閑話・如月葉月
時間差で二話更新です。
突然だが、ある生徒の話をしよう。
その生徒の名は如月葉月。古くは天皇家に仕える由緒正しき家柄。現代では古い歴史を持つ。それ以外はこれと言った権力はない。
ないが──天皇が実権を握っていた頃の名残りで如月家の人間は代々技を修める。
如月流一刀流殺人剣。
元々天皇を護る家系であるならばそういう家柄であるのは当然のこと。殺人術が認められない現代においては殺人剣から派生した武術を武道とし、剣術を剣道へ変化させることで現代社会に溶け込んでいる。
が、それはあくまで表向きの話。因習と言うべきか、如月家の子孫は代々、先人が研鑽し、鍛え上げた殺人剣を修めることを徹底している。
無論、それが現代社会で抜かれることはないが物騒なことをしていることに変わりはない。
そんな家系に、一人の如月葉月が生まれた。
彼は生まれてくる時代を間違えた不幸な天才だ。僅か十歳にして当主を打ち負かしたその実力は天才の一言で片付けられるものではない。
生まれついての殺戮者。
人を……否。生き物を殺すという行為に強い性的快楽に似た快感を覚える人間だった。そのような人間に暗殺剣はまさに最高の玩具を与えるのと同義であったが、法律の力が強い現代では魚が陸にあげられたような息苦しさしさない。
彼の名誉の為に明言しておくと、殺戮衝動が強いからと言って周囲に馴染めないという訳ではない。学校に行けば普通に友達と喋るし、素人相手に修めた技をみだりに使うような軽挙さもなければ、隣人を大切にする心も持ち合わせている。
だからと言って生まれ持った衝動を完全に制御することが出来る訳ではない。武芸者というのは常に身に付けた技を披露する機会に飢えた狼なのだ。
流石に人間を殺すと色々問題が起きるので、近所の動物を捕獲して八つ裂きにすることで理性を繋ぎ止めた。もっとも、家族からの理解は得られなかったのでバレないようにこっそりやっているけれど。
そんな不幸な天才に人生の転機が訪れた。
言うまでもなく、異世界転移のことである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ザッと踏み込み、下段に構えた長剣を掬い上げるように振り抜く。自身の眼前に迫っていた剣は腕力と技術の差によって容易く持ち主の手から離れる。
武器を手放すとは、半人前も良いトコだ──
如月葉月は目の前の男を鼻で嗤い、機械的に振り下ろす。腕の力だけで振り下ろされた一撃ではない。上半身を使ったその一撃は刀のそれと同じ技法。
男の顔面が縦一文字に割れる。生温い血が顔を叩く。ぐしゃっと血肉が刃に食い込む。恐怖で歪みきった顔が脳裏にこびり付く。
(あぁ、マジで愉しいわこれ……)
浮かべるのは猛禽類を思わせる獰猛な笑み。
血を浴びる度に噛み殺せない嗤いが零れる。
命を刈り取るほど高揚する。
怯えきった獲物に無慈悲な一撃を叩き込むのが堪らなく愉しい。
人間を物理的に一刀両断した葉月は次なる獲物と遊ぶべき、一息で距離を詰める。一分一秒が惜しい。今すぐにでも殺し回りたい。生まれついた欲求を満たすべく、雄叫びを上げながら逃げ惑う男の背中を切る。豚のような悲鳴がまた心地よい。前のめりに倒れた男の頭蓋骨を踏みつける。血の臭いに混じって異臭が漏れるがそれすら極上の香水のように思えて仕方ない。
遠くから女の魔術師が詠唱するのが見える。進路上には魔術師を護るべく立ち塞がる二人の剣士。何の障害にもならない。即断と同時に長剣に意識を向けて抜き身のまま横一文字に振るう。
