商人と出会いました
前話で次回予告書くの忘れて大慌てで次回予告を追加してきました。
舞台女優編はできる限り次回予告入れようと思ってたのに。
昼前に目が覚めた。
昨晩、怪我をした場所はズキズキと痛むけれど、何かに集中していれば気にならない程度の痛みで済んでいる。グッと腕を伸ばして見る。軽い、突き刺さるような痛みが走るけど、それだけだ。
「……うん。問題なさそう」
とは言っても、傷口から雑菌が入って風邪引いたり破傷風になったりする恐れもある。怪我や体調管理には充分気をつける必要がある。
クローディアちゃんと藤堂さんは寝ている。奴隷という身分のせいか、床で。怪我をしているとは言え、女の人を床下で寝かせるのは外聞が悪い。例え異世界ではそれが常識だとしても僕個人がそれを受け入れるつもりはない。
さて。今日はどうするか。クローディアちゃんは昨日の魔獣化の影響でまだ起きないことはスキルの説明欄に書いてあった。藤堂さんは単純に夜遅くまで働いていたからこの時間まで寝ているものと推測。
昨日も思ったことだけど、僕が防衛に参加する義務はない。追加の物資が必要そうな雰囲気はないし、帰ったところで文句は言われない筈。
助けたい気持ちはある。だけど僕には故郷へ帰るという目的がある。徒に時間を浪費するのは良くない。
「自分も賛成ッス」
食事がてら、バルドに話してみたところ予想通りの解答が帰ってきた。うん、普通はそうだよね。仕事が終わった後はドライに対応する。冒険者の基本……らしい。
「さっき、ウルゲンに訊いたッスけど自分らはもう帰っていいみたいッス。防衛の方も物資と冒険者たちが来たお陰でどうにかなりそうだって言ってたッスから」
どうにかなるんだ。ウルゲンさんがそういうなら、きっとそうなんだろう。
「それより問題は国境越えッスよ」
「だよねー……」
目の前の問題を突き付けられて机に突っ伏したくなる。
この半年間、僕は無意味にカンドラで過ごしていた訳じゃない。エルビスト王国から出国するにはバンクス男爵が発行する通行証か、冒険者ランクがCランク以上であることが条件だと聞かされている。
通行証の発行は何もバンクス男爵と顔見知りになる必要はない。そもそも発行そのものは中級区にある役所で行われている。但し、こちらは身元の査定と発行料として一人金貨五枚が必要。今にして思うと奴隷なんか買わなければ通行証、買えたかも知れない。身元の問題をパスできれば、の話だけど。
(冒険者ランクの方は無理だろうなー)
一応、代案としてCランク冒険者のパーティーに事情を説明して出国までの間だけ一緒に居させて貰うという手もあるけど、二ランク以上離れたパーティーには入れないので却下。じゃあ地道にランクアップしていけばいいじゃないかと思うが、これもそうはいかない。
ランクアップの査定は依頼の成功回数とレベルが関係してくる。そして僕には【無成長】という極悪非道極まるスキルがある。……後は、分かるよね?
