今の僕ではこの価値観を変えることが出来ない。中学時代に起きたあの事件……男子だけでなく少数ながら女子も参加していたことも、こうした価値観を植え付けた原因になってる。
「有り体に言うと脅迫されてるんだ」
結局、僕は普通に答えることにした。勿論、真実全てを話すつもりはないけど。
「弱味を握られたなじゃなくて、権力を使われて迫られたんだ。小市民なら誰でも従うより他ないでしょう? 必要ならエキドナさんに確認するといいよ。実際、僕は誘拐されたしね」
脅迫についてはあながち間違いとは言えない。何しろいきなり誘拐されたからね。例えそれがフィアッセと勘違いした結果だとしてもエキドナさんは空気の読める人だ。このぐらいのアドリブには合わせられる……筈。
「そんなの、無理だって言えばいいじゃない」
「男と違って女は魔術が使えるし社会的地位も高いからね。貴族や商人ならともかく、何の権力のない人間の言い分なんて聞き入れて貰えないよ。付け加えると僕はFランク止まりの劣等冒険者だから逆らうなんて真似、出来る筈もないさ。相手がどう思っているか、そこは問題じゃない。力のある人間が、弱者に対して強権を行使して迫ったという事実が、僕にとっては恐ろしい。だから逆らうことなんて出来ない。もしこの状況を打破したいというなら、それはもうフィアッセさんがどうにかするしかないよ」
「…………」
ぶすっと口をへの字にしながら押し黙る。きっと彼女は『そんなに言うならお前がどうにかすればいい。まっ、出来ないだろうけどね』と挑発されたと思ってる。
僕自身、挑発するつもりで言ったつもりはない。せいぜい権力に弱い小市民を演じた、ぐらいの認識だ。本当なら貴女が巫女としての能力を失ったせいで僕がこんなことをしなければならなくなった、と言いたいところだが多感な年頃である彼女にそんな理屈が通じるなんて思わないので僕が妥協することにした。
「……じゃあ、勝負して」
「勝負?」
この流れで……と、思わなくもないけど巫女として厳しい修行を経た自分の方が優れていることを証明したいんだろう。突っぱねたところでゴネて面倒になるのは嫌だし……どっちにしろ受ける以外の選択肢はないと思う、けど──
「勝負って、どうやって勝負するの? 聞いてるかどうか分からないけど、僕がやるのはピアノ演奏だよ?」
「精霊を奉納するのは演奏や舞台公演だけじゃないわ。季節の節目に精霊に捧げる料理がある。これは別に節目である必要もないからそれで勝負よ」
……えーっと、それって精霊様が実際に食べる料理を作れってこと?
うん。精霊の味覚を知らない僕が断然不利だ。と言っても彼女がこんな風になった原因は相手側にあることだし、僕は僕で適当に相手して向こうに解決して貰うのが無難かな。
「いいよ。それで勝負場所は?」




