事件の真相と今後について
G.W.ということで三日連続更新します!
……お気に入り登録が100件越えたことでモチベーションあがったのはここだけの話。
ギルド前でウルゲンさんと別れてそのままバルドの居る宿屋へ直行する。夜の帳が降りた表通りは人なんて殆ど歩いていない。無事に帰ってきた腕時計に目を落とすとまだ午後九時を回った頃。健全な学生さんなら丁度テレビドラマを見てるかゲームしてるかパソコンやってるかのどれかだ。因みに僕は毎週この時間になれば企業の裏側を紹介する番組を見ていた。
「…………」
「……」
「………………」
そして無言のまま歩く僕達。えっと、何話せばいいのかな、これ?
というか二人の格好が色んな意味で凄い。貫頭衣だけだよ。靴すら履かせてもらえないとか本当もの扱いじゃない。
……あぁ、今更ながら自分のしたことに対する罪悪感が。日本に居るお母さん、御免なさい。少しの愛情と沢山の変態を注がれながらも立派に育ったあなたの息子は今日、ついに人身売買に手を染めてしまいました。
一人は社長令嬢のクラスメイト。
もう一人は見た目十四歳の獣人。
この状況を簡潔に説明するなら……そう、おまわりさん、こいつです──的な感じ? いや、ここは異世界だから騎士様かな?
「あ、あの……っ! やっぱり私、臭いかな?」
「……えっ?」
沈黙に耐えきれなくなった藤堂さんが話題を振ってきた──と思ったらいきなり何言い出すんだ?
「あの……もう長いことお風呂入ってないから……」
「あぁ……」
そうだよね。女の子なら気になるよね。
でも心配することないよ、藤堂さん。何故なら僕は半年間、お風呂に入ってないんだから。お嬢様の屋敷に行ったときも少量のお湯で身体を洗う湯浴みだったし、普段はお湯で湿らせたタオルで汗拭いて服をなるべく清潔に保つとかそのぐらい。
バルドも最近になってようやく身綺麗にすることの大切さを分かってくれたのか、できる限り身体を拭くようになった。そもそも男の冒険者や傭兵たちは揃って『バカは風邪なんて引かないから大丈夫』を地でいってる人達ばかりだ。
「藤堂さんには残念だけど、僕がお世話になっている宿屋は下級区最大の宿屋なんだけど、そこでもお風呂は提供されていないよ。というか公衆浴場自体、この街にはない」
「そう、なんだ……」
「あ、あのっ。私は平気ですから……っ」
クローディアちゃん、そんな健気なこと言わんといて下さい。僕の心がもの凄い勢いでジクジク痛むから。だからそんな必死な目でこっちを見ないで。悪者だって錯覚しちゃう。
そうは言っても藤堂さんとばかり話していたらクローディアちゃんがおいてきぼりになるから何か話しかけないと。
話……でも何を話せばいいんだ?
奴隷になった理由? どう考えても地雷だよね?
モフモフしてもいい? それは今言うべきことじゃない。
好きな食べ物は? ……奴隷がまともなご飯にありつける訳ないよね。
「えっと、クローディアちゃんは何かできることある?」
「あ、はい。その、私は妖狐族ですから妖術が使えます」
「ヨウジュツ……」
魔術とどう違うんだろう? いや、それはバルドと合流してからでいいか。妖術についても、今後の身の振り方についても。
「藤堂さんは? 僕は何かこっち来たとき変なスキルがいくつかあったんだけど」
「えっ? 最上君、何言ってるの?」
「何って……僕、気付いたら異世界に来ていたんだけど、藤堂さんもそうじゃないの?」
「…………」
あ、あれ? なんで僕、可哀相なものを見るような目で見られているの?
