最終話、眼鏡を新調したらクリアな世界と同時に過去の痛い別れまで見えてしまった
ちょっと前まで付き合っていた眼鏡男子君と私はお互いに眼鏡が好きで、意気投合して、二人は似た者同士だと思っていた。
眼鏡の似合う彼に本当に見とれて過ごした。彼とおそろいの眼鏡が増えることも楽しかった。全部自分の見た目や欲求だけを優先して眼鏡を作っていた。眼をいたわることは考えていなかった。
そして度の合わない眼鏡を付けて彼の事を見ていた私はきっとピントがずれたままでずっと彼と接していたんだと思う。
外見も性格も全てに対して本当の彼の姿を見ることが出来なかったんだ。
別に乱視のせいじゃないというのは本当は解っている。でも、ピントのずれた付き合いだったのは事実だと思う。付き合っていく日数が重なるたびに疲れも増えた。
そう、テレビやパソコンの画面を見る時間が増えると目が疲れていくるのと同じだ。
そして彼は乱視でなくて近視。
近視の人は近くしか見えないっていうよね。だからかな、遠い未来の話をしても彼は全く靡かなかった。まったくピントがずれた視界で彼を見つめていた私、今近くにあるモノしか見ようとしない彼。
私はだんだん彼を見つめるのに疲れてしまった。疲れたからもう彼を見るのをやめた。そして彼は彼で近くしか見えなくて、遠くに離れて行こうとする私の事は見ようともしなかったんだろう。
眼鏡が好きな二人は似た者同士
なんていうのは幻想だったね。
乱視の私と近視の彼。お互いが住む世界はそもそも最初から違ったんだ。
それならそれでお互いに解りあえたらよかったな。お互いにピントを合わせたり、遠くも見るように努力したりしたら、新しい世界に行けたのかもしれないな。
再び敏腕眼科医の言葉を思い返して、自分の行動に当てはめた
「ちょっとした意識の持ち方で、今の眼鏡(パートナーや恋人のこと)が自分に合っているかどうか、解ることもあるんですよ。」
「常に目(自分自身の行動)に対して意識を向けてあげてください。見た目だけの美しさ(格好良さ)や可愛さで眼鏡(恋人)やコンタクト(しつこいが恋人)を作っているだけの人は段々と視力(自分自身の人間性レベル)も下がっちゃいます。それじゃ、本末転倒ですよね」
どうやら敏腕眼科医は目の事だけではなく私の人間性まで矯正してくれようとしたらしい。
私は今日買った新生乱視眼鏡ちゃんで今までのピントのズレた世界からもっと明るくてクリアな世界に進もうと決心した。
今度は見た目のかわいさやデザインだけを重視しないで、自分もいたわることのできる優しく癒してくれる眼鏡をかけるよ。
そして思う。なんだかんだ言ってもやっぱり眼鏡は好きだ。
ただし、ちゃんと度の合う眼鏡にしないとダメ。
そうしないとピント外れの世界を見続けることになりますよ。
眼鏡女子を語っていたクセに自分の眼の現状も把握出来ずに歪んだ世界を見続けていた私のように。