主任がゆく(千文字お題小説)PART12
お借りしたお題は「ブックマーク」です。
松子は溜息を吐き、自分に視線を戻した住之江博己を見た。
住之江は松子がジッと自分を見ているのに気づき、ドキドキし始めていたが、松子も負けないくらい鼓動が速くなっていた。
「あの、先日のお話なのですが……」
松子が切り出すと、住之江は思わず唾を飲み込んだ。
「お返事する前に一つお話ししたい事があります」
松子は瀧本ななみの話をした。住之江はかなり驚いていた。
「松子さんと東京で出会っていたんですか、ななみが……」
そして、どうしてななみが東京にいたのかも話した。
住之江の目が潤むのを見て、松子はジンとしてしまった。
(やっぱり、住之江さんもななみさんと会いたかったのね)
そして、ななみの携帯の番号が書かれたメモを渡す。
「ななみ……」
住之江は松子がいるから泣くまいとしているのか、必死に涙を堪えていた。
「ななみと会えなくなって、十年以上になります。小さかったあいつが、私の事を覚えていてくれたなんて思わなかったので……」
涙を堪える住之江に惚れ直してしまう松子である。
(素敵……)
そして、意を決して住之江を見る。
「こんな私で良かったら、よろしくお願いします」
松子は深々と頭を下げて告げた。ところが住之江の返事がない。
どうしたのだろうと顔を上げると、住之江は顔をグチャグチャにして泣いていた。
「ありがとうございます、松子さん」
彼はもう涙を我慢せずにポロポロと零しながら、頭を下げた。
「住之江さん……」
二人はどちらからともなく近づき、抱き合った。
「おはようございます」
そこへイケメン三人組が入って来て、ビクッとした。
松子と住之江は慌てて離れ、茹蛸のように顔を赤くした。
「照れないでくださいよ、お二人共。やっとまとまったんですね」
三人組の一人の平野が言った。鶴見と阿倍野がそれに相槌を打っている。
「あ、ありがとう……」
松子と住之江は顔を見合わせてから三人に礼を言った。
「よし、住之江さんは足立さんと付き合うんやから、愛さんと付き合うんは俺らの誰になるんか、これから競争やで」
三人は嬉しそうに笑った。
(競争と言ってもドロドロはしないみたいね)
松子は三人の爽やかさにホッとした。
仕事の段取りが一通り終わった時、松子は住之江に携帯を見せて、
「これがななみさんのブログのアドレスです」
住之江は嬉しそうにそれを書き写し、
「早速ブックマークしてアクセスしてみます」
嫉妬してしまうくらい仲の良い兄妹だと松子は思った。
いよいよ次回が最終話です。