「最上君、本当に知らないの……?」
「知らないって、何が?」
溜め息一つ。そして意を決した藤堂さんの口が開かれる。
波瀾万丈の異世界ライフを送ってきた僕にとって、過去最大級の言葉が、飛び出す。
「──私達は、神様の気紛れで異世界に飛ばされたんだよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
長話になりそうなので一旦、バルドと合流して部屋に集まる。食事は【ストレージ】に突っ込んでいる料理を提供することにしたので女将さんに要らないとだけ言っておいた。
まぁ、話をする前に最低限、自己紹介をする必要はあるけどね。
「バルド。兄貴の弟分だ」
「藤堂遙花。最上君とはクラスメイトよ」
「あ、あの……御主人様に買って頂きました……クローディア、です」
やはりというか、藤堂さんには奴隷という意識はない。日本人だから当然と言えば当然かも知れない。SMプレイの一環で主人と奴隷という関係はあるけどリアル奴隷なんて日本にはいないし、当然僕もそういう扱いをするつもりはない。
……雑用ぐらいならいいよね? お金で人員を買ったと解釈すればいいんだし。
「で、兄貴。改まって大事な話ってなんスか?」
「バルドには一度話したと思うけど話してないことも話すと思うから真面目に聞いてね」
無言で頷くバルド。やっぱり僕が言い聞かせると聞き分けが良い。
「クローディアちゃん、今から話すことは絶対に人に話さないでね。無闇矢鱈に話していいことじゃないから」
「は、はいッ」
正座したまま、ピンと背筋を伸ばして答える。……今気付いたけどクローディアちゃん、当たり前のように正座してるね。正直、日本独自の文化だと思っていたんだけど……うーん、相変わらずこっちの文化は分からない。
「まず僕から話すね。……僕と藤堂さんは日本という国から来た。どのぐらい遠いとか、何処にあるのかも分からないくらい遠い国なんだ。だから僕も藤堂さんもこっちの常識には疎いところがあるから、知っていることは何でも教えて欲しい。いいね?」
「はい」
「じゃあ次、僕たちがこっちにきた経緯だけど……藤堂さん、バトンタッチ」
これは寧ろ僕向けの説明だ。藤堂さんの衝撃発言を聞くまで、僕は不幸な事故で異世界に飛ばされたものだとばかり思っていた。
でも真実は違う。神を名乗る人物の気紛れで、クラスメイトはこんな訳も分からない世界へやって来た。
「あ、うん。……えっと、私達のクラスがオリエンテーションの帰りにバスで富士の樹海付近を走っていたんだけど、そこは覚えている?」
「あぁ、ゴメン。僕バスが走ってからすぐ寝ちゃったから……」
なにせ前日の夜はほぼ徹夜で脱衣麻雀(男だけで!)してたし。起きていると絶対酔うから寝る以外に時間潰す方法なんてない。
「オリエンテーションの帰りにね、バスごと樹海に突っ込む事故が起きたの。それで少しだけパニックになったんだけど、その後急に神様の部下を名乗る人から車内放送があって現状を教えてくれた。私達は上司の気紛れで異世界に飛ばされたって。迷惑な話だよね」
……えっと、その時点で色々突っ込みたいところがあるんだけど。突っ込んでも仕方ないし、話が脱線するだけだからグッと堪えるけど。
「それで、そのまま異世界に放り込まれるかと思ったけど救済措置……て、言うのかな? 用意されたチート能力の中から自由に選んでいいって言われたから適当なものを見繕って異世界に来た。これが、私達が事故に巻き込まれた真実」
「えっ? じゃあ藤堂さん、レアスキルとか沢山持ってるの?」
何それすっごくズルイ! 僕なんて【無成長】なんて核爆弾並みの地雷スキル押しつけられたっていうのに!
……選択の自由があるとか羨ましい。
「あ、ううん。私が持っているレアスキルは三つだけ。沢山取ることもできるけど、あんまり沢山取っちゃうと難しい場所に飛ばされるって言われたから……」
藤堂さんの隣に座っているバルドが『レアスキル三つとか、ありえねぇ……』と戦慄している。こっちの人達にとってはレアスキル一つだけでも凄いことだってこと、藤堂さんは理解……してなさそうだなぁ。
「どんなスキルか見せてもらってもいい?」
ダメ元で訊いてみたらあっさりステータスを開示してくれた。
名前:藤堂遙花 ♀
職業:奴隷
レベル:1
称号:学生 臆病者
特殊:なし
・アクティブスキル
【古代精霊魔術Lv1】
・パッシブスキル
【無限の魔力】【エナジードレイン】
「…………なにこれ?」
一分間たっぷりと、ステータス画面を凝視した僕の口から出た言葉がそれだ。
魔力が無限? 古代精霊魔術? エナジードレイン? 名前をタッチして効果を調べてみたけどチートという枠組みを超えているとしか思えない。圧倒的な格差社会を見せつけられた気分だ。
にも関わらずスキルレベルが一だって? 藤堂さん、この半年間本当に何してたの?
