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遊びホーダイ

 アニメショップ「オトメロン」についた私達はさっそく戦場の戦士のように勇ましくその店内へと踏み込んでいった。


「わぁー、いつ来てもすっごいね。目がチカチカするよ」


 友人の莉心はかなりのゲーマーだが、そんなことをいう。

 かくいう私も、日頃乙女ゲームに慣れたはずの目が、煌びやかなキャラクター商品やポップ達を前にくらくらしていた。


 どこを見ても、いい男、いい女、一つ飛ばしていい男。(ただし二次元に限る)

 ここには人間の「理想」という魔物がはびこっている。そこを踏破するのは一般人には簡単なことではない。

 油断するな。気を許したらやられるぞ!


 ……ふっ、だから言わんこっちゃない。見ろ、あの兵を。


 いや、一般人か?いいか、よく見るんだ新人兵。あれが、油断した者のなれの果てだ。


 いい笑顔をしてやがる。しかし奴の抱えている物を見ろ、あれが人の買い物の量か?

 あいつはとり憑かれてしまったのだ。そう、理想――「二次元」という魔物に。


 キャラクターグッズ。それは二次元からの刺客。

 ハマった者にはひとときの夢と、現実の地獄をもたらす悪魔の道具。



 早速始まってしまった。私達の戦いが。

 私はというと、キャラクターグッズにはあまり興味がないといえる。だから、比較的このような状況には陥りにくい。

 だが、フィギュアや特典CDなどには興味ありありなので、毎回予約特典術にはまってしまうといえる。

 私は前述した「犠牲者」を眺めた。

 彼女は二十代後半くらいのお姉さんで、実に幸せな顔でほくほくと、はちきれんばかりの一メートル×一メートルの紙袋を抱えて店を出るところだった。

 その紙袋の派手な塗装とは違って、彼女の服は質素そのものだ。

 きっと節制に節制を重ねてここまで辿り着いたに違いない。そうでなくとも、大体のところは合っているはずだ。


 おそらく、今の彼女の財布の中身はすっからかんであろうことが。


 近い将来、きっと私の財布の中身もすっからかんだ。

 私は、そう遠くない未来に寂しい財布を眺め、木枯らしに吹かれる自分を想像せざるおえなかった。



 近所のCD屋で売って無かったドラマCDがここにはある。


 近所の漫画コーナーに売って無かったマンガがここにある。


 普通では痛いとしか思えない文房具が標準装備に見えて買ってしまいそうになる。


 キャラクターグッズ?いいえ、生活用品ですよ。


 都市伝説だと思っていた雑誌がここにある。


 きっと夢だったに違いないと思っていたマイナーゲームがここにあった。


 店内のBGMは信じられない「キャラソン」が普通に流れている。

 あ、このキャラソン知ってるやつだ。店内BGMとして聞くとなんかライブ感が増していいネ!

 何度もヘビロテしていたはずの曲に聞き入って、店内で木偶の坊と化す。


「小春ー。私そろそろゲーム漁りに行ってくるわ。あとはいつもの様によろしく」


 店内で、半ば障害物になっていた私に莉心がひょいっと何処かから顔を出して声をかけた。


「ラジャー。私、後でそこのカフェでケーキセット食べたいな」


 この店の前は中庭の様になっていて、そこでおしゃれなケーキ屋さんがカフェをやっているのだ。

 私は毎回ここでティータイムとしゃれこむのが、執事というジャンルを知ってからのマイブームとなっている。

 つまり、前は「節約」していたのだ。なぜ?それを聞くのは無粋というもの。


「おう、付き合うぜ。そのころにはもう、この財布が灰になっている頃かも知れんがな……」

「おやっさん……」

「なぁに、気にするな。そうやってはしゃぐのも乙女の特権ってもんよ。豪の道を歩くと決めたワシのことなど、気にせんで良いわ」

「ありがてぇ、ありがてえぜおやっさん。じゃ、あとでねー」


 刹那、商品棚を前にした私は日常の平素な面の皮を脱ぎ捨て、その顔は修羅となる。


 目は職人の様に研ぎ澄まされ、脳内は目まぐるしく視覚情報と蓄積された情報、そして予算とを緻密に計算していく。


 意外と品ぞろえのいいボイスCDはコストが高い。

 ここで置いてあるという書籍も、言ってしまえばネットで買える。

 じゃあ、浮かれてキャラクターストラップでも買うか?いや、でも……

 狙うなら高いがゲームの方がお得!


 しかし、今日の状況はいつもとは違う。


 ここでしか買えないであろう商品。お取り寄せしにくいであろう商品。

 それを私は、ここで確実に手中に納めなければならない。

 ならばどうする?キャラクターグッズでも買いあさるか?

 いっそのこと、「オトメロン限定商品」に挑戦する?


 いや、待て。これは不測の事態だったはずだ。予算がないっ。


 ということで、ここで私は「スラッシュ ラブ ファンタジー(オトメロン限定スペシャルBOX)」を予約したのだった。

 みんな、このゲームの事覚えてるかな?ちなみに、そのためのお金は「私姫」のために貯金してたのダヨ(げっそり)。


「ありがとうございましたー」


 店員の声がやけに頭に響く。

 だがしかし悔いなどあろうものか。ここに来るつわもの達は皆、笑顔で財布を散らしていくのだ。


 できることなら、人の良いあの店長の国士無双(ゲーム店)で予約したかったんだけどね。いやホントだよ、都会って怖い。予約特典はもっと怖い。

 読んで下さり、ありがとうございました。

 なんだか二話ずつ投稿しているような気がするんですが、きっと気のせいですね。このペースでいくと、一話が短いのでものすごい話数になりそうで末恐ろしい。では、また。

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