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笑顔は最大の武器

 四人で寝ることになった。

 いや、この言い方だと語弊がある。正確には同じ部屋で四人バラバラで寝る、と言った方が正しい。


 ベッドに寝るのは女性陣。男性陣は寝袋を敷いて床で寝る。クローディアちゃんは奴隷だからと抗議したけど、最終的には戦闘面で沢山活躍してくれればいいと、やや強引に押し切ってベッドに寝かせ付けた。


 同じ部屋に女性が二人。年頃の男の子ならやっぱりドキドキするのかな……て、これじゃ僕が女の子に興味ないみたいな言い方だね。


「最上君、起きてる?」

「うん?」


 寝袋の中であれこれ下らないことを考えていると、藤堂さんが話しかけてきた。腕時計を見ると午後九時。異世界の世間なら消灯時間と言ってもいい。


「眠れない?」

「うん。不安もあるけど色々……」

「日本ならドラマが始まる時間だしね」


 そう言えばこっち来る前に見ていたドラマ、最終回はどうなったんだろう。ヒロインが主人公を振って、傷心中の主人公を見てチャンスだと踏んだお嬢様が後ろから抱きしめて次回へ続くになって、その後異世界に飛ばされて……あっ、考え出したら気になってきた。


 取り敢えず脳内で最終回を補完。主人公はヒロインを諦めてお嬢様とハッピーエンド。これがいい。僕はお嬢様派だから。ドラ●エⅤで幼馴染み振ってクラスの子たちからブーイングを浴びせられた挙げ句、村八分にされたのはいい思い出。


「バルドのこと、嫌いにならないでね。口と態度は悪いけど悪い奴じゃないから」


 バルドももう少し礼儀を身に付ければ良い仕事にありつけると思うんだけど、やっぱり国民レベルで教養が低いとそれを教えるのは大変だ。


「最上君は、魔物と戦うのが怖くないの? ずっとレベル一なんだよ?」

「言うほど怖いと思ったことはない」


 強がりでも何でもない、率直な感想だしそれが自然だと思っている。ゲームの世界みたいに剣で斬られても何度も立ち上がる方がよっぽど不自然だ。


 そもそも……人が死ぬという一点においては日本でも同じだ。病気や怪我、交通事故、レアケースだけど通り魔に殺人事件、或いは天災。そうしたふとした弾みで人は簡単に死ぬ。そう考えれば魔物に襲われるのは言わば交通事故に遭うようなものだけど、対策さえ怠らなければ意外といける。大事なのは過信し過ぎないこと。


「戦闘は回数をこなすことで慣れたよ。僕にとって本当に怖いのは魔物じゃないから」

「最上君にとって怖いもの? それって何?」

「勇気を手放すこと」


 結論から言えば、そいういうことだ。

 青春を彩る恋人も、大願を成し遂げる為にも、誇らしい自分である為にも、人生に置いて勇気とは尤も重要なファクターだ。勇気がなければ何事も成し遂げることなどできない。


 勿論、勇気を出して行動を起こしても結果が伴わないことはままある。だけど、勝てそうだからやるとか、できるからやる。出来ないから、負けそうだからやらない、なんて保守的な生き方にどんな価値がある? 泣き叫んでいれば奇跡は起きるのか?


「まぁ、藤堂さんにこんなこと話しても仕方ないけどね」

「…………」

「別に責めてる訳じゃないよ。藤堂さんが勇気を持てないならそれはそれでいいし、買った以上は面倒も見る。ただ、クラスメイトとして信用はしても肩を並べる仲間としては信頼できないし、何も期待しない。厳しいことを言うけど、それが僕の藤堂さんに対する評価。これだけは絶対に譲れない。だからと言って今すぐ藤堂さんに何かを期待するようなこともないし、高望みもしないから、藤堂さんは自分のペースで今後の身の振り方について考えるといいよ」

「…………うん」


 自分の弱さを指摘されたのが堪えたのか、弱々しい返事が返ってくる。

 ……ちょっと、言い過ぎたかも知れない。


(まぁ、いざとなったら藤堂さんの就職口探してこの世界に永住、ていうのもアリかな。残るのも帰るのも自由だし)