「藤堂さん、捕まる要素ないよね? なんで捕まったの?」
「だっ、だってその……怖かった、から……」
詳しく話を聞いてみたところ、藤堂さんが始めて遭遇した魔物は一軒家ほどの大きさのある魔物で、それがトラウマとなって戦闘そのものを忌避するようになった──というのが僕の見立て。
うん。そりゃいきなりでっかい魔物に襲われたら怖いよね。男の子でも怖いよ。
「んだよ、ただの甘ちゃんじゃねーか」
もっとも、そう思えるのは僕だけのようで、バルドは違うみたいだ。この場合、若干の嫉妬も混じっているかも知れないけど、頭ごなしにバルドに肯定することも否定することも出来ない。
「バルド、そういう言い方は良くないよ」
トラウマがどれだけ厄介なのかは僕自身がよく分かっている。バルドはそういうのがないから想像できないのは仕方ないことかも知れないけど……。
「まぁ、兄貴はそういう人間ッスからアレですけど、俺らと行動するとすりゃ間違いなく戦闘に巻き込まれるワケッスから。自分はやる気さえ出してくれりゃ文句ねぇッスけどその辺はハッキリさせた方がいいってのが自分の考えッス」
「それを含めた上での話し合いだよ。……それで、藤堂さんはやる気はあるの? やる気さえ出してくれれば僕も文句はないし、出来ないことは要求しない。それが嫌なら雑用全般に回すけど──あぁそうだ。先に僕のステータス見せた方がいいね」
説明しながら指先を操作してステータス画面を開く。ただし、同じレベル一でも僕と藤堂さんの間には決定的な違いがある。そのことを正しく理解した彼女は哀れみを含んだ目で僕を見る。
正直、そういう視線は嫌いなんだけど……。
「最上君……苦労してきたんだね」
「わ、私は別にそういうの、気にしませんからッ」
……クローディアちゃんはどうしてさっきからずっとアピールしてるんだろう? やっぱり捨てられるのが怖いとか?
「まぁ、そういう訳だから。僕も一応、戦闘には参加するけど過度な期待はしないでね。藤堂さんにも色々あるだろうから実際に戦闘に参加するかどうかは良く考えて結論出してね。……じゃあ次、クローディアちゃんね。まずはステータスを開いて」
「は、はいッ」
言われるがまま、クローディアちゃんも藤堂さんと同様にステータス画面を開く。何度見ても違和感しかない光景だ。実はゲームの世界ってオチじゃないよね?
名前:クローディア・ノーム ♀
職業:奴隷
レベル:3
称号:純血なるノーム族
特殊:先祖還り
・アクティブスキル
【妖術Lv5】【魔獣化Lv1】【裁縫Lv5】【料理Lv2】【槍術Lv1】
・パッシブスキル
【魔力回復】【聴覚探知】【嗅覚探知】【気配探知】【暗視】
レベル三か。クローディアちゃんはバルドの次に強いね!
……パーティーの底が知れるから考えないようにしよう。あと、気になる項目がいくつかあったのでタッチして詳細を表示する。
・先祖還り
遠い祖先の血が色濃く出た者の俗称。先祖還りをした者は例外なく先祖と同等の力を得る。
・妖術
妖狐族に伝わる秘術。精霊魔術と違い、無から有を生み出すことは敵わない。ノーム族に伝わる妖術は主に防御妖術から土属性の錬金・構築・生成・分解がメイン。
・魔獣化
純粋な妖狐の姿になることで飛躍的に戦闘力を増加させる。変化時間・戦闘力はスキルレベルと戦闘レベルに依存する。魔獣化後、二十四時間の冷却時間として深い眠りに付く。
ふむ。クローディアちゃんは斥候向きか。これは拾い物だね。バルドはガチガチのパワーファイターだし、僕は多少身軽でも体力も機動力もないし。その点、クローディアちゃんは立派だ。音と臭いと……漫画で言う気配(?)で索敵ができる。安全面マージンはグッと上がる。
「クローディアちゃんは戦闘とか大丈夫? 無理に戦わなくてもいいよ?」
「だ、大丈夫です。お母さんと一緒に狩りをしたことありますからッ」
スキル欄にも【槍術】があるから大丈夫かな。剣と違って槍なら少し離れた位置から攻撃ができる。槍は兵器の王という言葉があるぐらいだし、距離があれば恐怖はいくばくか薄れるし。
「じゃあ確認。クローディアちゃんは僕達と一緒に戦って藤堂さんは雑用全般。この振り分けでいいね?」
「えっと、私も頑張って戦うから……」
そう控え目に主張する藤堂さん。何故……て、あぁ。クローディアちゃんが戦うって言い出したからか。確かに自分より年下の娘が志願するのに自分だけ戦わないって外聞が悪いよね。
でもさ、藤堂さん。魔物との戦闘がトラウマになっちゃったんだよね? 気持ちは汲み取ってあげたいけどトラウマ持ちは僕も同じなんだ。だから簡単に頷くことができないし、信じてと言われても簡単に信じることができないし、うーん……。
