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人違いアゲイン

本当はもっと早く更新する予定だったんだけど、ROが忙しかったんです。

経験値増加期間被せるな! お陰でガッツリ狩りしちゃったじゃないか!

 スキル商人を護衛しながらの旅は想像していたものよりずっと安全なものだった。

 何一つ苦労することなくカンドラへ辿り着いた僕達だけど、これはクローディアちゃんの索敵能力があってこそのこと。聴力が人間より優れているクローディアちゃんは数百メートル離れた位置からでも魔物の足音を聞き分けることが出来る。


 街道の存在も一役買っている。街道があれば人は自然とそれを利用する。理由がない限り、魔物は人が多い場所へは近寄らない。この辺は野生動物と同じだなって思った。


 尤も、ラスティアには街道と呼べる道が驚くほど少ない。街道を作るということは整備された道を作ること。それはイコール敵国の進軍を手助けするものだという考えが根付いているせいで街道を作ることに対して消極的なんだとか。


 ローマだと街道整備は国の最重要課題だったけど、これは戦国時代の日本と同じ考え方だな……。


 そんな感想を抱きながら見上げるカンドラの外壁。たった数日離れただけなのに酷く懐かしく感じる。半年も拠点にしていればやっぱり愛着も湧いてくる。


 スキル商人を無事届けた後、僕は久しぶりに路上ライブをすることにした。そのままギルドへ報告をするのもいいけど、緊急の依頼でもないし何曲か歌ってからでも充分だろうと思ったからだ。


「おっ? 姉ちゃん久しぶりだね!」

「おーい、みんなー! カオルちゃんが自慢の美声を披露してくれるぞー!」

「お姉様、お会いしたかったですわッ!」

「……人気者だね、最上君」

「素直に喜べないけど、人気がないよりはいいと思うよ」


 人気がなければ収入に影響が出る。

 収入に影響が出れば生活費が危ない。


 どんな形であれ、僕の歌が街の住人たちに受け入れられたのは良いことだ。そもそも路上ライブを始めた切っ掛けはなるべく荒事から実を遠ざける為の自衛手段だった訳で。


「最上君、私も歌った方がいい?」

「いいけど藤堂さん、歌上手い方?」

「カラオケなら大体八十点をキープできるぐらいには」


 採点する機械が信用できるかどうかっていう疑問はあるけど、取り敢えず歌わせてみてダメならダメで考えればいいか。それにクローディアちゃんも藤堂さんも、何だかんだで見た目はかなり良い方だからそこに居るだけで客引きになる。


 ……僕と違って本物の女の子だしね!

 そんな訳で本日の路上ライブは急遽、藤堂さんとデュエットすることにした。簡単に打ち合わせをして歌う曲を決める。カラオケが好きだというだけあって、流行の曲から往年のヒットソングまで一通り網羅していた。


 ……でも一番好きな歌が夜●車よ急げって、女の子っぽくないよね? いや僕もその歌は好きだし、歌詞覚えていたから歌ったけどね。


 続けて歌ったのはオレ●ジレ●ジの花。こっちは僕個人の趣味。彼女なんて出来たことのない独身貴族の男が歌うような歌じゃないしそれっぽく歌うのはもの凄く違和感あるけど、例によって周囲の人達には受けが良かった。


『うたごえすてき』

『いいうた……クスン』

『わたし、もういちどやりなおしてくる』

『クラミツハさまのかごをもってる』


 そして今日も僕の耳元で囁く舌っ足らずな少年少女の声は絶好調です。これはアレ? もしかして僕を持ち上げてわっしょいしてるの?


(本当、不思議な声だよね。不愉快にはならないからいいけど、どうして歌声に反応するのかな?)


 考えてみればこの声が聞こえるのは歌っている時と魔物の気配のない時間だけ。後者は外で火の番をしているとき、時々だけど囁くような声が聞こえる程度。


 ひょっとしてこの声、精霊なんじゃないかな? でも精霊は男の人には寄らないっていう話だし、うーん……。


「ようやく見つけましたよ、フィアッセ様!」

「……えっ?」


 意識が半分くらい余計な思考に奪われていたせいで、反応が遅れた。人混みを掻き分けるようにして現れた黒服の女性集団。


 地球で言うところの黒のスーツとネクタイ、白のシャツを着込んだその姿はビジネスマンに見えなくもない。腰に佩いた銀色の剣がなければ。


「さぁフィアッセ様、覚悟を決めて下さい。あなたの舞台公演を心待ちにしている人や精霊は沢山いるのですから!」

「あの、僕は──」

「言い訳など聞きたくありません。お覚悟を」


 え、何で問答無用で連行されそうになってるの?