変化は二つ。長剣の刃が深紅の輝きを帯び、振り抜きに合わせて紅い尾を引く。その結果を三人の敵が確認できることはなかった。何故なら長剣が振るわれたとき、前衛二人は武器ごと胴体を上下二つに切り落とされ、後方に控えていた魔術師は自分に攻撃が来る筈がないと高を括り、自身の身に起きたことを把握する間もなく見えざる刃が腹部に食らいつき、脂肪と肉片、内臓を食い散らかし、背骨を小枝をへし折るように切断し、背中から突き抜けた。
魔術を使えない剣士たちが編み出した至高の技術──人はそれを【闘気】と呼ぶ。これを極めた者は実態を持たない相手であっても問答無用でダメージを与えることができる。
「…………」
目の前で起きた結果に顔を顰める葉月。狙い通りの結果かどうかと訊かれれば、期待を裏切ることのない最良の結果だと言える。ならば何故彼の顔は優れないのか。
「やっぱ自分で斬った方が面白いなー。これじゃ斬ったって実感ねぇわ」
ポリポリと頭部を掻きながらその辺に転がってる死体の服を剥ぎ取り、刀身に付いた血糊を拭い取って気配を探る。
結果。周囲に人の気配はゼロ。但し、目の前でガタガタ震えている肥えた貴族を除いて。
(取り敢えず依頼完了だな)
標的が居ないと分かれば長居は無用。長剣を握ったまま、だらりと腕を下げる。切っ先がカーペットを切り裂く。お値段ン十万もする上質な代物だろーなーと、頭の片隅で考えながら無感情に男を見下ろす。
「ま、待て……ッ! お前冒険者だろ! そうだワシに付け! 報酬も──」
予想通り、耳障りな声だった。別にどうでもいいが聞くに堪えない。踵で下顎を砕き、両足の骨を圧し折る。ついでに両腕も折っておく。
できるだけ触らないよう、襟を掴んでズルズルと引き摺りながら屋敷の外へ出る。
今回、彼が請け負った依頼は極めて単純なもの。餓死寸前のまま、どうにか辿り着いた寒村で一宿一飯の恩を受けた。お酒の席で領主の重税に困っていることを吐露する人々。殺して下さいお願いしますとあっては断らない理由はない。魔物もいいが、やはり人斬りに勝る娯楽はない。それにどうせ斬るなら悪人の方がいいに決まってる。
領主を殺したところで根本的な解決にはならないが、何もしないよりは幾分かマシだろうというのが村人全員の総意。領主宅は村から距離があるので何が起きたのかは知らぬ存ぜぬを通せばいい。男を運ぶついでに金庫に詰まっていた金貨や貴金属、食料等をしっかり回収する。火事場泥棒はこの半年で随分慣れた。
葉月にこの金をどうこうするつもりはない。元より金に対する執着心は低い方だ。
自分は欲望を満たす機会を与えられ、村人たちは重税から一時的とは言え、解放されるだけでなく豚貴族の金で懐も潤う。実に有意義な取り引きだった。
「よぉ、手土産持ってきたぜ」
ズルズルと男と戦利品がぎっしり詰まった革袋を引き摺りながら適当な村人を捕まえて村の広場に全員を呼び出す。景気よく戦利品は村へ寄付し、自分は当初の予定通り幾ばくかの報酬と食料を分けて貰う。
「それより剣士様、その男は……?」
「ん? あぁ、この豚? 怒りの捌け口に必要かなと思って生かしておいた。下顎砕いてるし自殺される心配もないし、両手両足は折ってるから。煮るなり焼くなり好きにどーぞ」
「ヒィ……ッ!」
「おぉ、そうですか。ありがとう御座います。剣士様はこれから如何致します? もし宜しければこの後、若い村娘を付けて個室を用意致しますが?」
「いや、これ以上村に長居するつもりはない。余所者を泊めておくほど裕福でもないだろ。旅支度を終えたら早々に立ち去るよ」
「そうですか。剣士様、どうか御達者で」
「そっちもな」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
