人魚姫【陰猫(改)ver.】
むかしむかし、人魚姫という人魚のお姫様がいました。
人魚姫は普段から浜辺で過ごす青年に恋をし、その声で歌を歌い続けていました。
ある日、あまりにも彼を思う気持ちが抑えられずに人魚姫は声と代わりに人間の姿になれる契約を魔女と交わそうとします。ですが、魔女は言いました。
「本当に好きであるのなら見た目や世界にとらわれる必要はないものだよ。本当に彼を思うのなら、その気持を彼にキチンと話してご覧?──それから契約についてキチンと考えて御覧なさい」
魔女の真意を理解出来なかった人魚姫は魔女に言われた通りに彼に会いに行きます。
青年は人魚姫が来ると嬉しそうに微笑みます。
そして、人魚姫の言葉を聞いて静かに言いました。
「その魔女様の言うように君が早まった決断をしなくて良かったと私は思っているよ。私は戦争の影響で目が見えない生活をしているんだ。だからこそ、君の歌声はそんな心の荒んでしまった私の癒しになるんだよ」
「なら、私の目を貴方に差し上げます。それで二人で幸せに過ごしましょう」
「ああ。無垢で若き姫君よ。私の目が再び、戻ったとしたのなら私はまた、あの戦争の中に行かなければならない。そんな世界に君を巻き込みたくはないのだよ。
君には君の・・・私には私の世界の中でお互いを思い続ける事でお互いの心に寄り添おう。それがお互いに距離が近付き過ぎて傷付けてしまわない最良の関係となるんだ」
「貴方は私を愛してはくれないのですか?」
「愛しているからこそ、お互いの世界を大切にしたいんだ。君が声や目を失い、自己犠牲で私と対等でいよういう考えでいるのなら、私はその方が悲しいよ。
こちらの世界の戦争の事で君を巻き込みたくない私の気持ちもどうか、解ってはくれないだろうか?」
人魚姫は青年の言葉に深く悲しみましたが、それと同時に青年の彼女に対する深い愛情もまた理解しました。
こうして、人魚姫は海の中であの青年の事を想いながら。その日々を送り、時折、海面に現れては青年の為に歌を歌い続けるのでした。
その何処か寂しくも儚い歌こそが二人をお互いに干渉しない世界でお互いに繋がる一つの救いとなって二人は離れ離れのまま、互いの事を想うのでした。
そうして、お互いの住む世界は違いますが、互いを深く愛する気持ちはいつまでも変わらずに残り続け、いつしかその寂しくも儚い人魚姫の歌声は物語として広まり、人魚姫の伝説として人々に語られるようになるのでした。
【おしまい】