 収賄も横領もしてないのにこの仕打ちはあんまりだよ!


「ちょっと待って下さい! 彼はあなた達が探している人とは別人──」

「【深き眠りへ誘う霧(シュラーフェン)】」


 短い言葉と共に辺りを覆う白い霧。勢いを削がれるようにがくりと膝を付く藤堂さん。その隙を突くようにバルドが得物に手を伸ばす。あぁ、なんで刃傷沙汰に運ぼうとするのかな。話し合わなきゃますますややこしるなるじゃないか。


「低レベルの傭兵崩れが勝てるとでも?」


 既に抜剣されたフランベルジュを前に、スーツを着たお姉さんは冷徹にバルドを睥睨していた。右腕を軽く振るう。フランベルジュの刃を棒でも掴むような気軽さで握りしめる。「……うそ?」


 到底、信じられない光景だ。刃の付いた武器を素手で掴むなんて人間業じゃない。これもスキルの効果?


 などと考えている間にバルドをノックアウトしてみせたお姉さん。凄いよ、バルドが素手で腹バン一発で沈んだよ。


「御主人様を連れていかないで下さいッ!」


 残ったクローディアちゃんが飛び掛かる。これも素手で簡単に躱されると腕を掴んで一本背負いを極める。


「……ッ」


 一瞬で理性のリミットが振り切れるのを感じた。こんな小さな子供相手にここまで容赦しないとなると、温厚な僕でも切れる。


 肩口から体当たりして突き飛ばそうとする。ゴツンと、巨大な鉄塊にぶつかったような手応えと共に衝撃がそのまま自分の身体に帰ってきた。ピクリとも動かないなんて、地面に根を生やしているんじゃないかと疑ってしまうぐらい直立不動の姿勢を維持してる。


「無駄な抵抗はお止め下さい。……【深き眠りへ誘う霧(シュラーフェン)】」


 藤堂さんの意識を奪ったあの謎攻撃だ。白い霧は当然のように僕の身体を包み込む。そして──弾かれた。


魔術無効化レジストされた? ……いえ、魔術無効化レジストというよりは途中で掻き消されたような手応え?」


 なんかぶつぶつ言っているけど今ので冷静になった。藤堂さんとバルドには悪いけどクローディアちゃんだけ回収してまずはこの場を離れて──


「まぁいいでしょう。それならそれで物理的に動けなくすれば済む話です。ということでフィアッセ様、少々痛い目に遭いますがご容赦下さい」


 次の瞬間、僕の鳩尾に鋭い衝撃が走った。堪らず膝を付いて身体をくの字に曲げる。


 一撃。たった一撃で宣言通り、僕の身体は行動の自由を奪われた。訪れるべくして訪れた結果を確認したお姉さんは苦もなく片腕で僕を担ぎ上げてその場から立ち去って行く。


 あぁ、頭の中でドナドナが聞こえる……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ど、どうしよう……何だか良く分からないうちに最上君が誘拐されちゃった。

 バルド君とクローディアちゃんに起こされて状況を説明された私は困惑している。最上君、本当トラブルに愛されて──違う違う、今はそんなことを考えている場合じゃない。


 まずは考える。どうして最上君は拉致同然で連れ去られていったのか。

 それはフィアッセなる人に見間違われたから。

 そのフィアッセとは何者か?


「バルド君、フィアッセについて何か知ってる?」

「俺が知ってる訳ねぇだろ」


 この人、なんで最上君以外にはぶっきらぼうなんだろう。あともしかして私、バルド君に嫌われてる?


 ……うん、普通に考えたら嫌われてるよね。

 このメンバーの中で誰が一番役立たずか。そんなのは自分が一番よく分かっている。そんな私にできることは頭を使うことだけ。だからまずは冷静になろう、うん。


「ま、まずはフィアッセっていう人の情報収集をしてみない? ほら、最上君ってフィアッセのそっくりさんだから、その人がどんな人で何処にいるのかが分かれば最上君の行方も分かると思うんだけど……」

「わ、分かりました……」

「なら、手分けして探した方がいい。六刻の鐘が鳴った頃に冒険者ギルドに集合だ」


 六刻の鐘って何?