なんて、格好良く村を立ち去ったまでは良かったが現在彼は最大のピンチを迎えていた。
「うーむ……」
しかめ面をして、仁王立ちのまま腕組みをして辺りを見渡す。
新宿の雑居ビル並みの太さと高さを誇る異世界補正満点の巨木が所狭しと並び、足下でうねうねと蔦を動かし、名前も知らない魔物を捕食するラフレシアっぽい花がとても印象的な光景。街道どころか獣道すら見えない。
「うん、迷子だな!」
開き直って堂々と言ってみても現実は変わらない。まともに整備されてない粗悪な街道を歩き、盗賊っぽい集団を見かけて絡まれる前にばっさり斬って、直感に従って歩いたらいつの間にか樹海に踏み込んでいた。
これはいかん。由々しき事態だ。
既に食料は底を尽き、水筒は空っぽ。どれだけ優れた兵士であっても兵站がなければ満足に機能しないのだ。いくら同世代の子と比べて鍛えているとは言え、所詮は現代人。文明に守られた環境に適応した身体が大自然に馴染む道理などない。
もうじき日が暮れる。そうなれば野宿をしなければならない。だが一人の野宿というのは想像以上に神経をすり減らす。見張りがいないということは常に気を張っていなければならない。これでは満足に睡眠を取ることもできず、疲れを残したまま行軍する羽目になる。事ここに至り、葉月は仲間の大切さを思い知り、心に誓う。
もし無事に街に辿り着いたら、パーティーを募集しよう。
御免なさい、ちょっとだけ嘘吐きました。未来の話よりこの状況何とかして下さいお願いします。
彼の渾身(?)の祈りは天に通じたのか。或いはただの偶然か。
結果的に、彼はこの状況を打破する機会に恵まれた。
「ッキャァアアアア!」
(人の声……ッ! これはチャンス!)
悲鳴が聞こえるや否や、迷わず音源へ向かって駆け出す。義侠心から来る行動ではない。あくまでこの状況を打破するべく恩を売る為だ。
抜け出せないと半ば諦めかけていた樹海から奇跡的に出られた。体感で一kmは走ったか。よほど大声だったのか、自分が地獄耳なのか判断が付かないがそんなのはどうでも良かった。
葉月の前に広がる光景は実に分かり易い構図だ。幌すらない、ともすれば荷車と呼べるほど粗末な馬車に乗った数名の女性客と、それを囲む人相の悪い盗賊らが十人。
武装は全員片手剣。魔術師の姿はなし。障害など何一つない。
(おっしゃあっ! 恩を売って街に向かうチャンスッ!)
瞬時に、五体の隅々まで神経が行き渡る。身体と思考は既に戦闘に特化したモノへ作り替えられる。空腹も疲労も、今この瞬間は全て排除される。
「おらぁあっ! こっち向けクソ野郎共!」
獣のような咆吼を上げると同時に今日一番の速さで懐に潜り込む。抜剣と同時に刃を男の胸部へ押し当てながら長剣を引き抜く。一瞬のすれ違いで長剣を片手に持ち替え、男から強引に剣を奪い、手首のスナップだけで投擲。残像さえ浮かぶ速さで投げられた剣を、ただのゴロツキが反応できる筈もなく吸い込まれるように喉笛を抉った。
突如降って湧いた凶行に男達が浮き足立ち、体躯の良い大男が部下たちを怒鳴りつける。成否の是非はともかく、剣は奴に投擲すべきだったと反省しながら剣を逆手に持ち背後の男へ突く。ずぶりと肉が食い込む感触が伝わる。大勢の人が忌避する人斬りの感触だが、葉月にとっては健全な男子が生乳を鷲掴みしたときの興奮と同じだ。
「──ィイヤッハァー!」
抑えきれない歓喜をあげながらいくつかの臓器を道連れにしながら腸を掻き乱し、蹴り飛ばして無理矢理引き抜く。ぴちゃっと頬を血糊と内臓の一部が叩く。脳髄が甘く痺れるような香りだ。
(いいぜ、この世界はマジ最高だ! あぁもうこんな愉しいことが毎日起こるんじゃ日本になんて帰れないじゃないか!)
