ちょっとした秘密
「約束って、何ですか?私、ごく普通の平凡なピッチピチの女子高生なんですけど」
「いや、平凡って、ピッチピチって。本当に自分でそう思ってる?」
鳩屋は私の背中を指さして呆れている。私は背中のひりひりとした感覚に火傷の存在を思い出し、はっと身を縮ませる。
「これって、その……厨二乙とか言わないでくださいね」
「そもそも“ちゅうに”ってなに?」
「こちらの話だ。気にしないでくれ」
「あっそ。じゃあ気にしないけど」
鳩屋は本当に興味がないといった様子で腕を組んで海の方を眺める。本当にコイツは私の何が目的で連れ去ったのだろうか?指先から火が出たかもしれないだけの、ごくごく平凡な女子高生の私を。
「約束、っていうか制約?あんたに守ってもらいたいことがあんの。これってば俺にとってはかなり重要なんだけど。てか、守ってもらわないと困る。それはただ一つだけ。“人前で能力を使うな”これに限るわけ。ぶっちゃけずっと封印しておいて貰った方が俺の方も安心なんだけど、これからの人生そんなこと絶対無理だってわかってるから、あえて言わない。どう?簡単だろ」
それを聞いた私の脳裏には“魔法少女”とか“正義のヒーロー”とかそういうキャラクターらが日常生活などで自分の正体を明かせずに苦しむといった場面が次々と脳裏に再生された。
以下、小春の脳内
「どうしたの?」
「い、いやぁー。お、こんなところにキタアカリがあるっ!私好きなんだよねーキタアカリー☆」※キタアカリ=じゃがいもの品種
あれをリアルでやるというのか。何も知らない人から見たら痛い奴決定だぞ。
「それは、かくも残酷な運命であるな」
「お前さっきから口調がおかしいぞ。まぁいいや、守ってくれなかった場合のことだけど。守ってくれなかったら、俺が殺すから」
「は?」
現代日本ではそうそう聞く事が難しい言語が聞こえた気がする。こういうのはファンタジーとか歴史物とかでよく見るけど。実際聞くとびっくりするものなのだなぁ。
「殺す?何の権限があって、一体貴様……。てか、なんで殺すとかなってんすか、戦闘能力でいったら「クズ」扱いのこの私がっ……」
「戦闘能力とか関係ねえよ。俺が言ってんのは“ただあんたに能力を使ってもらいたくない”ってんだからさ。その、何だっけ?なんか火が出る能力。それに気をよくして強化したりすんのはあんたの勝手だけどさ、その能力を使える人間がいるって世間に知られるのがやばいってことなんだよ」
「あ、ああ……。なるほど」
「だから、誰かに知られるような事があったら、俺が殺すから」
「いやいやいや、それは了解しかねる!なんで殺されなきゃなんないの」
「だって、きっとその方がいい。……いや、なんていうかそういうことだから。お前に拒否権なんてあってないようなものだって分かってるだろ?それともアンタ、俺より強いの?だったら、何も言わないけど」
「いえ……何でも無いです」
逆に私が何も言えなかった。
誰がうまいこといえと、といった感じに会話は終了し私は家に帰された。「強盗から誘拐犯に襲われた美少女」といった私の称号はなぜか付かなかったらしく、家に帰るといつものような日常が待っているだけだった。
あれは一体何だったのだろう?と私は寝る前にベットの中で指先を見つめる。背中は貼るカイロで低温やけどしたみたいになっていて、ひりひりと痛んだ。服もちょっと焦げていた。その証拠以外に、私の今日の出来事を証明する物はない。明日になれば新聞が出るだろうか?そうしたら、私が出会ったあの「鳩屋」も幻ではなくなる。
(ふとんが燃えたら大変だから、ろうそくみたいな感じで頼む)
と、初心者のくせに偉そうに念じてみた。指先に、炎。ポッと灯るイメージで。次第になんのために念じているのか分からなくなってくるぐらい強くみつめ続けた。
(んんー!)
ボッ。
火が指先に灯りました。
(夢だけどー、夢じゃなカッター!)
ちなみに火傷はしなかったです。
読んで下さり、ありがとうございました。
一か月後経ったあとに読むと、それはもう大惨事です。
ではまた。