第2話 祝福という名の呪い
目が覚めると、また、知らない天井があった。
頭がぼんやりする。
いつもなら、転生したすぐ後に意識がはっきりしてくるものなのだけど、今回はなぜかいつもと勝手が違うような気がする。
「うーん…」
横になる。
どうやら私が寝ているのはベッドのようだけど、前回の転生の時に寝ていた綺麗で豪華だったシーツとは違い、安っぽく、ごわごわとしていて肌触りが悪かった。
(今回は…田舎コースか…)
外れっぽいな…と頭をふる。枕は柔らかく、シーツもいいものではないが清潔ではあるので、毎日しっかりと洗濯をしてくれているんだな、と分かった。
ぼんやりしながら、ベッドの上で身を起こす。
窓の外から日が差し込んできており、そこから見える景色はまごうことなき田舎風景だった。
(まぁ、何度も転生しているから、こんなこともあるよね)
65536回。
それが今まで、私が転生してきた回数だった。
気の遠くなる数字ではあるけど、体感としては数字ほどのものではなかった。いいスキルに出会うまで何度もリセマラをしているので、時には1000回近く回すこともあったからだ。
だんだんと意識がはっきりとしてくる。
私の名前は、リゼル・アークライト。女。12歳。
お父さんとお母さんと私の3人暮らしで、家族仲は悪くない…というか、むしろ、かなり仲はいい方だと思う。
(けど、まぁ)
どちらにせよ、今回のスキル授与で何を与えられるかが問題だ。いくら仲が良かったとしても、外れスキルだったらまたリセマラするのだから意味がないし。
「今日がちょうど、スキル授与の日だし、ね」
転生をする際、必ず12歳で転生されるのはかなり有難いことだと思う。生まれ変わったらすぐにスキル授与の儀を受けることが出来るからだ。もし0歳から生まれていたら、わざわざ12年も無駄な時間を過ごさないといけないことになる。それはあまりに…タイパが悪い。
私はベッドから降りると、大きく背を伸ばした。
手が細いな、と思った。この身体、とくに魔力も感じないし、すごく丈夫というわけでも無さそうだ。
(今回も外れっぽい気がするな…)
経験上、そんな事を思った。
その想いは…ある意味、当たることになるのを、今の私は知らなかった。
この村でのスキル授与の儀は、村はずれにある教会で開かれる、とのことだった。
お父さんとお母さんに連れられて教会の前に立つ。
(それにしても、田舎だな…)
と思った。
この教会、村で一番立派な建物ではあるのだけど、それでも見るからにボロが来ており、台風でもやってきたら倒れてしまいそうなほど貧相なものだった。
村で一番がこの建物なので、他の家の状態は察するに余りがある。
「リゼル、緊張してる?」
「大丈夫だ、お父さんとお母さんがついているからな」
そう言って私の背中を叩いてくれる両親。うっすらと記憶は戻ってきているのだけど、この人たちと暮らしていたという実感は私の中にまだ浮かんではいなかった。
聞いてみたところ、お父さんの持っているスキルは《開墾(中)》で、お母さんが《掃除洗濯(大)》とのことだった。
(外れスキル両親かぁ)
スキルはそのまま遺伝することは無いのだけど、それでも、期待するのが馬鹿らしくなってくる。スキル授与の儀の結果を見て、大したことなかったらさっさとリセマラをして、次に賭けることにしよう。
そう思っていた時。
「やぁ、リゼル」
そう言って、にこにこしながら私に語り掛けてくる男の子がいた。
「えーっと…確か…レオンハルト?」
「どうしたんだい、そんなよそよそしい態度をとって」
やっぱり緊張しているのかい?そういって肩を叩いてきたこの男の子の名前は、レオンハルト・ドラグーン。私の記憶によると、金髪に赤メッシュを入れ、蒼い目をしているこの男の子は私の幼馴染であり、そして今日、私と同じく、スキル授与の儀を受けに来ているのだった。
「うん、まぁ、そうね、レオン」
あいまいな言葉で返事をかえす。
まだうまく記憶が定着していない。下手なことをしゃべるとボロが出てしまいそうだった。
「緊張するもの仕方ないけど、それじゃ可愛い顔が台無しだよ」
レオンはそう言うと、また人懐っこい笑顔を浮かべると、私に手をふって先に歩き始めた。
今日、スキル授与の儀を受ける村の子は、全部で5人。順番に並ぶ。レオンは4番目で、私は最後の5番目だった。
目の前で、1番の子から水晶玉に手をかざしているのがみえる。
それを指導している神官は、まだまだ年若い黒短髪の男の子だった。
「それにしても、ジョンさん、すごいよな」
「ジョン…さん?」
「おいおい、緊張するのもいい加減にしてくれよ?」
私の前で順番待ちしているレオンが、少し呆れたように肩をすくめる。仕方ないじゃない、私、転生したばかりで記憶がまだあやふやなんだから…とは言えないので、軽く笑いながら急いで思い出す。
ジョン・ドゥ。13歳。私よりも1歳年上。たしか去年、スキル授与の儀を受けて…それで手にしたスキルが、《鑑定》。
様々なものを鑑定することが出来るけっこうレアなスキルで、それを重宝がられて、今年からスキル授与の儀を取り図るようになった…らしい。
「さ、次は俺だな」
そう言うと、レオンは私を見て、にこっと笑って、そしてその大きな手で私の頭をがしがしと撫でてきた。
「何するのよ…」
「俺が先にいいスキルもらってくるから、待っていてくれよ」
そして振り返り、水晶に向かう。
いい子…なんだな、と、思った。
光が走る。
空気が変わる。
虹色の…光だった。
(この演出…レアスキル!)