仮に【無成長】なんて最悪なスキルがなかったとしても僕達がCランクへ昇格するのは難しい。
DランクとCランク。
この違いは討伐依頼を見ればすぐに分かる。というのも、Cランクレベルの魔物ともなれば魔術を使うのが当たり前。物理攻撃だけで倒すのは困難。大抵の冒険者……というか魔術が使えない男連中はDランク以下をうろうろして日銭を稼ぐのが普通だ。
あぁ、どうして僕はお嬢様と別れるときこの辺の事情を説明しなかったんだ。我ながら頭の弱さに泣けてくる。
「また地道に稼ぐしかないかなぁ……」
パッと思い付く限り、僕と藤堂さんがが路上ライブなり大道芸なりやって、その間にバルドとクローディアちゃんが冒険者として活動する。これが一番金銭効率が良い気がする。藤堂さんはこの際、戦力としてカウントしない。トラウマなんてのは所詮、個人の問題だ。現に僕だって未だにトラウマを引き摺っているんだ。そう簡単に払拭できるものではないことは、僕が身を以て知っている。
足踏みしている自覚はある。だけど手段が限られている以上はどうしようもない。何より僕は異世界に来てはっちゃけるような人間じゃない。オタクを自認する訳じゃないけど、パソコンやテレビを初めとした娯楽、二十四時間営業のコンビニやスーパーのない生活というのはなかなか堪える。あといい加減ちゃんとしたお風呂に入りたい。
風呂……そう、当面の問題はお風呂だ。藤堂さんとクローディアちゃんに限ってそんなことはないと思うけど、やっぱり主力のメンタルケアは大事だ。僕も入りたいという気持ちもあるけど、風呂はやっぱり入りたい。日本人だもん、しょうがないよね。
(お風呂と言っても、ドラム缶風呂に近いものになるかもだけどね……)
それでもないよりはずっとマシだ。よし、カンドラへ帰ったらお風呂対策を練ろう。
「ご飯食べたらウルゲンさんに挨拶して帰ろう。僕の性格を思うと長居すればするほど情が移っちゃうからね」
「それがいいッス」
バルドの言葉を受けて、急いでご飯を食べる。食器を返却して村の外に居た藤堂さんとウルゲンさん(ついでに探してもいないリシャルド)と合流して出立する旨を伝える。追加の依頼がないか確認を取ったところ、充分間に合ってるそうだ。
「嗚呼、なんと残酷な運命……これは僕とカオル君の仲を引き裂こうとする神の悪戯……ッ! カオル君、今からでも遅くはありません、僕の専属冒険者になって下さい。今以上に待遇が良くなることは間違いありません。具体的にはお金の心配なんてしない快適な暮らしを約束します」
なんかホモがそんなことを言ってたような気もしたけど無視した。
帰りは馬車ではなく徒歩を選んだ。理由は単純明快。もう二度と、あの馬車良いを味わいたくないから。嫌悪感と吐き気の波状攻撃を受け続けるぐらいなら、僕は迷わず徒歩を選ぶ。というか旅の途中、耐えきれず何度か吐いた。
そういう訳で帰りは行きの倍以上の時間を掛けてカンドラへ向かった。道中、パーティーの試運転を兼ねて何度か魔物とエンカウントしたけどこの辺の魔物じゃ話にならなかったけど、分かったこともあった。
結論から言えば僕達のパーティーは火力が高い。魔術師のいるパーティーと比べれば劣るかも知れないけど、とにかく前衛が優秀だ。
俊敏な動きで敵を翻弄して、一突きで魔物の喉や目を穿つクローディアちゃん。彼女が被弾したところを一度も見たことがない。盗賊に襲われたときなんか強振した大剣の切っ先に乗るなんて漫画っぽい離れ業もやって見せた。大剣の上に乗るところなんて始めて見たよ。
クローディアちゃんの影に隠れがちだけどバルドも充分優秀だ。盾こそ持っていないが防衛役として活躍できる相棒はサブアタッカーとしての役目も果たす。クローディアちゃんが手数と速さで相手を翻弄するならバルドは一撃に重きを置くパワーファイター。僕と出会ったときはとにかく腕力と体力で攻め続けていたけど、最近はそれだけじゃ通じないと感覚で理解したのか考えるようになった。弓使いである僕のことも考えて立ち回りを意識するうちにそういう結論に辿り着いたのかも知れない。
僕は僕で相変わらず後ろからチクチク矢を撃つだけの簡単なお仕事。だけど……うん、正直アズールボウの貫通力は半端じゃない。風属性の魔術付与がされているって話だけど、多分これは高位の魔術付与だよね? 貴族が使うような武器だから。
そんな訳で僕達の旅路は安全とはいかなくても馬車酔いに苛まれることもなく順風満帆に進んでいた。
「うん。こういうイベントって異世界ならではだよね」
「最上君、別に無理に助けに入らなくても……」
藤堂さん、それが出来ないから頭を抱えているんだよ。次に生まれ変わったら僕は見て見ぬ振りができる人になりたい。
……と、現実逃避はこの辺にして目の前の問題に目を向けよう。
トレンチコート風の、ボロボロのローブを纏った魔術師と中肉中背の男が二人。こっちは刃毀れが目立つ剣で武装している。そして彼等に追われ、偶然通りかかった僕達に庇護を求めてきた謎の商人。
(傭兵崩れの盗賊、かな?)