「じゃあこうしようか。藤堂さんは今度、一人で手頃な魔物……この辺ならゴブリンかな? それを何匹か倒してみてよ。そうしたら雑用はローテーションにするから」
「すぐじゃないの?」
「うん。ここからはバルドにも関係ある話なんだけど、明日救援物資輸送の為にサイスっていう村に向かうことになったんだ」
「サイス……あぁ、そういや女の冒険者どもがサイスの方に出払ってるって話聞いたッスけど、そういうことだったんスね」
どうやら僕の知らないところで情報収集していたらしい。僕も見習わないと。
「救援物資届けるってことは兄貴の【無限収納】の出番ッスね」
「そうだね。バルドには護衛として付き添ってもらうけど、お願いするね」
「任せて下さい。この役目ばかりは譲れませんから」
うん。やっぱりバルドは頼もしい。仲間で本当に良かった。
そうなれば明日の予定としてはお嬢様のところに挨拶行くついでに報酬をしっかり貰うこと。そしてその報酬でクローディアちゃんでも使える武器を見繕う。昼ぐらいにギルドに着くように言われてるからそれでいいかな。
「二人にも付き合ってもらうことになるけど、いいよね?」
「うん、いいよ。一人でいても仕方ないし」
「わ、私は御主人様の奴隷ですから」
「…………」
奴隷、か。やっぱりその言葉はしっくりこないな。ていうか僕、そういう扱いをするつもりで買った訳じゃないし。
「クローディアちゃん、取り敢えず御主人様って呼び方はやめてくれるかな? 正直、なんか馴染みないからさ、その言葉」
「す、済みません。……えっと、兄貴様?」
……惜しい! 違う意味で惜しい! お兄様って言葉はあるけど兄貴様はちょっと斬新だね! 僕的にはアリだと思うけど……。
「カオルでいいよ。あと、様付けはいらないから」
「だ、ダメですッ! 奴隷が主人のことを呼び捨てにするなんて……ッ」
こういうの、奴隷根性って言うのかな? これはキチンとお話する必要あるかも。
「……クローディアちゃん」
彼女の前に膝を付いて、目線を合わせる。逃げないようにしっかりと両手で頬を押さえる。あっ、毛並み凄く柔らかい。毛が細くてサラサラしてるから指に絡みつく感じが丁度いいし、ちょっといい匂い──じゃなくてッ! 真面目な話しなきゃ!
「キミの御主人様は、誰かな?」
「それは……カオル様、です」
「うん。僕だね。クローディアちゃんが今までどんな育ち方をしたのか僕には分からない。でも、今日からクローディアちゃんの主は僕になって、僕を中心とした生活が始まる。クローディアちゃんが奴隷以外の生き方を知らないなら、キミは僕の言う通りにするべきだ。そして僕はキミをモノ扱いするつもりなんてない。嫌なことがあればハッキリ嫌と口にして拒絶する。言いたいこと、やりたいことは遠慮せず言って欲しい。そして僕達がキミを対等に扱うことを拒否しちゃいけない。これが、僕がクローディアちゃんにする最初の命令。いいね?」
本当なら今すぐ奴隷から解放してあげてもいいけど、今回は時間もなければ方法も分からない。そして恐らくだけど、クローディアちゃんの言い分はこの世界では常識として住民の意識に染みついている。
これはこういうものだと諭してもすぐには効果を現さない。だから今は少しずつ慣らして教えてあげればいい。
クローディアちゃんは奴隷じゃない。クローディアは世界にたった一人しかいない可愛い女の娘で、代わりのいない存在だってことを。
「バルドもそれでいいね? クローディアちゃんも、藤堂さんのことも奴隷として扱うのは全面禁止。僕が許さない」
「その程度で意見するぐらいなら兄貴の弟分なんかとっくに廃業してるッスよ。ただ、その女……トウドーと言いましたっけ? そいつが本当に使い物になるまでは戦闘面では絶対に信用しねぇッス。こればかりは譲れません」
「僕はその辺素人だからね。そういう判断はバルドに任せるよ。因みにだけどクローディアちゃんはどう? 期待できる?」
「獣人族ってのは総じて身体能力が高いッスから期待してるッスよ」
うん。ゴメンねバルド。僕がもう少し使い物になる人間だったら楽させてあげられたのに。その代わり【パーティー獲得経験値三倍】で貢献しているから許してね?
「うん。じゃ、話も終わったことだし僕はもう寝るから」
「えっと、最上君……できれば私、違う部屋に──」
「お金ないから却下。明日以降に期待して」
次回予告
「異世界なら同衾なんて当たり前ッスよ」
「行かないでカオルちゃん! カオルちゃんがいないと私ダメなのッ!」
「おじ様、今日一日あなたにご奉仕させて頂きます♪」
大体こんな話。