絶頂にも似た快楽の波に身を委ねながらも、剣捌きは鈍るどころか鋭さを増す一方だ。
水平に剣を滑らせて鎖骨を叩く。押し込みながら剣を引いて左胸を刺す。肋骨の隙間を潜った切っ先が心臓を穿った手応えを感じる。余韻に浸りたいところだが、一応は戦闘中だ。骨の髄まで楽しむ余裕はない。
名残惜しそうに引き抜き、振りかぶってきた剣戟を防ぐ。同時に刃を走らせ距離を詰める。肩口から体当たりをする。身長差十cm以上はある相手だったが、子供を突き飛ばすような手応えだ。無造作に顔を踏みつける。靴底に踏み抜き防止用の分厚い鉄板を仕込んだその一撃は容易く顔を変形させる。ケラケラ笑いながら二度三度と踏み続け、近づけないように剣を振るう。
息の根が止まったのを確認することなく、サッカーボールでも蹴り飛ばすように死体を蹴り上げる。人間の脚力とは思えない、凄まじい蹴りを受けた死体は弾丸のように飛び、不運な男が不用心に構えていた剣に突き刺さり得物を封じられる。いつの間にか奪っていた剣を左手に持ち投げる。だがそれは男と葉月の中間点で地面に突き刺さるだけの結果となった。不信に思うリーダー格の男。答えは葉月が行動で教えた。
刺さった剣の柄を即席の踏み台にして頭上を取る。上空からの攻撃は避けるか防ぐかの二択しか存在しない。そして平野で盗賊稼業をしている彼等に本物の技を持つ葉月の剣戟を躱す術はない。反射的に防御の為に剣を頭上に構える。葉月が両手で持った長剣を目一杯振り下ろす。両者の間に火花が散り、甲高い音が鳴る。安物の剣はぽっきりと折れ、頭蓋骨の三分の一が割れる。どちらに軍配が上がったかは語るまでもない。
残りは四人。だがもはや突然の乱入者に対して戦おうとする気概のある者など一人もいない。
彼等がそう思うのも無理もない。何せ戦闘開始から十秒と経たないうちに仲間たちが殺され、挙げ句自分たちのボスが噛ませ犬のように殺されたのだ。加えて、自分たちを襲った男──それもかなり若い──はこの惨劇を心から愉しんでいる狂人。ハッキリ言って関わりたくない。
四人の意見は一致して、逃走を選択。だが極度の殺人狂いの葉月は敗残兵を逃すような人間ではない。
例によって男から片手剣を盗り、自分が持つ長剣と合わせて投擲する。放たれた二振りの剣は二人の男の背中へ見事刺さる。徒手空拳のまま、葉月が三人目の男の背中へ飛び付き、下顎と肩口に手を添えると同時に一気に腕を外側へ振り抜く。面白いくらい簡単に首が回り、嗤いが零れる。残った一人は長剣を回収してそのまま背中から斬り掛かる。わざと急所を外して蹴り飛ばす。立ち上がれないようしっかり腕を踏みつけて、恐怖と涙と返り血でぐちゃぐちゃになった顔と情けない声を愉しむように何度も串刺しにする。
肉を抉る度に笑みが零れる。
骨を断つ感触が心地良い。
奪われる側になった瞬間の表情がゾクゾクする。
大人げない命乞い、豚のような悲鳴など美声で奏でるオペラにも等しい。
愉しい。心の底から愉しくて仕方ない。願わくば、この時間が永遠に続けと願う彼の祈りは叶えられることはなかった。
いつしか滅多刺しにされていた男は動かなくなっていた。もう歌声も聞こえない。もっと耐久度のある人間と遊びたかったが、そこは数がカバーしてくれた。
「さて」
剣についた血糊を拭き取り、馬車へと向かう。勿論、助けた御礼に街まで案内してもらう為だ。
だというに──
(あれ? なんかメッチャ警戒されてなくね俺?)