半年前の戦争の傷跡は意外と深い。職を失った元騎士や傭兵が流れてそのままなし崩しに盗賊に身を落とす。異世界では珍しくない話だ。
そんなことしないで真面目に働けばいい──そう考える人もいる。だけど事はそう単純な話じゃない。文無しだと結界都市には入れないし、仕事を探すにしても大きな街に入ることができなければ話にならない。何より傭兵稼業で生活してきた人間はそれ以外の生き方を知らない。となれば、平和な時代で彼等が生きるには略奪しかない。
見逃して貰えるなら見逃して欲しい。勿論、そうなる筈がないことは百も承知している。
仮に……相手が気の迷いで僕達を見逃したとしても他の誰かが被害に遭う。結局のところ、盗賊と出会った時点で僕達は命のやり取りを強いられることになる。
「やりきれないなぁ……」
白状するならやりたくない。相手がどうしようもないクズ野郎ならともかく、向こうは生活の為に襲っている。僕が育った世界と違い、ここには自分から死にたがる奇特な人間なんていない。
善人も、悪人も、魔物も、全てが生きる為に全力で足掻いている。ただ、彼等のやり方はちょっと過激で世間には受け入れられないだけのこと。
「お前等、後ろの弓使いを先に潰しな!」
ザッと後ろに下がると同時に魔術師が指示を出す。開戦の合図だ。
矢を番えたまま、近くの男に狙いを定めて、充分に引き付けて、クローディアちゃんは開幕と同時に疾駆する。バルドは商人と藤堂さんの護衛の為、不参加。
彼我の距離が一メートルまで差し迫る。剣の射程に入ると同時に慌てず後退して男の側面に回り込む。
番えていた矢を解き放つ。ギリギリまで引き付けたのは男二人を射線上に誘導する為だ。
吸い込まれるように胸部を穿ち、反対側から抜ける。尚も速度が衰えず飛来する矢。向こうからすれば完全に想定外の出来事だ。普通に考えれば、人間一人を貫通することはあっても、速度を落とすことなく飛んでくるところを想像できる訳がない。使い手が僕みたいなひ弱そうな男が放った矢なら特に。
だけど男は驚異的な反射神経……いや、直感と言うべきか。相方越しに飛んできた矢を剣で防いで見せた。剣の腹で弾くように矢をいなす。だけどその技術は完璧ではなく、矢を防いだ代償に真ん中からぽっきり折れた。
二の矢を構える余裕はない。男は即座に予備の剣を抜いて迫っている。意表を突くべく距離を詰めながら思考のみで【無限収納】を操作。アズールボウを収納する代わりにボウガンを出す。僕のことを完全に遠距離専門と評価していた男は突然の接近に僅かに戸惑いを見せる。腰に剣の一つでも差していれば或いは冷静に対処してきたかも知れないけど。
肩口から体当たりするように接触。同時にボウガンを押しつけて引き金を引き絞る。くぐもった声を漏らしながらよろめく。ボウガンを手放して代わりにナイフを取り出す。服を引っ張って押し倒す。体重を乗せながら刃を寝かせて左胸に突き立てる。
嫌な感触が手に伝わる。
不愉快なものが身体にこびり付く。
肺が腐りそうな異臭が鼻を刺激する。
それら不快なモノを理性で蓋をして転がるように離れる。背中を微かに剣が掠める。ヤケクソ気味にナイフを投擲。簡単に弾かれたけど立ち上がる時間ぐらいは稼げた。
男の後ろではクローディアちゃんが魔術師の攻撃を躱していた。小刻みにステップを踏んで飛んでくる石礫を避けて、着実に距離を詰めている。
(僕も負けていられない)
残った男に向けてナイフを投擲と同時に【無限収納】から予備のボウガンを出す。投擲で相手の行動を制限して、本命で仕留める。ありふれた定石だが、有効な手段だ。
狙いを付けなくても外さない距離なので照準と同時にトリガーを引く。解き放たれた矢は太股に突き刺さり機動力を奪う。
足を奪われた相手にわざわざ近づく道理はない。距離を取りながらアズールボウを出して、急所へ撃ち込む。遊びを一切孕まない無慈悲な猛攻の前に、名前も知らない男は沈んだ。
「いやぁ、お陰で助かりました。見たところ腕の立つ冒険者とお見受け致しますが、よろしければパーティー名を伺っても宜しいですか?」
助けられた謎の商人は営業スマイルを浮かべながら僕へと近寄ってくる。
額に浮かぶ脂汗と弛んだお腹。人の好い笑顔を浮かべているものの、僕の一挙手一投足に注視している。
少しでもこの人の本質を見抜こうと観察に徹していると、漠然とした情報が頭に流れ込んできた。語彙力が貧弱な僕の言葉では詳しく説明するのは難しい。
敢えて言葉にするならこれは感覚で理解するモノかも知れない。
好きか、嫌いか。
危険か、安全か。
安心か、不安か。
不信か、信頼か。
委細を省いて流れてくる結果。これは……もしかして感情ではないか?