 そう尋ねるよりも早く、二人は行動に出た。即断即決とはまさにこのことだ。一つのことを決断するのに躊躇してしまう私とは大違いだ。さっきの私の決意は何処行った……。


 それでもいつまでもバカみたいに突っ立っている訳にもいかない。バルド君とクローディアちゃんとは違う方向へ歩き出す。だけど……その、恥ずかしながら私は人見知りが強い。初対面の人に話しかけるとかハードルが高すぎる。だけど情報収集しないことには何も始まらない。


 だけど情報収集の基本って何? 闇雲に聞き込み? 酒場の冒険者?

 RPGの定番に則ればそうだ。だけど私には土地勘がない。知らない人と話すのは怖いけど、ここで頑張らなきゃ本当の足手纏いになってしまう。


「あの、済みません。最──フィアッセという人を知ってますか?」


 意を決して私は第一村人に声を掛ける。ありったけの勇気を振り絞って。だけどその人は露骨に嫌そうな顔をする。


「悪いな、そんなのは知らない」


 突き放すように告げて、自分の仕事に戻っていく第一村人。いきなり私の心を折ってくるとか、異世界ラスティアはなんて厳しい世界なんだろう。


 いや、この程度でめげちゃ駄目だ私。続けて二人目、三人目と勇気を振り絞って聞き込みをする。だけどその全てが不発に終わった。まるで私の努力を嘲笑うかのように。


「はぁ……」


 聞き込み開始から体感時間で約一時間。すっかり気力が萎えた私はリストラされたサラリーマンよろしく、公園のベンチにへたり込んでいる。自分でもこんなにメンタル弱いとは思わなかった。


(私、何も変わってない……)


 そうだ。私は日本に居た頃から少しも変わっていない。

 臆病で、引っ込み思案で、そして他人が怖くて……。

 思い出すのは小学五年生の頃。


 当時の私は今ほど消極的な女の子じゃなかった。親が社長ということで周りの娘たちは何かと私に媚びを売ろうとあれこれしていた。


 男子はまだ良かった。社長令嬢おじょうさまというブランドが目当てだったし、そういうのに興味がある年頃だから仕方ないと今なら言える。だけど女子は最悪だった。彼女たちは男子たちから善意で私を守るように見せかけて、私の持つお金(正確には親の金だけど当時の子たちにはそれを理解するだけの教養はなかった)が目当てだった。事の顛末は──わざわざ説明するまでもない。


 以来、私は他人となるべく関わらないように生きてきた。リアルの人間関係なんて上辺だけのものでいい。だから私は文字だけでやり取りするネットの世界に没頭した。


 ネットは付き合いが楽だ。煩わしい人間関係もないし、嫌な相手と会わずに済む。そういう、顔も知らない友達とよく話し合ったことと言えば自分が異世界に行ったらどうするかという、ありきたりな話題だ。


 異世界にやってきた私達は私達なりに精一杯頑張って、その努力が報われて人々から賞賛される──そんな夢を抱いていた。


 自分が努力できないのは環境が悪いから。環境が変わればきっと頑張れる。ゼロからスタートできるんだ。


 根拠もなく、漠然とそう思っていた私の自信は、異世界ラスティアに来て木っ端微塵に砕かれた。


 凄いチート能力はある。ハッキリ言えばこんな凄い能力を持っている人は早々いない。

 だけど現実は違った。どんなに凄い力を持っていても、それは使わなければ宝の持ち腐れだ。どんなに凄いスキルを手に入れたところで、魔物と戦う力が身につく筈がない。


 魔物と戦う力も、大きな決断を下すことも、レベルやスキルでは決して身につけることのできないファクターだ。


 そういう意味では最上君は本当に凄い。彼は【無成長】という足枷を付けられているにも関わらず、自分より強い魔物を相手に立ち向かって見せた。一歩でも間違えれば死ぬかも知れないのに。


 なんて勇気のある行動だろう。未だに魔物と対峙すると足が竦んでもしまう臆病な私とは大違いだ。これじゃあバルド君に嫌われるのも無理はない。


(こうして自己嫌悪してる時間が勿体ないってのは分かっているんだけど……)