「ところで最上君、再会してから気になってたんだけど……」

「うん」

「バルドって人、どうして最上君のこと兄貴って呼んでいるの? あれ、最上君のキャラじゃないよね?」

「あぁ、そのこと」


 正直、僕も良く分からないんだけど……。


「えっとね、出会ったのが異世界に来た翌日なんだ。丁度、森の中で血だらけのまま生き倒れていたバルドを見つけたんだ。そのまま見捨てるのもなんか気分悪いからどうにか知覚の洞窟まで引き摺って聞きかじった応急処置の知識をどうにか活かしながら治療したり兎っぽい魔物相手に命懸けの死闘を繰り広げて無理矢理食べさせたりして何日かお世話してたらいつの間にかこういう関係になった」

「そ、そう……。でも、それなら兄貴って慕われても不思議じゃないよね?」

「そう、かな? そりゃあ、感謝はされるかも知れないけど、だからって無償で用心棒みたいなことをするのは行き過ぎだと思うけど」


 助けた経緯に関して打算がなかった訳じゃない。恩を売ってそれを口実に街まで辿り付ければ儲けもの、ぐらいにしか考えてなかった。


 後でバルドから聞いた話だけど、普通生き倒れている人を見かけても救いの手を差し伸べる人はまずいないそうだ。貴族は見知らぬ振りをするし、冒険者なら盗賊の真似事とばかりに追い剥ぎする。そうでなくても魔物の胃袋に収まるしかない。本当にこの世界の人間は身内以外の人には優しくない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 早朝。宿屋の従業員に叩き起こされて半覚醒状態のまま、井戸水で洗顔して歯を磨く。低血圧の人間に早起きはなかなか辛い。半年経った今も僕たち日本人は遅寝遅起きが習慣化している。


「くぁ……おふぁよう……」

「お早う御座います、兄貴」

「おはよう御座います、カオル様」

「最上君、おはよう」


 どうやら今朝は僕が最後みたいだ。そう言えばバルドより早起きしたことなかったっけ。

 クローディアちゃんは……奴隷なら早起きして当然っていう奴隷根性?

 藤堂さんは単純に早起きが習慣化しているか緊張して早起きしたかのどっちかかな。

 同じテーブルに着くのを見計らって、人数分の珈琲をお盆に載せたエリナがやって来た。


「おはよ! 昨日の今日で一気に人数増えたね。……うん? よく見ると二人とも奴隷ね。そんなに稼ぎの良い仕事でも見つかったの?」


 奴隷って……あ、そうか。奴隷紋ドゥーレの存在か。

 この世界の奴隷とその主は手の甲に奴隷紋ドゥーレと呼ばれる紋章が浮き上がっている。どっちが主で奴隷かは紋を見れば分かるらしい。


 奴隷紋ドゥーレを隠してはいけないとか、そういう決まりはないけど、露出させておくのはやっぱり問題かな。装備揃えるついでに手袋でも買うべきかな。


「えぇ、運が良かっただけですけど」

「そうね。あなたって見た目弱そうだし稼げる冒険者特有の気概とか全然感じられないしね。バルドもそこの二人も、ちゃんとこいつの面倒見てあげてね。店の売り上げに貢献してくれてる貴重な人材だから」


 僕って、そんなに頼りない?

 いや、そう見えるのは良いことだ。不用意に注目を浴びることもないし相手の油断を誘うこともできる。場合によっては女装して人目を欺いたり……。


(いやいや! どうして女装がすらりと出てくるの僕ッ!)


 これはお嬢様の陰謀だ! メイド服なんてものを着せるから思考が乙女チックに偏ってしまうんだ!


 ……どう解釈しても完全に八つ当たりだし、止めておこう。


「おやカオルちゃん、相変わらず朝には弱いね。そんなんじゃツキが逃げちまうよ!」


 エリナさんが運んできた珈琲を啜っていると、入れ替わるように女将がやって来た。


「おや、奴隷買ったんだね。他の奴等ならアレだけどカオルちゃんなら安心だね! 最近は奴隷だからって随分酷い扱いをする冒険者が増えてね。アタシもしても見過ごせないよ」

「奴隷の扱いってやっぱり酷いんですか?」


 異世界で生活してそれなりに経つけど、奴隷が使役されている所を見たことがないので興味本位で尋ねてみる。


「そりゃ酷いさ。奴隷紋ドゥーレを刻まれた奴隷ってのは基本的に主人に対して手を挙げられないからね。それを良いことに限界まで酷使した挙げ句モノみたいな扱いをする。これは男も女も変わらないよ。その点、カオルちゃんは立派だよ。見れば分かるさ。奴隷だからと言って差別なんてしてないんだろう?」

