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がんじがらめの休日

 一体誰が想像できただろうか。この平和な現代の日本に生まれ出て、このよわいまで何事もなく平穏無事に生きてきたこのか弱き乙女が、ある日を境に生命の危機を感じる事になるとは。


 ガクガクブルブルガクガクブルブル。

 江本小春は自室のベットの上で布団にくるまり生命の危機に恐怖していた。


 さっきから震えが止まらない。どうしたものか、どうしたものか。

 戯れに携帯のアラームを設定してみる。


一分後、ちょっと強気で素直になれない彼ボイスで「おい、どうしたんだよ。いつものお前みたいに元気出せよ。おい、どうした(ry」


 却下。スマホをうつ伏せに布団に着地させる。サプライズ感が無い。もともと自分でセッティングしたものには妙に冷めた気持ちしか持てない。まるでだめだ。


 あの衝撃的な事実に気付いた帰り道、篠崎先輩との事を莉心に言うのも忘れて逆に「どうしたの?」と心配される始末だった。

 どうやって帰ってきたのかも覚えていない。家に帰るなり自室の部屋に閉じこもってしまった。みるもの全てに鳩屋が潜んでいるように見えてしまってしょうがない。電信柱の影から悠然と現れる鳩屋、郵便ポストの影から飛び出してくる鳩屋、塀の上の猫が突如として某映画よろしく鳩屋に変化、親友の影から手を伸ばして私の首根っこを掴もうとする鳩屋。だんだんと妄想が過熱してアリエナイところからも鳩屋が出てくる錯覚が出た。

 今も鳩屋が暗い部屋のあらゆる影からこちらを監視している気分だった。そうして、ゆっくりと暗闇から姿を現した鳩屋は、あの私を助け出してくれたアーミーナイフをぎらつかせ、冷めた笑顔でこういうのだ。


 トウルルルル。


 電話の着信音にびくりと身をすくませる。着信画面を見ると莉心からだ。

 げっそりした顔で電話に出る。「はい」


「どうしたのよ小春。メールしても全然返事来ないし」

「え、めーる?ごめん、確認してなかった今から確認してみる」

「いいよ、別に。今から話すから。あのね、私思ったんだけど最近オトメロン行ってないじゃない?あたし行きたいなーって」

「オトメロン?」


 オトメロンとは、乙女のためのアニメショップである。

 莉心は自分が行きたいから、といっているものの、元気のない私の為にそう言ってくれているのだとわかった。乙女ゲーマーたるもの、グッズに興味があまりなくとも夢のようなその空間に行けば自然と頬が緩むというもの、気晴らしには絶大の効果を持つ。そのような気遣いをしてくれるとは、我が親友ながらもったいなさすぎる有難さである。


「莉心。ありがとう。でも私今外に出たい気分じゃ」

「いいじゃない、小春。私のわがままに付き合ってよ。国士無双(ゲーム店)閉まっちゃってるでしょ?どうしても買いに行きたいものがあるんだって」

「でも……」

「なんでそんなに落ち込んでるのかは知らないけどさ、らしくないよ小春。こんなときは四の五の言わずはっちゃけた方がいいんだって。狩りに行こうぜ!」

「莉心……」

「ちなみに、くじはお一人様一枚までだから、小春にも協力してもらうからね」

「莉心……」


 くじをお一人様一枚と聞けば私は協力せざるおえない。なぜなら私はその「一枚」の価値を知っているからだ。そこまで莉心は考えて……いや、考えてないな。これはガチな気がする。いや、ガチだ。そういえば随分前から莉心は「出撃」の準備をしていると聞いた事が、いやいや莉心は私のためにこのようなことを言ってくれたのだ、と思いたい。


「じゃっ、明日の朝10時ね。待ち合わせはいつものところ。遅刻しないでね」

「うん、わかった。あのさ、莉心」

「なに?」

「もしも私が誰かに命を狙われてるとしたら莉心ならどうする?」

「うーん、あえていうならどうもしないかな」

「え」

「あたしが小春にできることをするよ。いつも通りだね」

「莉心……そっか。ありがと」

「どうしたんだよー。小春だってそうするでしょ」

「ん、まぁそうなんだけどさ。なんか元気出たよ。ありがと莉心」

「あたりまえー。じゃ、明日ね小春」


 親友からの電話を切って、ふと思った。

 私が今からいなくなろうが、何をしようが、きっと日常は変わらない。

 指から火がでようが、女子高生が乙女ゲーマーだろうが、そんなことは大したことじゃない。


「できることをするしかないのか」


 使い古されたその言葉の実態を掴んだ気がして、薄暗い部屋でそう一人ごちた。


 朝が来た。

 私は、なんともない朝を迎えられた。

 そして、なんともなく支度を済ませて、いつもの様に莉心と駅前で落ち合う。

 ゲームについて話すのも、まぁ普通の事。そうして電車が来るまでの間、適当に時間をつぶす。


「でね、冬場ってあんまり乙女とか関係ないと思うでしょ?そうはいっても戦いどころなのかねー。正月明けとかにどーんと来んのよ。まぁこれはジャンル問わず言える事なんだけど」


 莉心がまるで専門家の様に熱弁をふるう。

 私は、思いついた言葉をそのまま話す。


「不思議だよね。ゲームを売り出すべき時期みたいなのが決まってるんじゃないかと思うよね」

「だね。映画みたいに夏休み狙いとか。でも、あえて言うなら時期を外してきてくれた方が買ってもらえるんじゃないかとか思うけど」

「でも欲しいなら結局買っちゃうしねえ。予約特典さえなければいつでも発売しててもらいたいのに」

「うーん。スタートダッシュに命かけてるよね。最近のゲームは」

「ま、混ざりたい……」

「え?」


 今なんか聞こえた。成仏できない幽霊のような、自縛霊のような。


「なんか言った?莉心」

「別に。でさー、この前買ったミニゲーム集なんだけど。これが結構ハマッたのよ。さすがミニゲーム集って感じ?結構充実しててさ。やっぱゲームのおまけってよりも、ミニゲームはミニゲームだけですって方がいいのかなー、なんて考えちゃったわけ」


 何も気にしていない莉心に、私は調子を取り戻して安心して話を続ける。


「ああ、でもさぁ。乙女ゲームとかは、そういうのがゲームのクリアに影響するのもあるからねぇ。別々にするのも」

「うーん。ミニゲームでっていうのはなんか違う気がしない?私としてはこう、頭脳戦みたいなのを楽しみたいわけ」

「莉心はゲーマーだからねぇ」

「で、でも僕はこんなだし……。第一ジャンルが違うと言えば違うし」


 うっきゃっ☆


 これはなんというか本物?なのだろうか。すごくすごく怖い。

 今は怖さの対比する事がもう一つあるのだが、それは置いといて。いや、別に髪の赤い人とかそんなん関係ないです。だから、お願いだから今は出てこないでください。お願いします。私が私の中の幻想を何とかうっぱらうと、ゆらり、とした気配を後ろに感じた。

 背筋がぞわわーとする、禍々しいオーラだ。


 振り向いちゃだめだ。私は本能のまま、張り付いた笑顔のままで冷や汗をかきながら耐えるのだった。


 読んで下さり、ありがとうございます。更新をためらっていた間に、たくさんの方に読んでいただいていたようで、びっくらこきました。これからも地味に続けていきたいと思います。

 かなり遅くなりましたが、お気に入り登録してくださった方、本当にありがとうございます。びっくりしすぎてPCの前で飛び上がりました。こうして読んでいただいている方々のためにも、もっと文章力をつけたいです。それでは、また。

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