流れて来たモノに対する嫌悪感はない。自分の知る感情と感性に基づいて手探りでそれを分析する。
(えっと、敵意は感じられない。嫉妬や羨望とも違う。感謝に近いけど尊敬には当てはまらない。一番近いのはやっぱり感謝かな?)
情報が少なくて判断が付かないが、僕はこれを本能的に信頼できる情報だと確信を持っていた。何故──と、問われると返答に窮するけど。
「あぁ、これは失礼。申し遅れました。私、スキル商人をしておりますユーマと申します」
ぺこりと頭を下げながら自己紹介をするユーマさん。流れてくる情報が薄くなるのを感じる。情報が閲覧できないようにフィルターをかけられたような手応えだ。
いや、それより今、この人は何て言った?
「スキル、商人……?」
「えっと、民間向けのスキルを販売している商人のことです。お金に余裕のある男の冒険者さんはスキル商人から戦闘スキルを買う場合があります」
僕の様子に気付いたクローディアちゃんが助け船を出してくれた。
というかスキルって買えるものなの? 目から鱗だよ。
「スキル商人をご存知ないのですか? 冒険者なら武具屋と同じくらい重宝される存在なのですが」
「僕が住んでいた地域にはスキルを販売している商人がいませんでしたので」
咄嗟に出て来た言い訳にしてはなかなかだと思う。ウルゲンさんの話だと冒険者の半数以上は田舎から出て来た子だったりする。だからこの説明で間違いはない。
「なるほど、冒険者になってから日が浅いということですか。それなら納得できます。……どうでしょう、助けて貰った御礼を兼ねて一つスキルを買いませんか? 流石に戦闘用スキルともなれば値も張る上においそれと売ることは躊躇われますが、マイナースキルでしたら伝授いたしますぞ」
「マイナースキル……」
どうしよう……また知らない単語が出て来た。僕なりに情報収集しているつもりだけど全然結果が伴ってない──と、一人でテンパッて居たらクローディアちゃんが『日常生活で使用するスキルのことです』とこっそり耳打ちしてくれた。
クローディアちゃんは出来る娘だ。今日のご飯は好きなものを作ってあげよう。
「マイナースキルのリストを見せてもらっても構いませんか?」
「えぇ勿論です。こちらがそのリストになります」
にこやかに答えながらユーマさんは羊皮紙を手渡してきた。
薪に火を付ける為の【着火】にコップ一杯の水を出す【湧水】は勿論、汚れを落とす【浄化・小】なんてものもある。
(意外と高い……のかな?)
