1、今までブレた世界を見ていたことを気付かされる
「そうですね、●●様は、近視よりも乱視の方が強いですね。ですので乱視の度に合わせたレンズにした方が目の負担は少なくなりますよ」
コンタクトの処方箋を貰いに行った先で、担当してくれた白衣の男性が言った。
「良いですか、今これが●●様が使っているレンズの度数です」
そう言って白衣の男性はサイボーグ的な分厚い黒のまる縁メガネ(仮枠というらしい)に色々な種類のレンズ(テストレンズ)をカチャカチャと音を立てながら合わた。
「それを乱視軸に合わせるとこうなります」
そう言ってテストレンズを何枚か取り替えた。
「あ、全然違う・・・」
私は少し驚いた。
「●●様、確かに少し近視も入っているので今お使いのレンズの度数でも見えてはいると思うんですよ。でも、今のレンズのままだと乱視に対する矯正力が弱いんですね。
だから目が疲れやすくなるんです。実際そうじゃありませんか?」
確かにそうだった。でも、今まで私は何度も眼鏡やコンタクトを作るために眼科や専門店に足を運んでいるがそんな説明は受けたことはない。
この担当者、アルバイトじゃなくて真の眼科医(しかも敏腕)なのかなと思った。
乱視だとか近視だとか第三者から見たら小さな事かもしれないが、当の本人にはかなり大きな問題だ。何しろ眼鏡を作ってもコンタクトを作っても常に目が疲れるんだ。
絶対何か原因があるはずなのにそれがわかっていない。
年々視力が下がっていくこの恐怖は視力の良い人には解らないだろう。
本気でレーシックを受けようとも思ったくらいだ。怖くてレーシックは未遂で終わっているけど。
眼鏡やコンタクトを新調するたびにコンタクトレンズ店と併設している眼科で、
一応「医師」と呼ばれている人達に診てもらっていたが、今日みたいにこんなに懇切丁寧な説明を受けたことはない。
勿論、眼鏡を作りに行った時だって、事務的(いや営業的というのか)にショップ店員は視力を測定してはくれるけど、それ以上の事はしない。
自分の目が近視だとか乱視だとかそんな説明は一度も受けたことはない。
「こういう眼鏡が目には負担がかからなくて良いです。」
なんて、丁寧に教えられる知識も無いというのが眼鏡店員の実態なんだろう。
私は心の中で感動していた。こういうプロフェッショナルな仕事をしてくれる眼科医に出会えた今日に感謝しよう。
そんな私の心を全く知る由もないであろうけど、目の前にいる敏腕眼科医は
「ついでに今お使いの眼鏡の度も測定しましょうか。」とこれまた丁寧にその時持参していた眼鏡の度数も測ってくれた。
「あー、これも近視優先に作られていますね。これが今の●●様の見え方。」
そう言って、仮枠をかけたままの私の顔に新たなテストレンズをカチャカチャと入れ替えた。たった今まで私の乱視軸に合わせてくれて、ブレない世界を体験したばかりの私はまた、少し歪んでぶれた視界に戻った。
「で、これをまた、こうしてみます」
大して表情も変えずまたもやテストレンズをカチャカチャと音を立てながら数枚入れ替えた。
「うわー、全然違います!。こんなにも世界は変わるんですね」
私は驚いてつい大きな声で言った。
周りに誰もいなくてよかった。
「別に今まで、●●様が使用されていたレンズの度数が間違っていたと言う訳ではないんですよ。実際、裸眼の時と比べればちゃんと物が見えて不便を感じていた訳ではないでしょうから。でもちょっとした意識の持ち方で、今の眼鏡が自分に合っているかどうか、解ることもあるんですよ。常に目に対して意識を向けてあげてください。見た目だけの美しさや可愛さで眼鏡やコンタクトを作っているだけの人は段々と視力も下がっちゃいます。それじゃ、本末転倒ですよね」
眼科医はお説教がましくではなく、さらりと独り言のようにアドバイスをくれた。
そして、
「じゃあ、念の為、コンタクトだけではなくて、眼鏡の処方箋も作りますね。
その方が目の負担が激減しますから。」といって担当してくれた眼科医は眼鏡とコンタクトの二つの処方箋と一緒に渡してくれた
「あと、今日中にこのカードをご持参して隣接しているレンズセンターに行けば、全商品3割引いてくれますよ」
と彼の名前を書いた紹介カードも手渡してくれた。
懇切丁寧だった眼科医は営業の腕も素晴らしかった。
やはり敏腕眼科医だ。
「でも、今日の彼の説明はとても分かりやすかったから、眼鏡は新調して帰ろう。」
診察を終えた私は処方箋をもって眼科と併設しているレンズ店に足を運んだ。