「兄貴の懐の深さは海なんてモンじゃねぇよ。俺も見習って兄貴みたいな男になりてぇよ」


 バルド、なりたいんだったら相応の努力は必要だよ。僕だって最初からこういう人間だった訳じゃないんだから。


「それより女将さん、今日はこれからクローディアちゃんの装備を見繕うと思うんですけど何処かお勧めのお店とか知ってますか? あまり予算はありませんけど……」

「装備を揃えるなら金に糸目は付けちゃいけないけど……そうだね、この店から三軒先にある店なんかはいいと思うよ。初心者ビギナー向けってのもそうだけど武具の種類が豊富な総合店だ。まずはそこで装備を整えた方がいいね」

「ありがとう御座います。それと、今日から少し遠征して数日宿屋を空けることになりますが、できることなら部屋は取っておいてくれますか?」

「構わないさ。料金はもう貰っているからね。ただ、あんまり帰りが遅いと他の客入れることになるからその辺は頭に入れといておくれ」

「分かりました」


 その後、四人で朝食を取って朝食分の支払いを済ませて一人中級区へ向かう。バルド以下、奴隷二名は一足先に店に向かわせた。時間は有限だし、効率的に使わないとね。


「お早う御座います、ニコラスさん。早速ですが報酬を貰いに来ました」


 挨拶もそこそこににして早速本題を切り出す。今日でお嬢様のメイド(?)生活も終わりだ。ほんの数日間の出来事だったけど、僕にとっては恐ろしく長く感じられた。メイド服的な意味で。


 始めて来た時のように応接間に通されて、紅茶を啜っていると麻袋を乗せたお盆を持ったニコラスさんとお嬢様がやってきた。


「こちらが報酬の金貨四十枚です。ご確認を」


 改めて手に取ると凄いな。たった数日で金貨四十枚なんて。

 冷静に考えればこんな大金、貴族でもホイホイ用意できるような金額じゃない。ましてや騎士は貴族位としては最低位の筈。


 ……止めておこう。無粋な詮索は身を滅ぼすだけだしね。

 麻袋の中から金貨を取り出して丁寧に数える。……うん、ちゃんと金貨四十枚ある。偽物でない限りは。


「──はい、確かに金貨四十枚あります」


 報酬を確認して【無限収納(ストレージ)】に収納。これでもう僕がお嬢様と合う理由はなくなる。そう思うとやっぱり一抹の寂しさはある。


「……ねぇ、カオルちゃん」


 僕の心情を察しての発言かどうかは分からないけど、良いタイミングでお嬢様が呼び掛ける。いつもの笑顔はなりを潜め、真剣味を帯びた表情で。


「冒険者なんて危ないこと止めて私の専属使用人なるつもりはない? それなりの給金は保証するし、冒険者と違って安定した収入が得られるのがどれだけ魅力的なことか、カオルちゃんも分かって──いいえ、これはただの言い訳ね。包み隠さず言うわ。…………私は、カオルちゃんに側に居て欲しい。カオルちゃんがシーグラードに呑み込まれたとき、自分が自分でなくなるくらい、取り乱した。私の知らないところでカオルちゃんが危険な目に遭うのが怖い。カオルちゃんを自分の手で護りたい。だからお願い、どうか私に仕えて。私の剣に賭けて、あなたを護るから……」


 真っ直ぐに、一点の濁りのない眼差しを向けるお嬢様を目の当たりにして、すぐには答えが出なかった。


 言っていることは充分理解できる。僕だって安全にお金を稼げるなら迷い泣く飛び付く。少なくとも冒険者よりはずっと魅力的なのは疑いようのない事実。


 だけど──


「……御免なさい」


 それでもやっぱり、僕はこの申し出を受け入れることができない。


「自分でも魅力的な提案を突っぱねている自覚はあります。女装については……まぁ、思うところもありますけど、それでもお嬢様の話はとても魅力的です。そんな美味しい話を断ってまで僕が冒険者であり続けているのは故郷へ帰る為です」