私は思わずこぶしを握り締めた。しまった…順番変わってもらえばよかったかも…レアスキル演出なんて、めったに出ることないのに…
紫色の、少し貴族風な服装を身にまとったジョン、というスキル授与の儀の取りまとめ役は、ゆっくりと、しかしはっきりと口を開いた。
「レオンハルト・ドラグーン。あなたに授けられたスキルは…《剣聖》です」
どよめきが広がる。一瞬、意味を理解するのに時間がかかったが、やがれそれは祝福の歓声へと変わっていった。
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「すごい!」
「こんなの…村始まって以来のことだ!!!」
レオンはぽかんとしたまま立ちつくしていたものの、やがて、私に向かってブイサインを向けてきた。
「リゼル、聞いた?俺のスキル、《剣聖》だって!」
嬉しそうに笑うレオン。
当たり前。超大当たりスキル。努力と才能さえかみ合えば、英雄になるのも夢じゃない。間違いなく、この世界で最強格のスキルだろう。
(いいなぁ)
私は手をふって応えながら、心の中ではそう羨ましがっていた。いいなぁ。そのスキル、私が欲しかった。次に引く私のスキルと交換してくれないかな…まぁ、1人につきスキルは1つ。一度手に入れたスキルは死ぬまで変わらない、というのがこの世界の理なんだけど、ね。
(だから)
何度でもリセマラできる私は、有利なのだ。
…前世の記憶を持っている人を、私はこの65536回の転生の間、私以外に1人も見たことが無い。
みんな、どんなくだらないスキルを手にしたとしても、仕方なくそれを受け入れて生きている。
(無駄無駄、ほーんと、無駄)
私はそんな非効率な生き方はしない。
楽しく、有利に、チートに。
この世界を楽しむんだ。
「リゼルもきっと、すごいスキルをもらえるよ」
そう言いながら、レオンが私の傍にやってきた。額に汗をかいている。口ではそう言いながら、やっぱり緊張はしていたんだろうな。
悪い子…じゃないんだろうな。
でもまぁ。
「当然」
そう言って、私はレオンから差し出された手を軽く握った後、手を離し、水晶へと向かった。
私は《剣聖》以上のスキルを手にしてやる。
もしも駄目だったら…またリセマラしよう。
いつも通り。
いつも通りやれば、いいだけのこと。
私は水晶に手を置いた。
とたんに、水晶が光り出す。
(いつも通りの光)
レア演出はこない…外れか、あーあ、と思った。
と、その時。
『一度キリノ…命ヲ…』
ぞわり。
頭の中に、声が響いてきた。
何の声?
ピシ。
音が、した。
水晶に…ヒビが入っている。
(…こんなの…知らない)
見たこと、ない。
水晶から漏れ出してくる光の色が増えた。白い光だけじゃない、赤、青、黄色、緑、紫、橙、ありとあらゆる色が漏れ出してきて、その光が集まっていき…
全て合わさった色が、黒に変わった。
パリィン、と、乾いた音が聞こえてきた。
水晶が割れる音。キラキラと輝きながら破片が舞い散っていき、それはまるで、冬の空を舞うダイヤモンドダストのように見えた。
しばしの、沈黙。
誰もが口を開こうとしない。
私の目の前にたっていた青い服を着た黒短髪の少年、《鑑定》のスキルを持つこの度のスキル授与の儀の責任者であるジョンは、私を見つめ、その深い紫がかった黒瞳をそっとすぼめると、笑顔を浮かべた。
「おめでとうございます」
「リゼル・アークライト」
「あなたに授けられしスキルは…」
《不死》
一瞬、意味が分からなかった。
頭が混乱する。
こんなスキル…聞いたことも…ない。
静まり返った教会の中で、1人の男が、ぼそっと声をもらした。
「それって…すごいスキルなんじゃ」
それが皮切りだった。
「前例のないスキル…っ」
「伝説…いや、神話級のスキルなんじゃないか!」
「さっきの剣聖のスキルといい、この村始まって以来の大事件じゃ!」
「すごい!すごすぎる!!!」
教会は騒然となり、村人は口々に私とレオンをほめたたえた。
英雄が生まれた!
今日はこの村の記念日だ!
口々に私をほめたたえる声を聞きながら、私は暗闇の中にいた。
《不死》
ふし。
不死。
…死なない。
つまり。
(死ねない)
え。
それは、もしかして。
私。
装え。
平然を、装え。
震えないように、心を落ち着けて、しっかりと、考えよう。
不死。
あは。
あはは。
「ええ、そうですよ」
砕けた水晶の破片を丁寧に拾い上げながら、私の1つ年上の少年、ジョンは、私をみてゆっくりと口を開いた。
《鑑定》のスキルを持つジョン。
このスキルの意味を…知っているジョン。
「リゼル、あなたは」
これから先。
「死ぬことは、ありません」
素晴らしい祝福です。
田舎。
弱い身体。
ほとんどない魔力。
これが私に残されたもの。
もう私は死ねない。
もう私は…リセマラ出来ない。
これを抱えて、生きていかなければならない。
(これは…祝福なんかじゃない)
(ただの…)
(呪い)
(だ)
65536回目の転生で、不死を引いてしまった件