 人は他人と比べて、自分が相手より劣っている部分があるとそこを強く意識してしまう。劣等感というのはそういうものだ。


 比べたところで自分がその人になれる訳がない。頭では理解しているつもりだ。こんなこと、時間の無駄だと。これは休憩しているだけだ。ちょっと歩き疲れたからこうして腰掛けているだけ。


 そうやってしばらくぼんやり過ごしていた私だったけどいい加減、捜索を再開しなければと、ようやく決意を固めて立ち上がる。広場に並んでいた屋台はいつの間にか閉店作業に入っている。まだ夕方前なのに。


 辛うじて空いている屋台に駆け込んで串焼きを注文すると、鉢巻きを巻いたおじさんは私の顔を見て小さく驚いた。


「うん? 良く見たら昼間歌ってた娘じゃねぇか」

「あ、はい。そうです」


 完全に不意打ちだ。普通の人なら何でもないやり取りでも、私にとっては充分不意打ちだ。人と話をするときはどうしても心の準備をしないとどもってしまう。


「えっと、串焼きを下さい」

「ハイヨ! 姉ちゃんも可愛いからサービスしとくよ! ……はいこれ、そこで待ってる兄ちゃんと一緒に食べてきな!」

「あの……一人分なんですけど」

「一人分? なんだ、俺はてっきりそこに座ってる兄ちゃんに頼まれて二人分買うモンだとばかり思ってたんだが……」

「えっ?」


 屋台のおじさんの言葉に反応して、後ろを向いた私。そして驚いた。世の中にはそっくりさんが三人いるなんて迷信があるけど、流石異世界だ。


 肩まで伸びた、シャンプーのCMに出てくるモデルもかくやと言わんばかりのさらさらした髪。海のように深い青の瞳と翡翠を讃える碧の瞳。


 ぼんやりしているような、心がふわふわした印象を与える顔立ち。最上君そっくりだけど女の私には分かった。あれは最上君じゃない、彼女フィアッセだ。


 身体の骨格が微妙に違う。女性特有の細い線に微かに膨らんだ胸部。男物の私服とズボンとロングブーツを着用している。


「ちょっといいかしら?」


 なるべく相手を威嚇しないように呼び掛ける。フィアッセさんはキョトンとした顔を浮かべてから抱きかかえている紙袋に入った串焼きを食い入るように見つめてくる。


「あなた──」

「あの、それ分けて貰えませんか!?」


 ガシッと両肩を捕まれる。よく見れば衣服は所々土埃が目立つ。心なしか顔も窶れているように見えなくもない。この娘、一体どんな生活をしているのかちょっと気になった。


 浮浪者にしては身綺麗だし、そこはかとなく品が漂っているし、お付きの人っぽい人が探していたから……もしかして家出貴族?


「数日前まで働いていた宿屋の人からは役立たずは要らないって追い出されて、身に付けていたモノを売り払ってどうにか食いつないでたけどあっという間にそれも底を付いちゃって、もう水だけで生活しているようなものだし、その……お願いします! どうか私に食料を恵んで下さい!」


 よっぽど追い詰められていたのか、フィアッセさんは土下座する勢いで懇願しながらしがみついてきた。あぁ、この娘無計画に家出した娘だ。中学時代、私も似たようなことをしたから間違いない。私は一週間で捕まったけど。


「その前に教えて頂戴。あなた、フィアッセさんよね?」

「……ッ。ナ、ナンノコトデスカ?」


 急に言葉遣いがぎこちなくなるなんて……これ以上分かり易い嘘はない。


「もう一度訊くわ。フィアッセさんよね?」

「うぅ……御免なさい!」

「えっ?」


 私の間抜けな声と彼女が行動を起こすのはほぼ同時だった。

 勢いよく紙袋を奪い取るとそのままダッシュで逃げようとする。そして何もないところで躓いてこけた。えっ、何コレ? 新手のコント?


 一拍遅れて泥棒さんに追いついた私は逃げられないようにしっかりと抑え込む。折角買った串焼きは中身をぶちまけて、芳醇な香りを撒き散らし野良犬の嗅覚を刺激する。


 抑え込んだ拍子にタレが服に付いたけど気にしている場合じゃない。


「悪いけど、一緒に来て貰うわよ。あなたのせいで私の友達が大変な目に遭っているから」

次回予告


「私と人生交換する権利をやろう」

「兄貴が欲しいなら自分を倒してからだ!」

「実家へ帰ります」


大体こんなお話。

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