「故郷? カオルちゃんって生まれは何処の国?」

「日本です。お嬢様にも、そして僕にも想像できないくらい遠い国です」


 異世界暮らしが良いって人もいるけど、やっぱり僕は日本がいい。少なくともこの異世界に骨を埋めるだけの未練なんてないし、生活面でも不自由だし。


「国へ帰る手掛かりを探すなら尚更私に仕えて損はないと思うわ。こう見えてその辺の貴族よりは頼りになれるだけの力はあるから」

「それを踏まえた上での拒否なんです。お嬢様からは差し出せる物があっても、僕からお嬢様に差し出せるものがない。自惚れた言い方をすれば、僕はあなたと対等でありたい。冒険者稼業は生活の為にやっていることですけど、同時に心身共に成長する為の手段だと捉えています」

「…………」


 ジッと、お嬢様が僕の顔を見つめる。時間にして五秒ぐらいだろう、ふっと柔らかな笑みを浮かべると懐から何かを取り出した。


 六角形の形をした、木製で出来たそれは三日月を背景に戦乙女の横顔が彫られた紋章。掌より一回り大きい程度のサイズなだけに、精緻を極めた細工に思わず見惚れた。


「あの、これは……?」

「バルテミー家の家紋よ。もしどうしようもなくなったとき……自分の力だけじゃどうしようもなくなったらそれを王都にある私の実家に見せるといいわ。必ず力になるから。あ、言うまでもないけど乱用は厳禁だから」

「でも──」

「私にとってカオルちゃんは始めて出会った、本気で護りたいって思える存在なの。騎士なら民の全てを護るべく剣を取るのは当たり前。……だけど、リディアが護りたいと思える存在は今まで一人もいなかった。だからお願い、私の我が儘だと思って、どうか受け取って欲しい」

「お嬢様……」


 そんな告白紛いなこと真顔で言われても困るよ!

 ど、どうすればいいんだこの場合。お嬢様が抱いている感情は親愛だと思うけど、ここまで来ると敬愛に近いよね。


 断ろうにも断り辛い雰囲気だし……えぇい、もうどうにでもなれだ!


「……お嬢様、これを」


 こういうとき、自分の処世術の低さに泣いてしまう。結局、僕ができることと言ったら贈り物に対する返礼ぐらいだ。


無限収納(ストレージ)】を操作してハンカチを取り出す。暇を持て余していたとき、【裁縫】スキルにモノを言わせて作ったハンカチの一つ。


 決して良い布で作られたものじゃない。拘りがあるとすればせいぜい、中学の修学旅行で行った姫路城の天守閣をクロス縫いで描いた程度。


「お嬢様の贈り物と比べたらあまりに貧相な代物ですけど──」

「そんなことないッ! 充分だから!」


 全力で僕の言葉を否定して、ハンカチを胸元で抱きかかえる。正直、完全に予想外のリアクションなんだけど……。


「これ、大事にするから」

「いえ、後生大事にされるようなものでは……。キチンと使ってくれた方がハンカチも喜ぶと思いますし」

「そうね……。分かったわ。大事に使わせてもらうわ。……カオルちゃん、ありがとう。今まで貰ったどんあ贈り物より嬉しいよ」


 花のような笑顔を浮かべながら御礼を言うお嬢様の姿は、きっとこの先忘れることのない、最高の笑顔だったと言える。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 お嬢様と別れを惜しむように屋敷を立ち、下級区の武具屋で合流する。女将に教えて貰った武器・防具の総合店は結構な広さがあって、剣から斧、フルプレートから革鎧に至るまで、一通りの物が揃っている。


 お店の経営とか大丈夫なのかな? 武具だけじゃ商売の限界がすぐ来ると思うけど。


「お、兄貴。報酬はバッチリ受け取りましたか?」

「うん。今後の活動資金も踏まえるなら予算は金貨二十枚。バルドも装備新調したいならこの予算から出してもいいよ」

「そうッスね。ではこの機会に自分も装備を買い換えるッス」


 言いながら、何の迷いもなく大型の剣を手に取る。刃が波のように唸っている長剣。フランベルジュっていう武器かな?