女性達は揃いも揃って、化け物を見るような目でこちらを見ている。葉月からすればこれは不可解な現象だ。
魔物が蔓延り、ふとした切っ掛けで戦争が起こるこの世界では殺し合いなど日常的だ。これが日本人であるなら葉月も理解を示していたが、彼の頭の中は既に『異世界人は皆人殺しの現場に慣れてる』という図式が出来上がっている。
現に数日前に立ち寄った村を初め、彼がお世話になった村人たちは当たり前のように村を脅かす夜盗を殺して欲しいと懇願したし、ズタズタに斬りつけた人の死体を見ても顔色一つ変えなかった。
「あー、そこの──」
「ヒイィ……ッ」
こいつ、どうしてそんなに怖がってんだ?
本気で首を傾げながら血糊がべったり付いたまま、笑顔を浮かべながら話しかける。それを皮切りに、限界値を超えた彼女たちは御者を急かして馬を走らせた。
後に残されたのは凄惨な殺戮現場と汚れきった十六歳の少年。
いや──
「うぅ、ぅ……」
約一名。現場に取り残された人がいる。取り敢えず顔の血糊は外套の袖で拭い取り、できるだけフレンドリーな態度で接する。あくまで葉月基準で。
「怪我はないか?」
「う、うん……」
葉月が見つけた人は女の子だった。歳の頃は八歳ぐらいか。
砂色の髪とそこから顔を覗かせる細長い耳、貫頭衣の隙間からチラッと見える胸はほんの少しだけ膨らみがある。将来はきっとボン、キュ、ボンなナイスバディになるだろうなとどうでもいいことを思う。
「俺は如月葉月。名字が如月で名前が葉月。キミは?」
「シャラ……」
「シャラか。いい名前だ。で、早速だがシャラ、訊きたいことがあるんだが……その中身は、食べ物か?」
チラリと、シャラが背負っているリュックに視線を向ける。リュックの中から微かに漏れる匂いから、葉月は既に中身が食べ物であると検討を付けていた。味はこの際気にしない。自分は美食家ではないのだ。
「うん……」
「シャラ、食料を分けて欲しい。もし分けてくれたら君は街まで安全に旅ができることを約束しよう。どうだ?」
「……身体じゃ、ダメ?」
「いやなんでそうなる?」
葉月の質問には、シャラが手の甲に刻まれた奴隷紋を見せることで示した。
後に葉月は、彼女の手の甲に刻まれている奴隷紋が奴隷のものだと知るが、それはまだ先の話。
「俺は今、餓死寸前なんだ」
「……うん、分かった」
取り引きは葉月が拍子抜けするぐらいあっさり成立した。相手は子供だし、もう少しぐずるかと思っていただけにこの結果は意外と言わざるを得ない。
慣れた手つきでリュックから出て来たのは焼きしめたパンと干し肉、それと林檎によく似た果物。これが全てだった。
流石の葉月も成長期真っ直中の子供の食料を奪い尽くすのは躊躇われたので焼きしめたパンを半分貰う程度に留めた。
「さてシャラ。お前の護衛をするのはいいが一つ問題がある」
「……?」
「街は、どっちだ?」
「あっち」
そう言ってシャラが指差した方角は丁度逃げた女性たちが去って行った方向だ。よくよく考えてみれば街までの道のりなんて轍の跡を辿っていけばいいだけの話だ。自分の頭の弱さにそっと自己嫌悪する。
「あっちか。……シャラ、歩くのは大変だろう。肩車してやる」
何処か有無を言わせぬ口調でひょいと少女を持ち上げ、当たり前のように肩車をして少女が指差した方角を目指す。
後に、子連れ剣鬼と呼ばれる一組のパーティーが誕生した瞬間である。