スキルの隣に書かれた数字……恐らく販売価格だろう。先に挙げた【着火】一つ取っても銀貨五十枚。【湧水】に至っては銀貨八十枚だ。マイナースキルでこれだと戦闘用スキルは金貨が余裕で飛ぶ価格になるのか。
(これじゃあ一般家庭にまで浸透しないのも無理ないか)
この世界で最低限の食事で一日を過ごすとするなら十ゴールド、それなりの食事なら三十ゴールドあればいい。それより上のグレードになると桁が増える。実際には宿泊日などの出費が出るが食費だけに絞ればそんなものだ。
「クローディアちゃん、何か取りたいスキルある?」
「えっと……できれば【湧水】を覚えたいのですが……」
あぁ、なるほど。クローディアちゃんは良いとこに気付くね。
僕もバルドも、もうすっかり慣れたもので火打ち石があれば火を起こせるし、そうでなくても【無限収納】には火種が入っている。だからクローディアちゃんの選択は正しい。
多少熟考はしたものの、クローディアちゃんの希望通り【湧水】を選ぶことにした。コップ一杯の水でもないよりはあった方がいいからね。
「お嬢さん、見たところスキルについてあまり詳しくないようですが、宜しければ説明させて頂きますが?」
「お願いします」
ギルドが解放している図書館ではスキルの種類を調べることができても基礎知識はなかったからこの申し出はありがたい。
「では、僭越ながら説明させて頂きましょう。スキルとは男子が魔術を扱う魔術師、つまり女子に対抗するべく生み出した技術です。昨今では女性の方もスキルを使用する傾向があり差が広がる一方です。……まぁスキルが魔術に劣っているのはある意味仕方のないことなんですが」
「そうなの?」
正直、良くも悪くもスキルの恩恵を一身に受けている僕としてはスキルが魔術に劣っているとは思えないんだけど……。
「そうです。例えば筋力を増幅させる技があるとしましょう。スキルで筋力を強化した場合、定められた数値しか上昇しません。熟練度を上げれば上昇値が増えますがそれにも限界があります。一方で、魔術で筋力を増やす場合は当人の実力によって上昇値が異なります。例えば筋力百の人にこれを施せば十、二百なら二十といった具合です。また、多くのアクティブスキルには冷却時間というものが存在します。多くのスキルはこの冷却時間のせいで連続して使用することが叶いませんが魔術にはその制限がありません。他にも魔術がスキルより優れている点は多々ありますが、概ねこんな感じだと理解して頂ければ結構です」
「冷却時間……」
そう言えばクローディアちゃんの【魔獣化】にもそんな説明があったっけ。
……あれ? でもそれだと僕が使っている【無限収納】はどうなんだろう? 何も考えずに使い続けているけど不都合が起きたことなんて一度もないし。
「その……【アイテムボックス】などはどうなんですか?」
素直に【無限収納】と言っていいか迷ったけど認知度としてはこちらの方が高いので下位互換に当たるスキルで尋ねてみた。
「おや、お嬢さん。もしや【アイテムボックス】をお持ちで?」
「いえ。知り合いに使い手がいるので……」
「そうですか。先程、多くのスキルには冷却時間が存在すると仰いましたが、全てのスキルがそうではありません。実際、【攻撃力上昇】のようなパッシブスキルの多くは常時発動型なので問題ありません。そしてもう一つ、冷却時間の影響を受けない一部のスキル……世間一般で言うところのレアスキル、もしくはユニークスキルと呼ばれるものです。先程の【アイテムボックス】の場合ですとレアスキルに分類されますね。因みにこれらのスキルは何も冷却時間がないからそう呼ばれているだけではありません。中には上級魔術に匹敵する威力を持つ代わりに長い冷却時間を必要とするスキルもあれば、連続使用を前提としたスキルも御座います」
そうか。別に冷却時間のないスキルがあっても不思議じゃないんだ。
考えてみればバルドも攻撃スキル【流牙】を滅多に使わない。あまり気にしてなかったけど冷却時間の関係で使いたくても使えなかった、ということか。
「因みに、お嬢さんが選んだ【湧水】の冷却時間ですが凡そ三十分となっております」
「三十分も!?」
長い、長すぎるよ! 二杯目の水飲むのに三十分待ちとか普通じゃないよ!
「何を言うのですか。戦闘スキルともなれば下級スキルでも一時間は使えないスキルもありますよ?」
どうやら一般に出回っているスキルは僕が思っている以上に使い勝手が悪いらしい。魔術とスキルの格差社会を見せつけられた。
次回予告
「冒険者やめてミュージカルスターになろうかな」
「バルド君、私と組んで美人局やらない?」
「日本人怖いです……」
大体こんなお話。