「クローディアちゃんは何を買うか決めた?」


 彼女には事前に予算のことは気にせず武器を選ぶように言い含めている。報酬が貰えるのは分かっていたことだし、武器と防具の相場も大まかだけど知っている。ついでに言うとクローディアちゃんは僕達と一歩引いた姿勢でいるからそんなに高い買い物はしないだろうと踏んでの発言だ。


「は、はいっ。……あの、これとこれとこれと……」


 躊躇いがちに欲しいものを指差していくクローディアちゃん。

 背丈に見合ったショートスピア。緊急用の武器と思われる耐久性に優れたナイフ。上革鎧に鋼鉄製の手甲と額当て。つや消し済みの黒い外套。


 総額、金貨十枚也。

 ……凄い。クローディアちゃんの買い物だけで予算の半分が飛んだ。


「あ、あの……私のお父様が装備は良いものを使えって、仰ってまして……あのっ! 私一生懸命頑張りますから、命に代えてでもカオル様のことをお守りしますから……っ」

「だ、大丈夫だってクローディアちゃん! 言い出したのは僕だからそんな泣きそうな顔しないで! ね、バルドもいいでしょ別に!?」

「兄貴……実は女に甘いンじゃないッスか?」


 それは……否定、できないかも。なんたって母子家庭だし……。


「で、兄貴の装備はどうしやす?」

「僕の? ……あぁ、確かに用意はしておいた方がいいかもね」


 現状、僕の装備は私服。革鎧ですらない。生存重視なら一も二もなく魔術付与エンチャントされたメイド服だけど、できることなら着用したくない。


 武器はともかく防具は慎重に選ぶべきだ。弓を扱うからプレートタイプの鎧は論外。動きにくいし、何より貧弱な身体には負担が大きすぎる。


 とすると、必然的に革鎧か鎖帷子になるけど、うーん……。革鎧だとやっぱり防御面に不安を覚える。鎖帷子は刺突に弱いし。


 何となく陳列棚を眺めていると一つの商品が目にとまった。リザードマンなる魔物の鱗で作られたスケイルアーマー。店員さんに断りを入れて手に取ってみる。


「へぇ……これ結構いいですね」


 触ってみた感じ、軽いし動きを妨げるような感じはない。革鎧と洋服の中間ぐらいか。


「お、姉ちゃん良い目利きしてるね。そいつは打撃に対しては弱いけど斬撃や刺突に強いんだ。魔物との戦いが多い冒険者にはうってつけなんだ」


 ……あれ? バルドがちゃんと僕のこと兄貴と呼んでいるところ見てたよね? でもここは黙っておこうかな。運が良ければサービスしてくれるかも知れないし。


「そうなんですか。それなら冒険者たちの間では大人気の商品なんじゃないですか?」

「と、思うだろう? 俺もそう思ってこれ作ったんだが……どーも最近の若いモンは鎧の方に流れちまってよぉ。そりゃあ総合的に見れば鎧の方がいいだろうけど……」


 ガシガシと頭を掻く親父店員。もう一押しすれば値引きしてくれる、かな?


「酷い冒険者ですね。そりゃ、確かに鎧と比べれば頼りないかも知れませんけど軽い上に斬撃・刺突に対して高い防御力を持つ上に洋服みたいに軽い。斥候や弓兵は勿論、剣士にとっても使い勝手が良い防具なのは間違いありません。それなのにこの防具の良さが分からないなんて……冒険者失格です」

「そうか、そうか! 嬢ちゃんは分かってくれるか! いやー、アンタ見る目があるよ!」


 ガハハハッと、心底嬉しそうに豪快な笑い声をあげる店員。ここでトドメを刺す。


「ねっ、おじさま……私、あの子の為に装備を買ってあげてお金が少し心許ないの。だから……サービスしてくれる?」


 値引きをするときは小さい子供を利用する。これ鉄則! 上目遣いなら尚良し!

 クローディアちゃんは十四歳だけど外見的には子供だからセーフってことで。


「はははっ! 褒めちぎっておいて値引き交渉か! いいぜ、あっちの嬢ちゃんの分も含めてサービスしてやるぜ! ハハハッ!」

「ありがとう御座います、おじ様!」

「…………最上君って、女扱いされるのが嫌いじゃなかったっけ?」

「俺、時々兄貴の行動に付いていけねぇときがある」


 後ろで二人が何か言ってるけど気にしない。

 相手に女装させられるのは嫌いだけど、目的の為に自分からそれっぽく振る舞うのは別。だって玩具にされる訳じゃないし、自分の為になるんだから。

次回予告


「僕、気付いたんです。本当に好きな人が誰かってこと……」

「私はあなたが好きなの! でも恥ずかしいからツンツンしちゃう!」

「兄貴は今日も平常運転ッスね」


大体こんな話。

あとドラクエ5遊ぶときは大体ビアンカ選んでます。

フローラとビアンカレベルの思い出があったら間違いなくフローラ選ぶ。最近は清純なお嬢様属性もいいかなー、なんて。

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